がん発症リスクを高める遺伝子疾患の大規模ゲノム解析 -リンチ症候群患者への個別化医療の発展に寄与-
- 研究成果
概要
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの水上圭二郎研究員、桃沢幸秀チームディレクター(生命医科学研究センター副センター長)、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターシークエンス技術開発分野の松田浩一特任教授(同大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻クリニカルシークエンス分野教授)、日本医科大学先端医学研究所分子生物学部門の村上善則特命教授、国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野の白石航也ユニット長、同中央病院遺伝子診療部門の平田真部門長、佐々木研究所附属杏雲堂病院遺伝子診療科の菅野康吉科長、愛知県がんセンターの松尾恵太郎分野長らの国際共同研究グループは、大腸がんや子宮体がんなど多様ながんの発症リスクを高めるリンチ症候群[1]の病的バリアント[2]の各がんにおける保持者の割合や病的バリアントを持つ人の臨床的特徴を明らかにしました。
本研究成果は、日本のバイオバンクの検体を用いたリンチ症候群の大規模ゲノム解析であり、遺伝診療の指針作りにつながることが期待されます。
国際共同研究グループは、リンチ症候群の四つの原因遺伝子について、バイオバンク・ジャパン(BBJ)[3]が保有している日本人集団由来の検体において、23種のがんの患者とその対照群[4]の合計11万人以上を対象として、がん横断的ゲノム解析を行いました。その結果、がんごとの各遺伝子の病的バリアントの保持率や発症リスク、病的バリアントの保持者と非保持者の診断年齢による違いなどが明らかになりしました。
本研究は、科学雑誌『Communications Medicine』オンライン版(11月13日付)に掲載されました。

がんごとの四つのDNAミスマッチ修復遺伝子の病的バリアント保持率
[1] リンチ症候群
がんの発症リスクを高める遺伝性疾患の一つで、主に大腸や子宮体への発がんリスクを高めるとされている。DNAミスマッチ修復遺伝子([4]参照)の変異が原因であることが判明している。
[2] 病的バリアント、遺伝的バリアント
遺伝的バリアントは、遺伝子の塩基配列の変化を指し、生物の多様性を生じさせる。また、遺伝的バリアントのうち疾患発症の原因となるものを病的バリアントという。
[3] バイオバンク・ジャパン
日本人集団27万人を対象とした、世界最大級の疾患バイオバンク。オーダーメイド医療の実現プログラムを通じて実施され、ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報と共に収集し、研究者へ提供している。2003年から東京大学医科学研究所内に設置されている。
論文情報
<タイトル>
Pan-cancer prevalence, risk, and clinical and demographic characteristics of Lynch Syndrome-associated variants in BioBank Japan
<著者名>
Keijiro Mizukami, Yoshiaki Usui, Yusuke Iwasaki, Kouya Shiraishi, Makoto Hirata, Yoichiro Kamatani, Mikiko Endo, Satoshi Takahashi, Yoshiki Mochizuki, Mitusyo Yamaguchi, Takashi Kohno, Koichi Matsuda, Kokichi Sugano, Teruhiko Yoshida, Hidewaki Nakagawa, Chikashi Terao, Yuriko N. Koyanagi, Keitaro Matsuo, Yoshinori Murakami, Amanda B. Spurdle, Yukihide Momozawa.
<雑誌>
Communications Medicine
<DOI>
10.1038/s43856-025-01231-9
詳しくは、東京大学医科学研究所ウェブサイトをご覧ください。
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00360.html

