記者発表

虫が動く速さと環境温度との関係

電気通信大学

東京大学

発表のポイント

◆11種のハエの幼虫について、動く速さが種ごとに異なることを発見しました。

◆寒冷な地域の幼虫は遅く動き、温暖な地域の幼虫は速く動く傾向がありました。

◆環境の多様性が、動物の示す多様な運動パターンの進化に寄与してきたことが示唆されます。

発表概要 

電気通信大学 情報理工学域 共通教育部の高坂洋史准教授、東京大学 大学院新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻の能瀬聡直教授らの研究グループは、ショウジョウバエ属に属する11種の幼虫が移動する速さと、各動物種の生息域の気温との間に相関関係があることを発見しました。この成果は英国科学誌BMC Biologyに掲載されました。

発表内容

【背景】

 地球上に生息する動物の動きは、非常に多様です。サバンナを高速に駆け抜けるチーター、草むらをゆっくり歩くリクガメ、水中をおだやかに泳ぐクラゲなど、動物の世界では、様々な速さ、パターンでの動きが見られます。これらの多様性は、多様な環境に適応した進化の結果現れたと考えられています。しかし、運動の多様性と環境の多様性との関係についての、定量的な関係はまだ不明な点が多く残されています。

【手法】

 この研究では、世界中に分布しているショウジョウバエの幼虫に注目しました。理科の教科書に載っているキイロショウジョウバエを含む11種のショウジョウバエの幼虫について、同一条件下での自由行動を撮影し、その運動パターンをマシンビジョンという画像解析手法を用いて解析しました。また、それぞれのショウジョウバエ種の生息域データと、WorldClimという地球環境データベースを組み合わせることで、各種の生息域の気温データを得ました。これらのデータに基づいて統計的な解析を用いることで、各種の幼虫の運動とそれらの生息域の環境温度との関係を調べました。

【成果】

 解析の結果、11種の幼虫の動きは、種間で違いがあることが明らかになりました。従来は、ハエの幼虫の動く速さは、幼虫の大きさと関係すると考えられてきました。しかし、ショウジョウバエ属の幼虫を詳しく調べた結果、幼虫の大きさと運動速度との間には相関関係は認められませんでした。一方、各種の生息域の環境温度が、幼虫の運動速度との間に相関関係を持つことが明らかになりました。具体的には、寒冷な地域に生息するハエの幼虫は遅く移動するのに対し、温暖な地域に生息するハエの幼虫は速く移動していました。この関係は日本の中に限っても観察され、北海道のハエの幼虫に比べて、沖縄のハエの幼虫は速く移動していました。これらの結果から、地球環境における気温の多様性が、動物の運動パターンの多様性に関わることが示唆されました。

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【今後の期待】

 ショウジョウバエの幼虫は、その運動制御のしくみが神経回路レベルで詳しく調べられているとても有用なモデル生物です。今回発見した現象がどのような神経回路の多様化に基づいているのかを明らかにすることで、地球環境に応じた動物行動の適応的な進化が、分子・細胞レベルでどのように進行してきたのかが明らかになると期待できます。

 地球環境問題と、生物多様性問題は、どちらも人類の抱える大きな問題です。本研究は、気温という地球環境の重要なファクターが、動物の運動の多様性と強く関係していることを示唆しました。今後、環境の多様性と、動物行動の多様性との関係の理解がより一層深まることで、地球環境問題と生物多様性問題のより協調的、かつ定量的な分析・解決が可能になると期待できます。

論文情報

著者名:Yuji Matsuo, Akinao Nose, Hiroshi Kohsaka

論文名:Interspecies variation of larval locomotion kinematics in the genus Drosophila and its relation to habitat temperature

雑誌名:BMC Biology

DOI: 10.1186/s12915-021-01110-4

公表日:202192

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環境展望台9/2

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