次世代家庭用エネルギーマネジメントシステムの新たな回路方式と制御の高速化を提案――電力と空調を最適化し、再生可能エネルギーを無駄なく、安定的に活用する実証試験を開始――
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東京大学
発表のポイント
◆次世代家庭用エネルギーマネジメントシステムにおいて、窒化ガリウム(GaN)を用いた新たな回路方式を提案し、コンバータ間の相互干渉を防ぐ制御技術が高速動作時にも安定して機能することを明らかにしました。
◆これらの提案により、実証試験が可能な基盤技術を確立しました。
◆今後、再生可能エネルギーを有効に活用する高効率な住宅エネルギーシステムの実現により、ゼロエミッション社会への貢献が期待されます。

次世代家庭用エネルギーマネジメントシステム『Power & Air Conditioning as a Service(PACaaS)』概略
概要
東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本 博志教授、藤田 稔之客員連携研究員(研究当時:特任准教授)、ヴァイラー ビョルン ペレ特任助教、ダイキン工業株式会社テクノロジー・イノベーションセンター山際 昭雄技師長らによる「EV協調型サーマルシステム工学社会連携講座」は、複数の機器を効率的に連携制御する家庭エネルギーシステム「Power & Air Conditioning as a Service(以下、PACaaS)」(注1)において、窒化ガリウム(GaN)を用いた新たな回路方式を提案し、コンバータ間の相互干渉を防ぐ制御技術が高速動作時にも安定して機能することを明らかにしました。
近年、太陽光発電や電気自動車、ヒートポンプ給湯器などの普及が進む一方で、それぞれが独立して稼働するため、余剰電力の発生や電力損失などが課題となっていました。
本研究グループが以前より開発を行っている複数機器間の相互干渉を抑える独自の制御技術「ダイナミック電流デカップリング制御」(注2)が、1kHz(1ミリ秒)の高速制御時においても安定して動作することを確認しました。さらに、小型で高効率な新たなPACaaSの回路方式を提案し、住宅向けの次世代家庭用エネルギーマネジメントシステムの実用化に向けた技術的基盤を確立しました。
本研究成果は、2026年5月31日から開催された国際会議IPEC2026において公開されました。
発表内容
〈研究の背景〉
エアコンやヒートポンプ給湯器をはじめとした住宅設備の普及が進む中、脱炭素社会の実現に向けて電力を有効に活用することがより重要となっています。住宅分野においても、太陽光発電(PV)を導入した家庭用のエネルギーマネジメントシステム(HEMS、注3)の普及が始まっています。
一方で、現在の住宅では、交流(AC)による電力供給が基本であるため、PVで発電した直流(DC)を交流(AC)に変換する際に、電力の変換ロスが生じることが課題となっています。また、HEMSを通じて複数の住宅設備を同時に運用・制御する場合、需給需要の変動が電圧変動や制御の複雑化につながり、住宅設備の効率的な運転を妨げることも指摘されています。さらに今後、電気自動車(EV)や蓄電池の普及が進むと、住宅内の電力需給はより複雑になり、こうした課題の影響はさらに大きくなると考えられます。
〈研究の内容〉
本研究チームは、システム全体を多入力・多出力(MIMO)システム(注4)として捉え、ダイナミック電流デカップリング制御を適応することで、機器間の相互干渉を理論的に排除しました。これにより、各コンバータ(注5)を独立して制御できるようになり、電流・電圧の応答性と安定性が大幅に向上しました(図1)。また、高速な制御を行う場合においても、応答性や安定性が保たれることを明らかにしました(論文1)。

図1:ステップ応答における電流の変化と指令値であるDutyの変化
1kHz(1ミリ秒)においてもダイナミック電流デカップリング制御が収束し(青)従来制御は発散(赤)であることを確認した。
さらにGaNデバイス(注6)を用いたSplit-Phase EMS(注7)を提案し(図2)、従来と比較して小型のPACaaS基板を作製しました。GaNデバイスは、低い電圧で動作するものが多く、高い電圧を用いるPACaaSへの適応が難しいという課題がありました。本研究では、Active Neutral Point Clamped (ANPC) inverters(注8)の技術を応用することで、基板の小型化に加え、さまざまな機器を接続できる汎用性と高い効率を備えた回路方式を提案しました(図3)(論文2)。

図2:提案するSplit-Phase EMS回路方式

図3:従来型SiCデバイスを用いたEMS(2level)と今回提案するsplit-EMS(3-level)の損失比較
Pcは導通損失、Pswは半導体デバイスのスイッチング損失。今回提案するsplit-EMS(3-level)が従来型EMS(2level)より損失が低い(効率が高い)回路方式であることが分かる。
〈今後の展望〉
本研究グループは、2026年6月より、住宅におけるエネルギー利用の高度化につながる次世代家庭用エネルギーマネジメントシステム『Power & Air Conditioning as a Service(PACaaS)』の有効性を確認する実証試験を、東京大学の柏キャンパスにおいて開始する予定です(写真1)。今後、本研究が目指す、再生可能エネルギーを有効に活用する高効率な住宅エネルギーシステムの開発が進むことで、ゼロエミッション社会への貢献が期待されます。

写真1:東京大学柏キャンパスの実証試験環境
〇関連情報:
プレスリリース①「東京大学とダイキン工業による「産学協創協定」の締結について」(2018/12/17)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0530_00015.html
プレスリリース②「カーボンニュートラルに向けた家庭エネルギーシステムを提案」(2023/3/1)
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/10083.html
プレスリリース③「家庭用エネルギーマネジメントシステムの安定性と応答速度を大幅に向上――コンバータの相互干渉を防ぐ新技術を開発――」(2025/10/21)
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/0028099.html
発表者・研究者等情報
東京大学大学院新領域創成科学研究科
藤本 博志 教授
藤田 稔之 研究当時:特任准教授(現:客員連携研究員)
兼:芝浦工業大学 准教授
ヴァイラー ビョルン ペレ(Pelle WEILER BJORN) 特任助教
ダイキン工業株式会社テクノロジー・イノベーションセンター
山際 昭雄 技師長
論文情報
論文①
発表学会:International Power Electronics Conference2026
題 名:Frequency Domain Performance Analysis of Dynamic Decoupling Current Control in Buck and Boost Multiple Converters
著者名:Toshiyuki Fujita*, Masahiro Mae, Hiroshi Fujimoto, Takayuki Miyajima, Yoshiki Yasuda, Akio Yamagiwa
発表番号:O12-5-01
論文②
発表学会:International Power Electronics Conference2026
題 名:Split-Phase Energy Management System using Low Voltage GaN Devices
著者名:Pelle Weiler*, Toshiyuki Fujita, Hiroshi Fujimoto, Takayuki Miyajima, Yoshiki Yasuda, Akio Yamagiwa
発表番号:O7-7-05
用語解説
(注1)Power & Air Conditioning as a Service(PACaaS)
ダイナミック電流デカップリング制御を用いてPVからのDCをエアコンやヒートポンプ給湯器、蓄電池、電気自動車(EV)用充電器に供給し、一体制御・運用する次世代のHEMSのこと。従来のAC前提のHEMSと比べて、高い安定性と省エネ性を実現する新システム。
(注2)ダイナミック電流デカップリング制御:
エアコンやヒートポンプ給湯器などの一般的な住宅設備は、ACで供給された電力を機器の内部でDCに変換することで、効率よく運転・制御している。ACからDCへの変換は設備の効率的な運転・制御に欠かせない反面、エネルギー損失の原因となっている。「ダイナミック電流デカップリング制御」は、PVなどから得られるDCを住宅設備ごとに適した電圧で安定的に届け、電力の変換ロスを抑える新技術である。
(注3)家庭用のエネルギーマネジメントシステム(HEMS):
家庭内の電力使用状況を「見える化」し、効率的なエネルギー管理を可能にするシステム。家電や住宅設備(エアコン、照明、給湯器、太陽光発電など)と連携し、電力の消費量をリアルタイムで把握・制御することで、無駄なエネルギー使用を抑え、環境負荷の低減と光熱費の節約を実現する。また、再生可能エネルギーの導入や電力の自家消費を促進する役割も担っており、持続可能な社会の実現に貢献している。
(注4)多入力・多出力(MIMO:Multiple Input Multiple Output)
制御理論において、複数の入力信号と複数の出力信号を持つシステムを指す。これは、単一の入力と出力で構成されるSISO(Single Input Single Output)システムに対応した概念であり、複雑な物理現象や工業プロセス、エネルギーシステムなどの多変数制御において広く用いられている。MIMOシステムでは、各入力が複数の出力に影響を与えるため、入力と出力の相互作用(クロスカップリング)を考慮した制御設計が必要である。
(注5)コンバータ:
電力の性質(電圧・電流・周波数・位相など)を用途に応じて変換する装置の総称。電圧・電流・周波数・位相などの条件を接続される機器に合わせる機能を持つ。交流(AC)と直流(DC)の相互変換や、電圧の昇圧・降圧、周波数変換などを行うことで、各種機器に適した安定した電力供給を実現します。インバータやDC-DCコンバータ、整流器などもこの一種であり、産業機器、情報通信機器、家電製品、電気自動車、再生可能エネルギー分野など幅広い分野で不可欠な基盤技術であり、高効率化や小型化の研究進捗により省エネルギー化・環境負荷低減に貢献している。
(注6)GaNデバイス:
半導体材料に窒化ガリウム(GaN)を用いた電子部品の総称で、従来のシリコン(Si)デバイスに比べて高周波・高電圧・高温環境で優れた特性を発揮する。特に電力変換用途においては、スイッチング損失の低減や高効率化、小型・軽量化を実現できるという大きな特長を持つ。電源装置や電気自動車、通信機器、再生可能エネルギー分野などで活用が進んでおり、省エネルギー性能の向上やシステム全体の高性能化に寄与する次世代半導体技術として注目されている。また、高速動作が可能であるため、高密度実装や高機能化を支える重要な基盤技術として期待されている。
(注7)Split-Phase EMS
プラスマイナス電圧と中性点の3本の電圧バスを持つ、3相のANPCインバータを系統連系インバータとモータ制御器、バッテリ変換器と太陽電池変換器はバッテリと太陽電池の電圧レンジに応じて3本のうち2本のバスにつながるDCコンバータを選択して高効率に電力変換が行えるシステムを提案した。バッテリと太陽電池の電圧が高い場合(図2中央のBattery Converter部)は、±電圧に接続する変換器を用いて175Vから350 V程度までの電圧に対応し、175 V以下の場合(図2中央左 PV Converter部)は、+もしくは、-と中性点電圧バスに変換器を構成して変換器の損失を減らす構成となる。
(注8)Active Neutral Point Clamped (ANPC) inverters
中性点クランプ型(NPC)インバータを発展させた電力変換回路で、複数のスイッチ素子を能動的に制御することで電圧分担や損失分布を最適化する方式。従来のNPC構成に比べてスイッチング損失の低減や高効率化が可能であり、高周波動作や出力波形の高品質化にも寄与する。また、素子ごとの負担を均等化できるため信頼性の向上にもつながる。

