記者発表

水分子を「センサー」とした高感度非接触電界計測手法を実証――赤外活性を活用し、分子密度未知の環境への適用を可能に――

投稿日:2026/05/21
  • ヘッドライン
  • 記者発表

東京大学

発表のポイント

◆水分子をプローブ(測定の指標)としたレーザー計測により、5.6 V/mm(ボルト毎メートル)という極めて微弱な電界を非接触で計測することに成功しました。
◆水分子の持つ赤外活性を活用することで、分子密度が未知の雰囲気でも電界を計測できる可能性を示しました。
◆雨滴の形成過程の解明や、効率的な水素製造、プラズマ反応の制御など、水が関わる幅広い科学・技術分野への貢献が期待されます。

全文PDF

概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の弘法堂莉彩大学院生、伊藤剛仁准教授らによる研究グループは、水分子そのものを電界の「センサー」として利用し、空間の電界強度を高感度かつ非接触で測定する手法を開発しました。
本研究では、可視光検出型電界誘起コヒーレントアンチストークスラマン散乱(E-CARSv、注1)を用いることで、水蒸気雰囲気(40 kPa)において従来手法をしのぐ高い感度(検出下限5.6 V/mm)での電界計測に成功しました(図1)。本手法は、水分子の持つ赤外活性(注2)を活用することで、原理的に分子密度の既知・未知に依存せず電界を計測できるという画期的な特性を有しています。
この成果は、水を原料とした水素やアンモニア等の次世代燃料合成プロセスや、気象現象など、水が介在する多様な反応場の精密な解析を可能にするものであり、持続可能な社会を支える技術開発への寄与が期待されます。

0029949_1

図1 水分子E-CARSvの概念図 

発表内容

普遍的な物質である「水」と「電界」が共存する環境は、雲の中での雨滴の成長といった気象現象から、水素・アンモニア合成などの人工的な分子変換プロセスに至るまで、極めて広範に存在します。これらの反応場の理解やプロセス最適化を図るうえでは、その場での精密な電界計測が欠かせません。しかし、大気圧に近く、水が豊富に存在する環境では、水による光の強い吸収等が障壁となり、十分な感度と簡便さを両立した計測手法が不足していました。
本研究グループは、高圧環境下での計測に適した手法として、独自のレーザー電界計測法E-CARSvの開発を進めてきました。これは、中赤外と可視の二本のレーザーを入射し、電界強度に依存して新たに発生する可視光のシグナルを検出する手法です。本研究では、この手法のプローブとして、初めて「水分子」を採用しました。
実験の結果、約0.4気圧(40 kPa)の水蒸気雰囲気において5.6 V/mmという微弱な電界の検出に成功しました。分子密度などを考慮すると、今回の実験条件のような典型的な高密度水蒸気雰囲気において、電界誘起第二高調波発生(E-FISH、注3)等の他手法(ホモダイン検出などを用いない同様の構成で比較)をしのぐ感度を持つと考えることができます。また、水分子のE-CARSvシグナル光の強度は、図2に示すように従来のプローブ分子(水素や窒素など)では見られなかった分子密度に対する山なりの依存性を示しました。

0029949_2

図2:水分子E-CARSvの分子密度依存性

この現象は、入射する中赤外レーザーが水分子に吸収される効果と、非線形光学効果によるシグナル発生のバランスによって生じます。この吸収を観測することで、電界計測と同時に分子密度を算出できる可能性が見出されました。従来のE-CARSvなどにおける「分子密度が不明な環境では正確な電界が測れない」という課題を克服する重要なブレークスルーです。
本成果は、水電解による水素製造やプラズマを用いた物質変換などの高度な制御・最適化への寄与が期待されます。今後はレーザーの狭帯域化などを通じ、さらに複雑な反応場への適用を目指します。

関連情報

「新たな非線形ラマン効果を用いた、検出下限を1桁程度下げる電界計測手法を開発~プラズマプロセスの更なる高度化に向けて~」(2022/7/14)
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/science/9555.html

発表者・研究者等情報                                        

東京大学大学院新領域創成科学研究科
 弘法堂 莉彩 修士課程
 伊藤 剛仁 准教授

論文情報                                          

雑誌名:Applied Physics Letters
題 名:Sensitive remote electric field measurements using water vapor as a molecular probe(5月19日付掲載)
著者名:Lisa Kobodo, Takeru Koike, David Z. Pai, Hitoshi Muneoka, Kazuo Terashima, and Tsuyohito Ito*
DOI: 10.1063/5.0325121
URL: https://doi.org/10.1063/5.0325121

研究助成

本研究は、科研費「JP24H00036」、「JP21H04450」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)可視光検出型電界誘起コヒーレントアンチストークスラマン散乱(E-CARSv):
計測対象に存在するプローブ分子のラマン活性な遷移に対応する波長の中赤外レーザーと、可視光のレーザーを電界中に入射することで、電界強度に依存した強度の可視光シグナルが得られることを利用した電界計測手法。

(注2)赤外活性:
分子が赤外線を吸収して振動する性質のこと。分子振動に伴って電気的な偏りが変化する場合に現れる。

(注3)電界誘起第二高調波発生(E-FISH):
レーザーを電界中に入射することで、シグナル強度が電界の強度に依存した二倍波が発生することを利用した電界計測手法。

関連研究室

新領域創成科学研究科 伊藤研究室

お問合せ

新領域創成科学研究科 広報室

  • X
  • Facebook