記者発表

ゴルジ体由来の脂質がオートファジーの開始に必須であることを解明 ――ホスファチジルイノシトール4-リン酸がAtg9小胞を介してオートファジー開始を制御――

投稿日:2026/05/11
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東京大学


発表のポイント

◆ゴルジ体に局在するホスファチジルイノシトール4-キナーゼであるPik1が生成するリン脂質ホスファチジルイノシトール4-リン酸が、オートファジーの初期構造の形成に必須であることを明らかにしました。
◆ホスファチジルイノシトール4-リン酸がAtg9小胞上に濃縮されていること、およびこの濃縮がPik1の活性に依存していることを生化学的手法により示しました。
◆がん、神経変性疾患などのオートファジー関連疾患の理解や治療法開発への貢献が期待されます。
全文PDF

概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の郎 慧超大学院生と鈴木 邦律教授は、出芽酵母(注1)を用いた研究により、ゴルジ体(注2)に局在するホスファチジルイノシトール4-キナーゼ(注3)であるPik1が生成するリン脂質(注4)ホスファチジルイノシトール4-リン酸(PtdIns4P、注5)が、オートファジー(注6)の初期段階で形成されるオートファゴソーム前駆体(PAS、注7)の組織化に必須であることを明らかにしました。
Pik1の機能が失われた変異細胞では、Atg9Atg17などのPASの足場を構成するタンパク質は正常に集積するものの、PtdIns 3-キナーゼ複合体IAtg2-Atg18複合体、Atg8といった下流のAtgタンパク質の集積が障害されることを発見しました。さらに、免疫沈降実験(注8)により、PtdIns4PAtg9小胞(注9)上にPik1依存的に濃縮されていることを示しました。本成果は、オートファジーにおけるPtdIns4Pの具体的な機能を解明するものであり、オートファジー関連疾患の理解に貢献することが期待されます。


本研究で提唱するモデル
Pik1PtdIns4Pの合成を介してPAS形成を行う。Pik1が働くとPtdIns4Pが合成されるのでPAS形成が正常に起きオートファジーが進行する。Pik1が働かないとPtdIns4Pの合成ができなくなるので、PAS形成ができなくなり、オートファジーが進行しない。

発表内容

オートファジーは細胞内の不要物を分解・リサイクルする仕組みであり、その異常はがんや神経変性疾患と関連していると考えられています。オートファジーは、リン脂質の二重膜からなるオートファゴソームが形成されることで進行し、その最初期の過程ではまずAtgタンパク質が液胞膜上に集積してPASを形成し、そこから隔離膜が伸展します。これまで、リン脂質の一種であるPtdIns4Pがオートファジーに必要であることは知られていましたが、その具体的な役割は不明でした。
本研究では、ゴルジ体に局在するホスファチジルイノシトール4-キナーゼであるPik1の温度感受性変異株(注10)を用いて、制限温度でPik1の機能を一時的に不活化し、PtdIns4Pのオートファジーにおける役割を解析しました。まず、蛍光タンパク質を融合させた各Atgタンパク質の局在を蛍光顕微鏡で観察した結果、制限温度下でもAtg9Atg17Atg1Atg13といったPASの足場を構成するタンパク質の集積は正常に起こることがわかりました。一方で、PtdIns 3-キナーゼ複合体Iの構成因子であるAtg14、脂質輸送を担うAtg2-Atg18複合体の構成因子であるAtg18、および隔離膜の伸長に必須のユビキチン様タンパク質Atg8PASへの集積が顕著に減少することを発見しました。この結果は、PtdIns4PPAS上での足場構築の後に起こる下流のAtgタンパク質の階層的な集積に必要であることを示しています。さらに、PtdIns4Pに結合するドメインを細胞内で発現させ、免疫沈降実験を行ったところ、PtdIns4Pを含む膜画分とともにAtg9が共沈降されました。制限温度下のpik1変異体ではこの共沈降が消失したことから、Atg9小胞上へのPtdIns4Pの濃縮がPik1の活性に依存していることが明らかになりました。
この結果は、ゴルジ体で生成されたPtdIns4PAtg9小胞に乗ってPASへ運ばれ、下流タンパク質の集積を促進するという新たな分子機構を提唱するものです。また、Pik1変異細胞では隔離膜の伸長も障害されることから、PtdIns4PPAS形成を介して隔離膜伸長に重要な役割を担うことが明らかになりました。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院新領域創成科学研究科
 鈴木 邦律 教授
 郎 慧超(Huichao Lang) 博士課程

論文情報

雑誌名:Journal of Biological Chemistry
題 名:Golgi-derived phosphatidylinositol 4-phosphate is crucial for organization of the preautophagosomal structure56日付掲載)
著者名:Huichao Lang, Kuninori Suzuki*
DOI: 10.1016/j.jbc.2026.111445
URL: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2026.111445

研究助成

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST研究領域「細胞内現象の時空間ダイナミクス(課題番号JPMJCR20E3)」ならびに科研費「新学術領域研究(課題番号:20H05313)」、「基盤研究(B)(課題番号:22H02569)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae):パン酵母や清酒酵母としても知られる単細胞の真核微生物で、細胞分裂の際に母細胞から小さな芽が出て娘細胞が生じることからこの名がある。真核細胞の基本的な仕組み(タンパク質の合成・輸送、細胞周期、オートファジーなど)が他の生物と共通しているため、細胞生物学や遺伝学のモデル生物として広く用いられている。遺伝子操作が容易であることも大きな利点である。


(注2)ゴルジ体:真核細胞に存在する細胞小器官の一つで、扁平な膜の袋が重なった層板構造をとる。小胞体で合成されたタンパク質を受け取り、糖鎖付加などの修飾を行った後、細胞膜やリソソームなど目的の場所へ小胞に包んで送り出す「仕分け・発送センター」として機能する。脂質の輸送にも関与する。

(注3)ホスファチジルイノシトール4-キナーゼ:リン脂質ホスファチジルイノシトール(PtdIns)のイノシトール環の4位をリン酸化する酵素。出芽酵母ではPik1(ゴルジ体に局在)とStt4(細胞膜に局在)の2種類が存在し、いずれも細胞の生存に必須である。それぞれ異なる場所でPtdIns4Pを生成し、膜輸送やシグナル伝達を制御する。

(注4)リン脂質:グリセリンに2本の脂肪酸鎖とリン酸基が結合した脂質分子の総称。細胞膜の主要な構成成分であり、親水性のリン酸基を外側に、疎水性の脂肪酸鎖を内側に向けた脂質二重層を形成する。ホスファチジルイノシトールなど、一部のリン脂質はリン酸化修飾を受けてシグナル伝達や膜輸送の調節に重要な役割を果たす。

(注5)ホスファチジルイノシトール4リン酸(PtdIns4P):細胞膜を構成するリン脂質の一種で、リン脂質ホスファチジルイノシトールの中のイノシトール環の4位がリン酸化された分子。ゴルジ体や細胞膜に局在し、膜輸送やシグナル伝達に重要な役割を果たす。

(注6)オートファジー:細胞内の不要なタンパク質や損傷した細胞小器官を二重膜構造(オートファゴソーム)で包み込み、リソソーム(酵母では液胞)で分解・リサイクルする仕組み。2016年にノーベル生理学・医学賞の対象となった。

(注7)オートファゴソーム前駆体(PAS; preautophagosomal structure):オートファゴソーム形成の最初期に、液胞膜近傍に形成される構造体。オートファジー関連(Atg)タンパク質が階層的に集積する足場として機能し、ここから隔離膜が伸長してオートファゴソームが形成される。出芽酵母では、Atg9小胞やAtg17などの足場タンパク質が集積することでPASが組織化される。

(注8)免疫沈降実験:特定のタンパク質に対する抗体を用いて、細胞溶解液の中から目的のタンパク質とそれに結合している分子(タンパク質や脂質など)を選択的に回収する生化学的手法。本研究では、PtdIns4Pに結合するタンパク質に対する抗体を用いて、PtdIns4Pを含む膜とAtg9が共に回収されるかを調べた。

(注9Atg9小胞:オートファジーに必須の膜貫通タンパク質Atg9を含む、直径3060 nmの小さな一重膜の小胞。ゴルジ体に由来し、細胞質内で激しく動き回る。オートファジー誘導時には数個のAtg9小胞がPASに集積し、オートファゴソーム形成の「種」として機能すると考えられている。

(注10)温度感受性変異株:特定のタンパク質をコードする遺伝子に変異を導入することで、低温の許容温度(例:25℃)では正常に機能するが、高温の制限温度(例:38℃)ではタンパク質が機能を失うようにした変異体。温度を切り替えるだけで目的のタンパク質の機能を迅速かつ可逆的に制御できるため、生存に必須な遺伝子の機能解析に広く用いられる。本研究ではPik1の温度感受性変異株を用い、制限温度へ移行させることでPtdIns4Pの生成を一時的に停止させ、オートファジーへの影響を解析した。

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