記者発表

白血病の進行と先天性骨髄不全の発症を制御する新たなメカニズムを解明 ――転写因子MECOMとGATA2の「機能的競合」が造血異常の鍵を握る――

投稿日:2026/05/11
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東京大学

発表のポイント

◆難治性白血病原因遺伝子MECOMC末端領域が主要なDNA結合部位であること、そしてMECOMCtBPと協調して転写因子GATA2の活性を抑え、細胞分化を抑制することを見出しました。
MECOM関連症候群で検出されるMECOM変異の本質が「DNA結合能の喪失」であることを証明し、患者病態を再現する新規疾患モデルマウスを確立しました。
◆本研究成果と開発したモデルマウスは、難治性白血病や先天性骨髄不全症候群の病態解明を加速させることが期待されます。

MECOM関連症候群の病態解明とマウスモデルの作製 

全文PDF

概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻先進分子腫瘍学の合山進教授、山本圭太助教、飯田孝平大学院生(研究当時)、中西繭子大学院生らによる研究グループは、転写因子MECOM(注1)の機能と、その変異が引き起こすMECOM関連症候群の主要な病態である骨髄不全(注2)の発症メカニズムを解明しました。
本研究では、MECOMC末端領域がDNA結合において重要な部位であり、患者で見られる変異がこの結合能を喪失させることを突き止めました。さらに、MECOMが転写コリプレッサーCtBP(注3)と共に別の転写因子GATA2(注4)と競合してマスト細胞(注5)分化を抑制し、白血病化を促進することを発見しました。また、患者の遺伝子変異を再現した新規モデルマウスを作製し、造血幹細胞やB細胞の減少といった臨床症状を個体レベルで再現しました。
本成果は、これまで謎に包まれていた難治性の白血病や骨髄不全症候群の病態解明を大きく前進させ、将来的な新規治療法の開発に貢献することが期待されます。

発表内容

MECOMは、正常な造血幹細胞の維持に不可欠な転写因子ですが、過剰発現すると急性骨髄性白血病(AML、注6)などの難治性血液がんを引き起こします。一方で、MECOMC末端ジンクフィンガードメイン(C-ZFD、注7)に先天的な遺伝子変異が生じると、重篤な骨髄不全や骨格異常を伴う「MECOM関連症候群」を発症することが知られています。しかし、これらの変異がどのようにして病態を引き起こすのか、その詳細な分子メカニズムはこれまで明らかになっていませんでした。
本研究グループは、MECOMのさまざまな変異体を用いた生化学的解析および網羅的ゲノム解析を行いました。その結果、これまで機能が不明瞭であったC-ZFDが、MECOMがゲノムDNAに結合するための「主要なDNA結合モジュール」であることを突き止めました。そして、患者で見られるC-ZFDの変異(R750Wなど)は、このDNA結合能を完全に喪失させる「機能喪失型(loss-of-function)」の変異であることを証明しました。
さらに、MECOMが白血病化を促進するメカニズムとして、マスト細胞分化のマスターレギュレーターである転写因子GATA2と機能的に競合していることを見出しました。正常なMECOM(野生型MECOM)は、C-ZFDを介してDNAに結合して転写コリプレッサーCtBPを呼び寄せることで、GATA2の働きを阻害します。これにより細胞分化が強力に抑制され、未分化な白血病状態が維持されることが明らかになりました(図1)。実際にGATA2の機能を抑えると、変異型MECOMでも白血病化のプロセスが部分的に回復することが確認されました。

1 MECOM-GATA2競合による造血制御
野生型(WT)MECOMGATA2と競合し、転写コリプレッサーCtBPと共にマスト細胞関連遺伝子の発現を抑制し、白血病発症を促進する。MECOM関連症候群で見つかるDNA結合低下型(R750WC766G)CtBP結合不能型(DL/AS)の変異型MECOMは、GATA2によるマスト細胞分化促進を抑制できない。

また、本研究では患者の遺伝子変異を模倣した新規ノックインマウス(注8)モデル(Mecom WT/R751W)の作製にも成功しました。このマウスを解析したところ、造血幹細胞やB細胞の減少など、実際のMECOM関連症候群の患者で観察される臨床症状を個体レベルで再現していることが確認されました(図2)。

2:野生型及び変異型MECOMの機能解析
A.機能解析に用いた野生型(WT)及び変異型MECOMCtBP結合不能型(DL/AS, AS/AS)C末端Zinc Finger Domain(ZFD)変異型を用いた。B. 野生型および変異型MECOMをマウス骨髄細胞に導入し、半固形培地で培養した。野生型MECOMは骨髄細胞を不死化させたが、変異型MECOM導入細胞はマスト細胞等に分化した。C. 野生型MECOMのみがCEBPAプロモーターの活性を抑制した。D. 野生型MECOMと比べ、R750W変異のDNA結合能は大きく減弱していた。

本研究により、長年の謎であったMECOM変異による骨髄不全のメカニズムと、MECOM-GATA2経路を介した白血病化の分子基盤が解明されました。今回確立された疾患モデルマウスは、骨髄不全症候群のさらなる病態解明に役立つ貴重なツールとなります。また、MECOMCtBPの相互作用やGATA2の活性を調節することが、難治性白血病に対する新たな治療戦略となることが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 先進分子腫瘍学分野
 合山 進 教授
 山本 圭太 助教
 飯田 孝平 研究当時:博士課程
  現:自治医科大学再生医学研究部 特任研究員
 中西 繭子 博士課程
  グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成(SPRING GX)採用者

論文情報

雑誌名:Leukemia
題 名:MECOM promotes leukemia progression and inhibits mast cell differentiation through functional competition with GATA255日付掲載)
著者名:Kohei Iida, Mayuko Nakanishi, Jakushin Nakahara, Shuhei Asada, Tomoya Isobe,Tomohiro Yabushita, Tsuyoshi Fukushima, Yosuke Tanaka, Manabu Ozawa,Yasuhiro Yamada, Toshio Kitamura, Keita Yamamoto, Susumu Goyama*
DOI: 10.1038/s41375-026-02977-4
URL: https://doi.org/10.1038/s41375-026-02977-4

研究助成

本研究は、科研費「基盤研究B(課題番号:JP23K24360)」、「挑戦的研究(萌芽)(課題番号:JP24K22128)」、「国際共同研究強化(B)(課題番号:JP22KK0127)」、「基盤研究A(課題番号:JP20H03537)」、「若手研究(課題番号:JP24K19216)」、「日本学術振興会 特別研究員奨励費(DC1)(課題番号:JP24KJ0970」、AMED(課題番号:22ck0106644s020223ama221514h0002)、第一三共生命科学研究振興財団、ノバルティス科学振興財団、持田記念医学薬学振興財団、上原記念生命科学財団の支援により実施されました。

用語解説

(注1MECOM
造血幹細胞の維持、増殖に必須な転写因子。過剰発現は難治性の急性骨髄性白血病の原因となる。最近、骨髄不全や骨格異常を主徴とする遺伝性疾患で変異が見つかった。MECOM変異例を総称してMECOM関連症候群と呼ぶ。

(注2)骨髄不全
血液の細胞(白血球、赤血球、血小板)を産生する骨髄の機能が低下し、十分な血液が作られなくなる状態。

(注3CtBP
遺伝子の働きを抑える役割を持つタンパク質(転写共抑制因子)。MECOMは特定のDNA配列に結合した後、このCtBPを呼び寄せることで、標的となる遺伝子の発現を強力に抑制する。

(注4GATA2
血液細胞の発生や分化に重要な役割を果たす転写因子。特に造血幹細胞の維持やマスト細胞への分化に不可欠である。本研究により、MECOMと機能的に競合(拮抗)関係にあり、白血病化の鍵を握る因子であることが判明した。

(注5)マスト細胞
肥満細胞とも呼ばれる免疫細胞(白血球)の一種で、アレルギー反応や免疫応答において重要な役割を果たす。本研究では、MECOMが転写因子GATA2の働きを阻害することで、このマスト細胞への分化を強力に抑制することが明らかになった。

(注6)急性骨髄性白血病(AML
血液のがんの一種。未熟な血液細胞(白血病細胞)が骨髄内で異常に増殖し、正常な造血が阻害される疾患。進行が早く早急な治療が必要となる。特にMECOMの過剰発現を伴うタイプは、治療抵抗性で予後が悪いことが知られている。

(注7)ジンクフィンガードメイン(ZFD
タンパク質がDNARNAなどと結合する際に機能する特有の立体構造(ドメイン)のこと。亜鉛(ジンク)イオンを介して指(フィンガー)のような形をとることから名付けられた。MECOMはこの構造を介して特定のDNA配列に結合する。

(注8)ノックインマウス
ゲノム編集技術などを用いて、マウスの特定の遺伝子座に目的の変異や配列を意図的に組み込んだ(ノックインした)実験用マウス。本研究では、人間のMECOM関連症候群の患者と同じ遺伝子変異を持つマウスを作製し、生体レベルでの病態解明に用いた。

関連研究室

新領域創成科学研究科 合山 進 研究室

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