火星で起きた「季節外れ」の水消失――ロケットダストストームで水が宇宙へ失われる――
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東京大学
東北大学
発表のポイント
◆火星で水が宇宙空間へ消失する新しい経路を発見しました。
◆これまで火星の北半球の春〜夏は、大気温度が低く、水が雲(氷)になりやすいため、水蒸気が上空まで運ばれにくいと考えられてきました。ところが本研究では、局所的な砂嵐が起こると大気が一時的に温まり、水蒸気が高高度まで運ばれて、水が宇宙空間へ消失する事を明らかにしました。
◆火星の水消失は、季節だけで決まるのではなく、局所的な砂嵐によって季節外れにも起こり得る事を意味します。

火星における静音時(左)と砂嵐時(右)の比較
静音時は大気温度が低く雲になりやすいため、上空まで水蒸気が到達しない一方、砂嵐時は大気温度が上昇し雲を押し上げ、水が宇宙空間へ消失する。
概要
東京大学大学院新領域創成科学研究科のAdrian Brines特別研究員と、青木翔平講師(兼:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻 准教授)らの研究グループは、複数の火星探査機の観測データを用いて、これまで南半球の夏に主に起こると考えられてきた「高高度での水蒸気増大」が、季節外れの北半球の夏にも生じることを発見し、水が宇宙へ逃げる新たな経路を見いだしました。観測データによると、火星年37年(2023年8月)に発生した強く局所的で短時間の砂嵐がダストを上空へ供給し、大気を加熱します。その結果、通常なら水蒸気が雲(氷)になってしまうのが抑えられ、水蒸気がより高い高度へ運ばれることが分かりました。嵐の数日後には、北半球の高緯度域の高度40 kmで水蒸気量の増加が観測され、続いて宇宙へ逃げる水素の増加も検出されました。これまで全球規模の大きな砂嵐でのみ顕著とされてきた高高度での水蒸気増大と水の宇宙散逸が、より小さな嵐でも起こり得ることは、火星にかつて大量に存在した水の行方を見積もるうえでも重要です。今後、日本のMMX火星探査計画など新たな観測により、局所的な砂嵐の発生メカニズムや頻度が明らかになることで、火星の水消失の全体像の解明が進むと期待されます。
発表内容
火星はかつて、現在の地球のように比較的温暖で、地表に液体の水が存在した惑星だったと考えられています。しかし、どのようにして現在の寒冷乾燥な惑星へ変わったのか、その「水の消失過程」には未解明な点が残っています。近年の観測から、南半球の夏には大気が暖かく砂塵(ダスト)も多いため、水蒸気が雲(氷)として凝結しにくく、高高度まで到達しやすいことが分かってきました。高い高度に達した水は、水素原子の形で宇宙へ逃げる(散逸する)ことで、火星は水を失うと考えられています。
研究グループは、欧州の火星探査機ExoMarsの観測データを解析し、従来の常識とは反対の季節にあたる北半球の夏にも、高高度で水蒸気が増大する事例を発見しました(図1)。さらに、複数の火星探査機の観測(ダスト量、大気温度、上層での水素原子量など)を突き合わせて検証したところ、火星年37年(2023年8月)に、強く局所的で短時間の砂嵐、いわゆるロケット・ダストストームが同時期に発生していたことが分かりました(図2)。

図1:火星年35(左)と火星年37(右)の北半球夏における水蒸気組成比[ppm]の緯度(横軸)-高度(縦軸)分布
欧州火星探査機ExoMarsTGOの赤外分光装置NOMADの観測データ解析から得られた。火星年37では、水蒸気組成比が高緯度の中層大気で顕著に増大していることが見て取れる。

図2:2023年8月21、22日に火星で発生した局所的な砂嵐
米国火星探査機MROの撮像装置MARCIの異なる波長の画像(437、546、604 nm)からカラー画像を合成した。
解析によれば、砂嵐で巻き上げられたダストは太陽光を吸収して大気を一時的に加熱します。この加熱により、通常なら上空へ運ばれる途中で雲(氷)になってしまう水蒸気の凝結が抑えられ、水蒸気がより高い高度まで到達しやすくなります。実際に、嵐の発生から数日後には北半球高緯度域の高度40 kmを超える領域で水蒸気濃度の増加が観測されました。続いて、外気圏の下端付近で宇宙へ逃げる水素の増加も検出され、局地的な砂嵐が水の宇宙散逸を実際に押し上げたことが示されました。
これまで水散逸の顕著な増大は、全球規模の大規模砂嵐の際に主に知られていました。本研究は、より小規模な局地砂嵐でも同様の過程が起こり得ることを明らかにし、火星の水散逸が特定の季節に限られない可能性を示しています。
2026年度の打ち上げを予定する日本の火星衛星探査計画MMXでは、火星衛星の探査に加えて、火星とその周辺空間を観測し、大気の物質循環や散逸、さらには気候変動に関わる過程の解明を目指しています。こうした観測を通じて、局所的な砂嵐の発生メカニズムや頻度を詳しく調べることで、火星の水消失の全体像に迫れると期待されます。
〇関連情報:
「想像×科学×倫理」ワークショップ: 地球はいかに地球であるのか:南極と火星からたどる地球の条件」(2025/12/16)
https://rinri.edu.k.u-tokyo.ac.jp/2025/1st
「火星にあった「海」はなぜ消失した?」(2024/06/17)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z0508_00043.html
発表者・研究者等情報
東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻
青木翔平 講師
兼:東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻 准教授
Adrian Brines(アドリアン ブリネス) JSPS外国人特別研究員
論文情報
雑誌名:Communications Earth & Environment
題 名:Out-of-season water escape during Mars’ northern summer triggered by a strong localized dust storm
著者名: Adrián Brines*, Shohei Aoki*, Frank Daerden, Michael Chaffin, Samuel Atwood, Susarla Raghuram, Bruce Cantor, Yannick Willame, Loïc Trompet, Geronimo Villanueva, Michael Wolff, Michael Smith, Christopher Edwards, Ian Thomas, Giuliano Liuzzi, Lori Neary, Manish Patel, Miguel Angel Lopez-Valverde, AnnCarine Vandaele, Armin Kleinboehl, Hoor AlMazmi, James Whiteway, Bojan Ristic, Giancarlo Bellucci
DOI: 10.1038/s43247-025-03157-5
URL: https://doi.org/10.1038/s43247-025-03157-5
研究助成
本研究は、科研費「課題番号:25KF0184」、「24K21565」、「22K03709」、「22H05151」、「22H00164」、「22KK0044」、の支援により実施されました。

