ニュース

有機半導体トランジスタの高速応答特性と微細化度の超系統的解析に成功 -高速有機半導体集積回路の設計指針を確立-

発表のポイント

◆集積回路中ではトランジスタのON/OFF 状態をスイッチすることで論理演算が可能となるため、トランジスタの動的特性を予想することは集積回路設計において重要な課題です。

◆今回、数マイクロメートルレベルで微細加工した有機トランジスタを製造し、デバイス構造と動的特性を系統的に評価した結果、有機トランジスタの高速応答特性をモデル化することに成功しました。

◆これまで未解明であった有機トランジスタの高速応答特性をモデル化したことで、将来、有機集積回路の大規模化・微細化に明確な見通しが立ち、社会実装可能になると期待されます。

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 1、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点WPI-MANAの共同研究グループは、数マイクロメートルレベルで微細加工した有機トランジスタアレイを製造し、デバイス構造と動的特性(周波数依存性)を系統的に調査しました。その結果、有機トランジスタの高速応答特性をモデル化することに成功しました。定式化したモデルに従い適切に設計された有機トランジスタにおいて、同研究グループがこれまでに有していた世界記録を更新し( 2)、世界最速となる 45 MHz の遮断周波数( 3)を達成しました。

本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications2020 9 24 日版に掲載されました。日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金「単結晶有機半導体中電子伝導の巨大応力歪効果とフレキシブルメカノエレクトロニクスJP18J21908研究者代表者:竹谷 純一)の一環として行われました。

発表内容

[背景]

トランジスタは信号のスイッチングを担う最も重要な電子素子です。本研究グループはトランジスタを構成する半導体層に有機半導体単結晶を用いた高性能デバイスを世界に先駆けて研究してきました。有機半導体は、有機溶媒に溶かしたインクから印刷プロセスを用いて柔軟性のあるデバイスを作製できることから、次世代半導体材料として期待されています。本研究グループではこれまでに、厚さわずか数分子層(10 ナノメートル程度)からなる有機半導体単結晶超薄膜を大面積で塗布可能な印刷手法を開発しました(注 4)。このような高品質の有機単結晶薄膜では、10 cm2/Vs を超える高い移動度(注 5)が実現されており、有機トランジスタの高速化に極めて有望でした。

集積回路中のトランジスタは、決められた動作周波数に追従して常に ON/OFF 状態がスイッチングしながら、論理演算をしています。したがって、各トランジスタの動的な特性をあらかじめ予想することは、大規模な集積回路を設計する上で非常に需要な課題でした。シリコンを基盤材料とした集積回路においては、移動度などの物性値とデバイスの構造を一意に定めることで、トランジスタの動的な周波数特性を曖昧さなく予想できます。しかしながら、大規模な集積回路の設計ガイドラインとなるトランジスタの動的応答モデルは、有機半導体トランジスタにおいては未解明でした。これは、遮断周波数や移動度などのデバイスパラメータとデバイスの微細度の相関が明らかになっていなかったためです。

[手法と成果]

このような課題を解決するため、本研究グループは数マイクロメートルレベルで微細加工した有機半導体トランジスタアレイを製造し(図 1)、デバイス構造と動的特性を系統的に評価しました。有機半導体トランジスタの微細化度を変化させながら、遮断周波数や移動度などのデバイスパラメータを系統的に調査するためには、大面積にわたり非常に均質で良質な薄膜を製造する必要がありました。本研究グループが開発した大面積有機半導体単結晶超薄膜と成熟した微細加工技術によって、今回初めてこのような超系統的解析が可能となりました。その結果、有機トランジスタの高速応答特性をモデル化することに成功しました。シリコン半導体で確立されていた既存のモデルに、有機トランジスタに特有の接触抵抗(注 6)の効果を取り入れる新しいモデルを定式化することに成功しました。このモデルでは、接触抵抗の影響を考慮した上でのデバイスの微細度を表す"面積因子"を用いて、直感的に動的特性を予想することが可能です(図 2)。また、このモデルに従い、適切なデバイス構造を有する有機トランジスタを作製したところ、同研究グループがこれまでに有していた世界記録を更新し(注 7)、世界最速となる 45 MHz の遮断周波数を達成しました。

[今後の展望]

このモデルは有機トランジスタのさらなる高速化・微細化における明確なガイドラインとなると同時に、動的な環境下で動作するさまざまな電子素子(増幅素子や整流素子)などの設計に有用となること期待されます。

発表雑誌

雑誌名:「Nature Communications」(オンライン版:9 24 日)

論文タイトル:Correlation between the static and dynamic responses of organic single- crystal field-effect transistors

著者:Taiki Sawada, Akifumi Yamamura, Mari Sasaki, Kayo Takahira, Toshihiro Okamoto,

Shun Watanabe*, and Jun Takeya*

DOI 番号:10.1038/s41467-020-18616-0

発表者

澤田 大輝(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 修士課程 2 年生)

渡邉 峻一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授/

産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員)

竹谷 純一(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授/

連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター(MIRC)特任教授/産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員/物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANAMANA 主任研究者(クロスアポイントメント))

用語解説

(注 1)産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ:

平成 28 6 1 日、東大柏キャンパス内に設置した産総研と東大の研究拠点。相互のシーズ技術を合わせ、産学官ネットワークの構築による「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化や、先端オペランド計測技術を活用した生体機能性材料、新素材、革新デバイスなどの産業化・実用化のための研究開発を行っている。

(注 2)東京大学プレスリリース 2020 2 6 http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry819

(注 3)遮断周波数:

トランジスタは入力信号をある係数を持って増幅し、出力する機能を有する。その増幅が得られなくなる周波数を遮断周波数と定義する。

(注 4

J. Takeya, et al., Science Advances 2018 http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry625/

Scientific Reports 2019 http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry777/

(注 5)移動度:

電場により電荷が移動する際の移動しやすさを表す量。IoT デバイスの動作には 10cm2/Vs 以上の移動度が望ましい。

(注 6)接触抵抗:

金属と半導体の界面の抵抗。接触抵抗が大きくなると、トランジスタの動作周波数が低くなる。IoT デバイスの動作には 100 Ωcm 以下が望ましい。

(注 7)東京大学プレスリリース 2020 2 6 http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry819

添付資料

2022fig1.png

図1:作製した有機半導体トランジスタアレイの模式図と顕微鏡像。

2022fig2.png

2:実測した遮断周波数の面積因子依存性。微細化度の異なる(面積因子の異なる)全てのトランジスタの遮断周波数がモデルから予想される理論線(赤線)上にプロットできる。