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【創成インタビューシリーズ】佐藤弘泰教授 かつての虫取り少年は微生物の力で下水道の未来に挑む

投稿日:2023/09/06 更新日:2023/10/17
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千葉県市川市にある菅野終末処理場内に設置した下水の実験装置
下水管路内にスポンジ状の浄化材料を敷き詰めた状態を再現。浄化原理の解明や設計方法を検討し、下水管の中での水質浄化手法の確立を目指す。

創成41号の特集は「水の新たな価値を探れ より良い社会システムを目指して」。新領域創成科学研究科の本拠地、東京大学柏キャンパスで行われている「水」に関する研究について幅広く紹介しています。

41号特集の監修を務めた社会文化環境学専攻の佐藤弘泰教授は、下水管の中での水質浄化を促進する「管路内浄化」の開発に取り組んでいます。また、下水の浄化に関わる微生物の働きについて、遺伝子レベルでの解析を行っています。 

このシリーズでは、研究者になるまでをテーマに、創成特集監修者へのインタビューを掲載しています。

――子供の頃は何が好きでしたか。

小学生の頃は虫取りが大好きでした。アブラゼミとかバッタとかをよく採りに行っていましたね。
それと、読書も好きで図書館でたくさんの本を読みました。特に記憶に残っているのは「クマゼミの島(動物の記録 6)」(島本 寿次著、学習研究社、1972)。瀬戸内海の小さな島の中学校で、全校生徒10人と理科教師が取り組んだクマゼミの研究を記したものです。この研究は今も私の中に鮮明に記憶に残っていて、私の観察する姿勢は、この本が基礎になっているように思います。
中学になり急に勉強が難しくなって、一生懸命勉強も頑張りました。今振り返ると、中高生時代は、何かにとりつかれていたように勉強をしていた気がします。そんな中で、理科だけは他の教科と存在が違ったんです。学ぶことがとても楽しかったですね。

――大学は東京大学工学部都市工学科に進学されましたね。

中高生時代に時刻表にはまっていて、鉄道関係のことをやりたいと思っていました。交通工学をやりたくて工学部都市工学科に進みました。都市工学は都市全体を考える学問なのですが、いざ入ってみると、私には規模が大きく華やかすぎると思い、その先の研究対象をどうするか悩み始めました。
その頃、日本国内で下水道整備が進み始め、「全国の下水道普及率を100%にするぞ!」と熱気に満ちていた時代でした。下水処理に関する研究者や技術者も必要とされていて、興味を持ち始め、研究室は衛生工学の研究室を選びました。そこから私の研究生活が始まりました。

大学生時代は有機物やリンを貯蔵する能力を持っている微生物を活用して、下水からリンを除去する技術について研究をしていました。都市工学という大きなものを扱う分野の中で小さな微生物の働きを調べるのは、地図と顕微鏡を一度に見ているようで面白かったです。大学院も環境・衛生工学コース(現:都市環境工学コース)に進みました。
都市環境工学分野は実験室も院生室も研究室間の壁がなく、他の研究分野の学生や留学生も身近にたくさんいました。上水道や廃棄物に関連する技術や行政の情報など、他の分野について教えてもらう機会にも恵まれ、留学生にはいろいろな国の料理を教えてもらったりしながら、とても有意義な学生生活を送りました。修士から博士2年までの4年間、ひたすら研究に没頭する毎日を過ごし、そして助手に採用されてから今日まで、同じような生活をしています(笑)。

――研究をするうえで大切にしていることはなんですか。

自然を感じることと、とにかく実物に触れることですね。柏キャンパスは近くに柏の葉公園やこんぶくろ池自然博物公園があるので、お昼の時間などによく行きますし、朝の通勤バスを少し手前で降りて散歩したりもします。実物に触れることにもこだわりがありますが、下水管というのはなかなか触れることができないものなので、そこは難しい分野です(笑)。

――今後の目標はありますか。

現在研究中の管路内浄化技術(管内の自浄作用を高めて下水処理の一部を担わせる技術)の社会実装です。

今の下水道は、衛生上の観点から下水を住環境から速やかに排除し、処理場で処理してから放流するという設計です。19世紀、コレラの世界的流行があり、多くの人が亡くなりました。それをきっかけに、土地を清潔に保つことを目的に下水道が作られ、普及していきました。
それから200年近くが経った現代でも、下水道は私たちの生活を支えています。一方で、下水処理のために大量のエネルギーを消費し温室効果ガスを排出しています。
私が研究する管路内浄化技術は、下水管内に微生物のすみかとしてスポンジのような素材を設置し、下水の中に含まれる有機成分の酸化分解を促進させることで水質を改善するしくみです。自然のプロセスを活用することで、省エネルギーで処理を可能にし、処理水や下水に含まれる窒素リンなどの栄養塩を再利用できれば、資源の有効活用も期待できます。

脱炭素が叫ばれる中、下水道にも持続可能性が求められています。
現代の環境と調和した下水道の姿があるのではないかと日々模索しています。

――最後に、学生のみなさんへのメッセージを。

人生何が楽しいかなんて、すぐにはわかりません。いろいろやってみて、楽しみ方を少しずつ見つけていきましょう。楽しみ方を探すこともとても楽しいですよ。

インタビュー・執筆:蘭 真由子
写真:本田龍介

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佐藤弘泰
東京大学大学院新領域創成科学研究科
社会文化環境学専攻 教授

東京大学工学部都市工学科卒業、同工学系研究科都市工学専攻修士課程修了、東京大学工学部都市工学科を経て、現職。

趣味は、Arduinoを使っての電気工作。位置ゲー。
好きなものは、人間椅子(ロックバンド)、国本武春(浪曲)。

                                         

次号の『創成』は9月8日発行予定。
『創成』42
特集『「進化研究」の最前線から見えてくるもの』
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/gsfs/sosei/

 

関連ページ

佐藤研究室ウェブサイト
https://www.wwmlab.info/

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