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ナノメートルスケールの凹凸加工を施した「ナノすりガラス」で超親水性を実現 -有機半導体薄膜の印刷に適した汎用的な基板として期待-

投稿日:2021/03/29
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発表のポイント

◆インクを用いた印刷プロセスには、一般的に親水性表面が適しています。これは、インクが印刷面によく濡れ広がるためです。しかしながら、継続的に超親水性を維持する印刷面を得ることは非常に困難でした。

◆今回、一般的なガラスの表面を弱塩基でマイルドに処理し、ナノメートルスケールの凹凸加工を施した「ナノすりガラス」を開発しました。ナノすりガラスの表面は、150 °Cの高温でも、1日以上、超親水性を維持できることが分かりました。

◆ナノすりガラス上では、高温での印刷が必要な有機半導体でも良質な単結晶薄膜を大面積製造することが可能となり、将来の産業応用における低コスト・フレキシブルエレクトロニクス用の基板としての利用が期待されます。

発表内容

東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ(注1)、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)の共同研究グループは、ナノメートルスケールの凹凸を施した「ナノすりガラス」を開発しました。ナノすりガラスの表面は、150 °Cの高温でも、1日程度の長時間に渡って超親水性を維持できることが分かり、高温での印刷が必要な有機半導体でも良質な単結晶薄膜を大面積製造することが可能となりました。

インクを用いた印刷プロセスには、インクの濡れ拡がり性をよくできる親水性表面が適しています。有機半導体のインクを印刷して良質な単結晶薄膜を得る際にも、半導体インクを均質に基板に塗り広げるために親水性表面を持つ基板が必要でした。物質の表面の親水性とは、水への濡れやすさの度合いを指します。表面に付いた水が玉のような水滴にならずに、薄く広がった膜を作る状態は、親水性が高い状態であると言えます。一般的に、親水性表面は、親水性コーティング(親水性を有する化学種・化合物を薄くコートする)、UV光照射、プラズマ処理などで得られますが、汚損による親水性の低下が見られ、継続的に親水性を維持することは困難でした。

本研究グループは、物質の表面のわずかな凹凸と表面の濡れ性(注2)が関係していることに着目しました。一般的なガラスの表面を弱塩基である炭酸水素ナトリウム水溶液を80°Cで処理することで、ナノメートルスケールのわずかな凹凸(1ナノメートル程度)を形成しました(図1)。機械的な研磨などにより表面にマイクロメートルスケールの凹凸加工を施したガラスは「すりガラス」と呼ばれていますが、これと区別するために本研究で開発したものを「ナノすりガラス」と命名しました。ナノすりガラスの表面では水がよく濡れ広がり、超親水性の指標である水の接触角(注3)は3°以下となることが分かりました。さらに、この超親水性状態は、150 °Cの高温でも1日程度維持されることが明らかとなりました(図2)。一般的な親水性コーティング剤や表面化学種の修飾効果は、熱などで表面化学種が劣化し親水性の維持が困難であったのに対し、ナノすりガラスは物質の表面の凹凸構造による親水性を利用しているため、熱による親水性の劣化を著しく抑制できました。

有機半導体は、インクを用いて印刷することで高品質な結晶性薄膜が得られるため、近年盛んに研究されています。有機半導体インクを印刷する際にも、インクの濡れ拡がり性をよくするために親水性表面を有する基板が必要不可欠でした。今回、高温での印刷が必要な有機半導体のモデルケースとして、ナノすりガラス表面に高品質な単結晶薄膜の大面積製造を検証しました。その結果、150 °Cでインクから印刷したn型有機半導体薄膜を1センチメートル角以上の大面積(従来法の50倍程度)で製造することに成功しました。超親水性基板上の半導体膜は、近年本研究グループで開発された半導体単結晶膜の転写法(東京大学プレスリリースhttps://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/2808.html)によりさまざまな表面に貼り付けて使用することができます。これを利用してデバイスを作製し、半導体膜の電気的特性を評価したところ、得られた薄膜が優れた電子輸送性能を示すことが明らかとなりました(図3)。

超親水性ナノすりガラスは、低環境負荷なプロセスで製造することが可能であり、表面平滑性に優れ、十分な透明性を有しています。本研究では、有機半導体薄膜を印刷する際のテンプレート基板として、その有用性を提案しました。一方で、親水性表面は濡れ性の改善に加えて、高い防汚性を有するため、水アカの防止など、さまざまな分野で利用できることが期待されます。

本研究成果は、独国科学雑誌「Advanced Materials Interfaces」2021年3月29日版に掲載されました。

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金「単結晶有機半導体中電子伝導の巨大応力歪効果とフレキシブルメカノエレクトロニクス(JP18J21908)」(研究者代表者:竹谷 純一)の一環として行われました。

発表雑誌

雑誌名:「Advanced Materials Interfaces」(オンライン版:3月29日)

論文タイトル:Nano-ground Glass as a Superhydrophilic Template for Printing High-performance Organic Single-crystal Thin Films

著者:Tatsuyuki Makita, Yoma Ninomiya, Shohei Kumagai, Toshihiro Okamoto, Mari Sasaki, Shun Watanabe*, and Jun Takeya*

DOI:https://doi.org/10.1002/admi.202100033

発表者

牧田 龍幸(研究当時:東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 博士課程3年生)

二宮 陽真(研究当時:東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 修士課程2年生)

渡邉 峻一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授/

産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員 兼務)

竹谷 純一(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授/

連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター(MIRC)特任教授 兼務/産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員 兼務/

物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)MANA主任研究者(クロスアポイントメント))

用語解説

(注1)産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ:

平成28年6月1日、東大柏キャンパス内に設置した産総研と東大の研究拠点。相互のシーズ技術を合わせ、産学官ネットワークの構築による「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化や、先端オペランド計測技術を活用した生体機能性材料、新素材、革新デバイスなどの産業化・実用化のための研究開発を行っている。

(注2)物質表面の微細構造と濡れ性:

固体?液体界面の表面積に基づいて、濡れ性が決まることをWenzelモデルは定性的に示している。親水性の表面に微細構造を形成し、表面積を増やすことで親水性が高まる。これとは逆に、表面積を増やすことで疎水性が高まる例もある。ハスの葉の表面は表面の微細な凹凸によって超疎水性となり、水が撥かれる。このロータス効果もWenzelモデルで説明できる。

(注3)接触角:

液体の固体表面への濡れやすさの指標であり、液滴と固体表面とで形成される角度を接触角と定義する。

添付資料

2061fig1.jpg

図1.(a)未処理のガラスと(b)ナノすりガラスの表面の原子間力顕微鏡像。

2061fig2.jpg

図2. ナノすりガラスの(a)製造工程と(b)高温(150 °C)処理後の水の接触角の時間依存性。未処理のガラスおよびナノすりガラスともに測定前にUV照射処理を実施。

2061fig3.jpg

図3.(a)本研究で開発したナノすりガラスを利用して転写されたn型有機半導体膜の偏光顕微鏡写真。(b)作製した有機電界効果トランジスタ(OFET)の構造の模式図。(c)作製したOFETの飽和領域の伝達特性。ドレイン電圧VD = 30 V、チャネル長-L = 50 μm、チャネル幅-W = 100 μm。特性から見積もられた電子移動度は2.2 cm2 V?1 s?1

関連研究室

竹谷・岡本・渡邉研究室

記事掲載情報

EETimes(3/31)

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新領域創成科学研究科 広報室

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