記者発表

超高温・大面積ナノ薄膜装置(超高温L B膜製作装置)の開発に成功
- 200℃にも迫るウエットプロセスで高配向有機半導体ナノ薄膜の製造が可能に -

東京大学

物質・材料研究機構

協和界面科学

発表のポイント

水面に展開された分子は、速やかに広がり分子レベルの極薄い膜状の集合体を形成することが知られており、精緻に配列した分子を使ったデバイスの研究開発が盛んに行われています。しかしながら、水面を形成する液体は「水」に限定されており、室温付近のプロセスに限定されていました。

本研究グループは、100℃より高い温度でも液体であるイオン液体(注1)を用いることで、室温付近に限定されたLB法を200℃に迫る高温まで拡張することに成功しました。

本手法を用いて、高い配向性(注2)を有する有機半導体ナノ薄膜の製造が可能となったことから、分子デバイス・バイオデバイスなどへの応用研究に発展することが期待されます。

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、同物性研究所、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)、協和界面科学株式会社の共同研究グループは、100℃を超える高温でも液体のイオン液体を用いたウエットプロセスである超高温Langmuir-Blodgett法(LB法、注3)及び、自動で薄膜製造が可能な汎用的な製造装置の開発に成功しました。本手法を200℃付近の超高温プロセスで電子輸送性が向上する有機半導体分子(注4)に適用した結果、高い配向性を有するナノ薄膜の大面積製造に成功しました。

今回開発した超高温LB法及び汎用的な製造装置は、LB法の利点である、液面上での精緻な分子の集合体形成というコンセプトを踏襲しつつ、プロセス可能な温度域を大幅に拡張することができます。これまでプロセス温度の制約により検討されていなかったさまざまな分子の集合体形成が可能となり、分子を用いたエレクトロニクスへの応用研究が加速することが期待されます。

本研究成果は、米国科学雑誌「Langmuir」2021年12月7日版に掲載されました。

発表内容

[研究背景]

水の上に油を滴下すると油の極薄い膜が水面いっぱいに広がります。これと同様に機能性分子を水面上に展開することでナノメートルスケールの薄膜を形成することができ、基板に写し取る(転写)ことで、固体状態の機能性薄膜を得ることが可能です。この手法は、開発者の名前から、Langmuir-Blodgett法(1935年に開発)として知られており、表面化学のアプローチを利用した高品質なナノ薄膜製造手法として広く利用されています。

しかしながら、機能性分子を展開する液体は「水」に限定されており、LB法の適用可能な温度領域は室温付近に限定されていました(室温よりも高い温度では、表面で揮発する水分子の影響を無視できません)。機能性分子の中には、高温で理想的な分子集合体を形成する材料も多く存在し、高温でのLB法による高品質な薄膜製造がブレイクスルーとなることが期待されていました。

[研究の内容]

本研究グループは、「LB法の主役は水」という概念から発想を転換し、100℃を超える高温でも液体状態を保つ「イオン液体」に着目した超高温LBプロセスを開発しました。イオン液体は、有機系の陽イオンと陰イオンから構成された塩で、高温でも液体であり、蒸気圧はほぼゼロであるという特徴を有しています。このイオン液体上に機能性分子を展開し、薄膜化することで、従来のLB法の概念を一新した超高温LBプロセスが可能となります。

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図1. 100°C以上に耐えるよう新たに開発したLangmuir-Blodgett装置。機能性分子を展開するトラフ(溶液の液だめ)が均質に温まっている様子が確認できた。

1935年のLB法の開発以来、汎用的なLB膜製造装置が多くの科学メーカーから販売されています。汎用装置では、薄膜形成及び転写工程の自動化も可能ですが、超高温プロセスに耐えられる仕様ではありません。本研究グループは、株式会社協和界面科学と共同で、汎用的なLB膜製造装置の部材を一から見直し、装置の温度ムラや温度計測系などを徹底的に検討しました。それにより、200℃付近の超高温まで耐えられる汎用的な高温LB装置の設計開発に成功しました。

さらに、本研究グループでは、今回開発した超高温LB法を用いて、有機半導体分子の超高温成膜にも取り組みました。電子デバイスとして高い性能を示す有機半導体分子の多くは、高い結晶性を有します。また、有機半導体分子を精緻に配列させるためには、比較的高い温度で薄膜を製造することが効果的です。今回、200℃付近の超高温プロセスを必要とする高分子半導体にこの高温LB法を適用した結果、1 cm2以上の大面積にわたり均質なナノ薄膜を形成することに成功し、高い結晶性を得ることができました。

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図2. (左)開発した高温LB装置を用いて製造した高分子薄膜の顕微鏡像(撮影範囲はおよそ1.5 mm×1.0 mm)。矢印の方向に高分子の鎖が配列していることが分かった。(右)高分子のミクロな結晶性の様子。

[意義・課題・展望]

液面上では分子の流動性が向上し、分子の再配列・特異な集合体形成が促されます。今回、液面上でのナノ薄膜形成に「温度」という自由度が追加されたことで、機能性分子の選択性が大幅に向上しました。さまざまな機能性を有する分子とその分子集合体を精緻に配列させることで、分子エレクトロニクスやバイオエレクトロニクスへの応用が加速することが期待されます。

本研究は、創発的研究支援事業「コンデンスドプラスチックの電子論と機能性の創成(JPMJFR2020)」(研究代表者:渡邉峻一郎)の一環として行われました。

発表雑誌

雑誌名:「Langmuir」(オンライン版:12月7日)

論文タイトル:Hyper 100°C Langmuir-Blodgett (Langmuir-Shaefer) Technique for Organized Ultrathin Film of Polymeric Semiconductors

著者:Masato Ito, Yu Yamashita, Taizo Mori, Masaaki Chiba, Takayuki Futae, Jun Takeya, Shun Watanabe*, and Katsuhiko Ariga*

DOI番号:10.1021/acs.langmuir.1c02596

アブストラクトURL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.langmuir.1c02596

発表者

伊藤 雅人(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 博士課程2年生)

山下 侑 (東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 特任研究員/物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)超分子グループ 博士研究員 兼務)

森   泰蔵(東京大学物性研究所 助教)

竹谷 純一(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授/物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)MANA主任研究者(クロスアポイント))

渡邉 峻一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授)

有賀 克彦(物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)MANA主任研究者/東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授(クロスアポイント))

用語解説

(注1)イオン液体:

有機系の陽イオンと陰イオンから構成された塩で、高温でも液体状態を保つ。また、蒸気圧がほぼゼロである。

(注2)配向性:

分子が集合して配列する際に分子がある方向にそろった様子を示す度合い。特に、液晶分子や高分子などが一方向にそろった様子を示す。

(注3)Langmuir-Blodgett(LB)法:

水面に分子を展開させナノメートルスケールの薄膜を形成し、それを基板に写し取ることで高品質なナノ薄膜を製造する手法。

(注4)有機半導体分子:

パイ共役骨格を有する電気を流す分子。有機溶媒に溶解することから印刷プロセスで薄膜成膜が可能。

関連研究室

有賀研究室

竹谷・岡本・渡邉研究室

記事掲載情報

OPTRONICS ONLINE(12/10)

日刊工業新聞(12/14)

EETimes(12/13), YahooNews(12/13)

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新領域創成科学研究科 広報室