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島に棲む哺乳類は体サイズが極端に変化すると絶滅しやすいことが明らかに-島にヒトが到来すると絶滅率は10倍以上に増加-

投稿日:2023/03/10 更新日:2023/03/10
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東京大学

発表のポイント

◆島に生息する哺乳類について大規模なデータを収集し、体サイズの変化率と絶滅しやすさを調査したところ、体サイズの変化が大きい種ほど絶滅しやすいことが明らかになりました。
◆絶滅率は現代人(ホモ・サピエンス)の島への到来で10倍以上に増加し、極端に巨大化あるいは小型化した哺乳類はほぼ絶滅してしまいました。わずかながら現存している、島で特殊化した哺乳類に対し、より優先的な保全策を講じることが重要であると指摘できます。
◆今後、「島嶼化」に伴う体サイズ以外の変化についても分析を進めることで、絶滅に対する脆弱性を高めた生物学的な背景についても明らかになると期待されます。   

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の久保麦野講師と国立科学博物館人類研究部の藤田祐樹研究主幹を含む国際共同研究グループ(代表者:マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルクのロベルト・ロッティ古生物学学芸員。研究時はドイツ統合生物多様性研究センター博士研究員)は、島に生息する哺乳類の大規模なデータ解析を通じ、島で極端な体サイズの進化を遂げた種で絶滅率が高くなることを明らかにしました。
研究グループは、島に生息する哺乳類の絶滅リスクと体サイズの変化率を網羅的に調査し、現生種1,231種、絶滅種350種にも及ぶ大規模なデータベースを構築しました。このデータの解析から、絶滅しやすさと体サイズの変化率の大きさには関係があり、極端に巨大化あるいは小型化した種が最も絶滅リスクが高くなることが示されました。

また研究グループは島へのヒトの渡来が絶滅に及ぼす影響についても分析し、現代人(ホモ・サピエンス)以前のヒトの渡来と比較して、現代人の渡来により島の哺乳類の絶滅率が急激に増加することを示しました。現代人の渡来によって、島で特殊な進化をしてきた哺乳類はほぼ一掃されました。
ヒトが生態系に与えてきた負の影響については以前より指摘されてきましたが、ヒトの影響は本土よりも島嶼(とうしょ)部で、さらに島嶼部でも島に固有で特殊な進化をしてきた種に、甚大な影響を与えてきたことが明らかとなりました。
今後「島嶼化」(注1)に伴う体サイズ以外の変化についても分析を進めることで、絶滅に対する脆弱性を高めてしまった生物学的な背景についても明らかになると期待されます。

この成果は、米国東部標準時間で3月9日にScienceに掲載されました。

   

発表内容

〈研究の背景〉

島嶼では、大きい動物が小型化し、小さい動物が大型化するという「島のルール」と呼ばれる進化の法則が知られています。一例として、地中海諸島では大陸の祖先種と比較して体重が1%程度になったゾウ(図1)や、逆に祖先種の200倍にも大型化したジャコウネズミが化石で知られています。島では体サイズ以外にも様々な変化が起こることが知られており、一連の形態学的な変化を総称して「島嶼化」あるいは「島嶼シンドローム」と呼んでいます。

特に捕食者のいない孤立性の高い島(海洋島)では、対捕食者行動が失われることが要因となり、島の哺乳類に共通して、脳の縮小、走行能力の低下などが起こったとされています。こうした島での特殊な進化により人為的な影響による絶滅が起こりやすくなると考えられてきましたが、体サイズの変化の大きさと絶滅しやすさの関係は明らかになっていませんでした。

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図1 島嶼化の典型例である、絶滅したゾウの一種(Palaeoloxodon falconeri)の復元骨格

地中海のシシリー島から化石が見つかっており、肩までの高さは成獣のオス(左)でも1m弱しかない。その祖先種であるヨーロッパ大陸で発見されている化石ゾウPalaeoloxodon antiquus(写真右奥)と比較すると体重は1~2%程度しかなかった。写真:久保麦野

   

〈研究の内容〉

研究グループは、1,400本を超える網羅的な文献調査と標本調査に基づき、島嶼に生息している哺乳類のうち現生種1,231種(1種が複数の島に生息する場合があるため、全部で1,539集団)、絶滅種350種の体サイズ、祖先種からの体サイズの変化率、絶滅のリスクのデータを収集しました。

その結果、島嶼に生息する哺乳類でも極端な体サイズの変化が起こった種ほど絶滅リスクが高いことが明らかになりました(図2)。体サイズの変化の大きさと絶滅しやすさには正の相関がありました。体サイズの変化は島嶼化程度の指標になりますが、島嶼化による形態学的な適応進化が、絶滅の素因をつくってしまったことを示しています。また、島に固有な種、中でも海洋島の固有種ほど絶滅しやすかったことが明らかになりました。島嶼の動物の保全を考える上では、その種の島嶼化程度を考慮して優先的に行うことが必要であると言えます。

   

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図2 現生種(A)と化石種(B)での、体サイズの変化量と絶滅リスクの関係

Aでは現生種について、絶滅の恐れがない種(オレンジ)と恐れがある種(赤)で、Bでは現生種(緑)と絶滅種(青)で、体サイズの変化量を比較している。前者では絶滅の恐れがある種で、後者では絶滅種で、より体サイズの変化量が大きいことが示されている。動物のイラストの右の数字は、祖先集団からの体サイズの変化量の平均値を示しており、これが1より大きいと祖先種より大型化し、1より小さいと小型化していることを示す。

   

次に、本研究で収集した化石種の記録から、過去2300万年間の絶滅率の時代変化を明らかにしたところ、絶滅率は現代人(ホモ・サピエンス)の島への渡来時期と非常に強い関連性を示しました(図3)。島嶼において哺乳類と現代人が共存する時代では、それ以前の現代人がいない時代に比べて絶滅率が16倍にも増加していました。一方で、サピエンス以前のヒト(原人や旧人段階のヒト族の種)の場合には絶滅率は約2倍に上昇するにとどまっており、サピエンスとサピエンス以前のヒトでは、島嶼の生態系に及ぼす影響に決定的な違いがあったことも明らかになりました。

   

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図3 島に生息する哺乳類の絶滅率の時代変化

横軸は年代(単位は百万年)で現在が右端、縦軸は島嶼の哺乳類の絶滅率を示す。前期更新世から中期更新世にかけて絶滅率は微増にとどまるが、後期更新世に現代人(ホモ・サピエンス)が登場し世界に拡散するタイミングで、島での絶滅率が激増する。

   

〈今後の展望〉

島は「進化の実験室」とも呼ばれ、非常に興味深い生物進化の事例を数多く見ることができる場所でもあります。その一例が巨大化・小型化した哺乳類で、それは体サイズの変化のみではなく様々な形態学的・生理学的・生態学的な特徴の変化を伴っていたと考えられます。本研究では体サイズに着目し、その変化量と絶滅率との関係を明らかにしましたが、今後、島嶼化に伴う体サイズ以外の変化についても分析を進めることで、絶滅に対する脆弱性を高めてしまった生物学的な背景についても明らかにできると期待されます。

   

発表者

東京大学大学院新領域創成科学研究科
 久保 麦野(講師)

   

論文情報

〈雑誌〉    Science
〈題名〉    Dwarfism and gigantism drive human-mediated extinctions on islands.
〈著者〉    Roberto Rozzi, Mark V. Lomolino, Alexandra A. E. van der Geer, Daniele Silvestro, S. Kathleen Lyons, Pere Bover, Josep A. Alcover, Ana Benítez-López, Cheng-Hsiu Tsai, Masaki Fujita, Mugino O. Kubo, Janine Ochoa, Matthew E. Scarborough, Samuel T. Turvey, Alexander Zizka, Jonathan M. Chase
〈DOI〉    10.1126/science.add8606

   

用語解説

(注1)島嶼化(とうしょか)
本土から海洋によって隔離された島に移入した動物が、島に特有の環境のもと、特異な形態や生態を進化させる現象のこと。島嶼化の程度は、島の大きさ、隔離の長さ、捕食者や競合他種の存在などの様々な要因により変化するが、捕食者のいない小さな島に長く隔離されるほど、より極端な島嶼化が生じるとされる。

   

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