記者発表

メダカの完全ゲノム配列を解読

投稿日:2026/08/04
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東京大学

発表のポイント

◆南日本由来のメダカ系統のゲノム配列を、最新のロングリードDNA解読技術を用いて完全に解読しました。
◆解読したゲノムから、細胞分裂に必須のセントロメア領域に保存されている未知の部位、ウイルスと融合した巨大転移因子のユニークな生存戦略、性染色体において雄化を担う最小領域の候補を明らかにしました。
◆日本発のモデル生物であるメダカのゲノム研究基盤を提供し、ヒトを含む脊椎動物のゲノム機能の解明に貢献することが期待されます。

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メダカ(南日本由来Hd-rR系統)の生体画像

全文PDF

概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科の森下真一教授(研究当時、現:東京大学名誉教授)、鈴木慶彦特任助教(研究当時)、京都産業大学の武田洋幸教授らの研究グループは、南日本由来のメダカ近交系(注1)の完全なゲノム配列を解読しました。
メダカは約100年にわたり研究されてきた脊椎動物のモデル生物です。しかし、これまでに報告されたメダカのゲノム配列には、技術的に解読が難しい領域が約1,000か所残されていました。研究チームは最新のDNA解読技術を用いたゲノム構築技術を開発し、約85千万塩基対からなる完全ゲノム配列を決定(注2)するとともに、その中にある約3万個の遺伝子を同定しました。
その結果、染色体分配を担うセントロメア(注3)、ウイルスと融合した巨大転移因子Teratorn(注4)、性染色体という3つの代表的な難解読領域から、複数の新たな発見が得られました。
本成果は、脊椎動物の遺伝子型と表現型(注5)の関係を解き明かすための研究の強力な基盤となります。

発表内容

〈研究の背景〉
メダカは1921年に脊椎動物として初めてXY型の性決定が報告された魚であり、近年では多数の近交系をそろえた研究資源も整備され、生物学研究を支えてきました。しかし、2007年と2017年に報告されたゲノム配列には1系統あたり約1,000か所もの未解読領域が残されていました。

〈研究の内容〉
研究チームは最新のロングリードDNA解読技術(注6)を用いて、さらに未解読領域を半自動的に補完する技術を開発することで、南日本由来のメダカ近交系(Hd-rR)の完全ゲノムを解読しました(図1)。また、比較対象として北日本由来(HNI)および韓国由来(HSOK)の2系統のメダカ近交系についても、残る未解読領域をそれぞれ15個と83個まで減らした、ほぼ完全なゲノム配列を得ました。

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1:完全解読されたメダカの全染色体

完全に解読されたHd-rR系統メダカゲノムの24本の染色体。セントロメアやTeratornなどの、従来はほとんど未解読だった領域を色分けして表示している。メダカは1番染色体が性染色体となっている。各染色体の下段の灰色のグラフは各領域における断片の読み取り回数を示す。Mb100万塩基対を表す。

これらのゲノム配列を分析した結果、細胞分裂に必須のセントロメア領域において、急速に進化する縦列反復配列(注7)の中に1千万年以上にわたって保存されている、点在する小さな島のような部位を発見しました(図2)。この部位では93%DNAの機能を抑えるメチル化修飾を受けていませんでした。その他のセントロメア領域が概ねメチル化修飾されていることと対照的であり、何らかの重要な機能を担っている可能性が示唆されます。
また、転移因子とヘルペスウイルスが融合した全長約18万塩基対のTeratornが計121個見つかり、その多くが遺伝子の機能をほぼ完全に保っていることが分かりました。この結果は、Teratornがウイルス粒子を介して増殖するため、機能を保った完全に近いコピーだけが受け継がれるという従来の予想を裏付けるものです。通常の転移因子とは異なるこの生存戦略により、Teratornはメダカゲノム内で1千万年以上生き延びてきたと考えられます。
そして、XYの性染色体を解析した結果、Y染色体特有の領域では系統ごとに大きく構造が変化しているにもかかわらず、Dmy遺伝子(注8)周辺の約2万塩基対の小さな領域では、系統を越えてよく保存されていることが明らかになりました。研究チームは、この保存領域を雄化に必要十分な因子の候補と位置付け、「最小Dmyカセット」と提唱しました。

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2:セントロメア領域に点在する未知の保存部位

南日本由来メダカ(Hd-rR系統)の完全ゲノムに含まれるアクロセントリック染色体(セントロメアが端近くに片寄った染色体)のセントロメア領域について、縦列反復配列の単位配列をSFと呼ばれる種類ごとに色分けしたもの。大半を占めるSF2(青)の中に、SF1(赤)とSF3(紫)からなる小さな島が点在する。下段の黒いグラフはDNAメチル化の程度を示し、SF1SF3の島でのみ低メチル化していることがわかる。これらの島は北日本由来および韓国由来の系統にも共通して見られる。Mb100万塩基対。

〈今後の展望〉
今回明らかにしたセントロメア、巨大転移因子、性染色体に関する知見は、今後の実験的検証によりその機能の解明が期待されます。本成果は、反復配列や転移因子に富む難解読領域が、重要な生物学的機能を担う可能性を示すものであり、他の多くの生物のゲノムにも残る未解読領域を再評価する契機となります。また、日本発のモデル生物であるメダカの完全ゲノム配列を研究基盤として提供することで、脊椎動物におけるゲノム配列の差異と表現型の差異との関連、さらにはヒトゲノム機能の完全解明につながることが期待されます。

発表者                                        

東京大学大学院新領域創成科学研究科
 森下 真一 研究当時:教授
  現:東京大学名誉教授、情報システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 バイオ生成AI研究開発センター 特任教授
 鈴木 慶彦 研究当時:特任助教
  現情報システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設 バイオ生成AI研究開発センター 特任講師

京都産業大学
 武田 洋幸 教授

論文情報                                          

雑誌名:Genome Research
題 名:Complete sequencing of medaka genomes reveals the architecture of centromeric satellites, giant mobile elements, and sex chromosomes
著者名:Yoshihiko Suzuki, Kazuki Ichikawa, Yusuke Inoue, Chie Owa, Haruka Kobayashi, Kenji Morikami, Ryohei Nakamura, Takafumi Ikeda, Manabu Fujie, Mayumi Kawamitsu, Nana Arakaki, Eugene W. Myers, Hiroyuki Aburatani, Yusuke Takehana, Masaru Matsuda, Kiyoshi Naruse, Shigehiro Kuraku, Hiroyuki Takeda*, Shinichi Morishita*
DOI: 10.1101/gr.281813.125
URL: https://doi.org/10.1101/gr.281813.125

研究助成

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業「全ライフコースおよび次世代におよぶエピジェネティック記憶の研究」およびゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・先端ゲノム研究開発)「ヒトゲノム De Novo 情報解析テクノロジーの創出」、JSPS科研費 JP22H04925PAGS)、JP23H02484およびJP24K18091、京都産業大学研究費#H2501の支援により実施されました。また、東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータ(mdx)の支援を受けました。

用語解説

(注1)近交系
兄妹交配を繰り返し、ゲノム配列の個体間および相同染色体間の差異をほぼなくした系統。本研究では、南日本・北日本・韓国の集団に由来する3つのメダカ近交系を用いた。

(注2)ゲノム配列決定
ゲノムDNAを断片化して解読装置で読み取り、それらをつなぎ合わせることでゲノム全体の塩基配列を構築する手法。ゲノムアセンブリ(genome assembly)とも言う。ゲノム中に互いに似た配列が複数か所あると、断片が短い場合には区別がつかず、正しい位置を決められない。こうした領域は配列のつながらない穴(ギャップ)として残り、未解読領域となる。 

(注3)セントロメア
細胞分裂の際に染色体が正しく分配されるための中心となる、必須のゲノム領域。メダカでは約160塩基対からなる互いに非常によく似た配列が全長100万塩基対以上並ぶこともあり、配列決定が難しい。

(注4)転移因子
ゲノム内を動き回るDNA配列のこと。なかでもTeratornは、転移因子とヘルペスウイルスが融合してできた、全長約18万塩基対にもおよぶ巨大な転移因子である。

(注5)遺伝子型と表現型
遺伝型は、ある個体が持つ遺伝情報の構成のこと。具体的には、ゲノムのどの位置にどのような塩基配列を持つかを指す。表現型は、体の形や色、大きさなど、個体に現れる観察可能な特徴のこと。遺伝型の違いおよび環境が、表現型の違いを生む。

(注6)ロングリード解読技術
DNAを長い断片から読み取る技術。短く読む従来法(ショートリード)では区別がつかないような、互いによく似た配列が繰り返し出現するゲノム領域でも正確な配列決定を可能にする。

(注7)縦列反復配列
特定の塩基配列を単位として、それが連続して繰り返す配列。メダカのセントロメアでは、約160塩基対の単位配列が数千回にわたって繰り返し並んでいる。

(注8Dmy遺伝子
メダカで雄化の引き金となる遺伝子。哺乳類ではSryという遺伝子が相当する。

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新領域創成科学研究科 広報室

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