足跡の化石を用いた大規模解析で足形態の時代変化を解明――地球史上最大の陸上動物・竜脚類の進化を探る――
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東京大学
発表のポイント
◆世界各地で産出した超大型恐竜・竜脚類の足跡化石を解析した結果、前足底はジュラ紀から白亜紀にかけて大型化に伴い、体重支持のためより円形へと変化した一方、後足形態には顕著な時代変化は見られないことが明らかになりました。
◆本研究は多数の恐竜足跡化石を定量的に比較することで、体化石によらず竜脚類の足形態進化と体重支持への適応を実証しました。
◆足跡化石に保存された歩行パターンや体サイズとの関係をさらに調べることで、体重が陸上歩行に及ぼす制約や、絶滅動物の生態および進化に関する理解が一層進むことが期待されます。

研究成果のまとめ。白亜紀にかけて、前足の形態がより円形に変化している。 (©︎宇津城遥平)
概要
東京大学大学院新領域創成科学研究科の山口耕平大学院生、久保麦野准教授、早稲田大学データ科学センターの久保泰講師の研究チームは、地球史上最大の陸上動物である竜脚類の足跡化石(注1)を分析し、足形態が時代とともにどのように変化したのかを明らかにしました。竜脚類の前足の足底形態はジュラ紀から白亜紀にかけてより円形に近づいており、大型化に伴い、体重支持に適した形態進化が起こったことが示唆されました。
この研究成果は、6月15日付で古生物学の国際誌『Paleobiology』に掲載されました。
発表内容
竜脚類は地球史上最大の陸上動物であり、最大の種では体重が75トンとも推定されており、他の分類群の大型種より一桁も体重が大きかったことが知られています。このため、竜脚類がどのように歩行していたのかを解明することは、歩行と体サイズの関係、特に極端に巨大な体サイズが歩行に及ぼす制約を考える上で非常に重要です。竜脚類の歩き方と密接に関係する足形態の進化を解明するために、研究チームはジュラ紀前期から白亜紀後期の約1億3千万年間にわたる世界各地で産出した竜脚類の足跡化石に着目しました。足跡は骨などと同様に化石となり、その量は体化石(注2)をはるかにしのぎます。足跡化石は足跡を残した動物の歩き方そのものを保存するため、絶滅動物の足形態や歩行パターンを推定するための直接的な証拠と言えます。本研究では、論文から収集した足跡化石のスケッチを用いて、楕円フーリエ解析(EFA、注3、図1)を恐竜の足跡に初めて適用し、併せて足跡化石の記載論文から収集した690の連続歩行跡の計測値からなるデータセットを解析して、竜脚類の足形態の時代変化を検証しました。

図1: 楕円フーリエ解析
解析手順および抽出した輪郭の第1主成分が表す形状のバリエーション。
解析の結果、前足底の形態は白亜紀にかけてより円形に近づいたのに対し、後足の形態に時代変化は認められませんでした(図2)。また、大型の個体ほど前足がより円形に近づくことが分かりました。後足に対する相対的な前足のサイズも時代を経るにつれて増加していましたが(図3A)、大型化しても後足が大きくなるほどには前足は大きくならないこと(負のアロメトリー、注4)も示されました(図3B)。
図2: 前足形態の時代変化
(A)前足では前後径の長さが白亜紀に増大し円形に近づくのに対し、(B)後足では形態的特徴の時代変化は認められない。

図3: 前足の相対面積の時代変化
(A)前足の後足に対する相対的なサイズは白亜紀にかけて増大している。(B)一方で、前足のサイズは後足のサイズに対して負のアロメトリーを示し、前足サイズは後足サイズ(体サイズ)ほどには大きくならない。
前足底が後の時代で体重支持に適した形態へと変化したという結果は、体化石の形態に基づく推定(注5)とも整合的であることから、前足形態の時代変化の存在がより確実になりました。さらに大型の竜脚類ほど前足底が円形で、竜脚類は時代と共に体が大型化した事から、この進化は体重支持への適応であったことが示唆されました。一方、後足に対する前足の相対的な大きさの時代変化は、相対的に大きな前足を持つティタノサウルス形類と呼ばれる派生的な分類群が白亜紀前期後期に卓越したためだと考えられます。
足跡化石は、世界中から体化石よりはるかに多く産出するものの、生成者の種や属などの詳細な分類の推定が困難であることから、動物の進化や適応の考察にはあまり用いられておらず、化石の産出状況が記載されるにとどまっていました。また、竜脚類の歩行パターンについても、これまでは体化石の骨格に基づく推定に比重が置かれてきました。本研究により、多数の足跡化石の分析によっても、科やそれ以上の大きな分類群に関してであれば形態の変化や進化の傾向を推定できることが示されました。また、これまで主観的に記述されてきた足跡の形態を、楕円フーリエ解析を用いることで初めて定量的に比較することにも成功しました。今後も足跡化石に保存された歩行パターンの分析や体サイズとの関係などを調べることで、陸上歩行に体重が及ぼす制約や、竜脚類の進化を歩行の観点から解明するのみならず、恐竜類の他のグループにも本手法を適用することで、恐竜類の生態と進化の解明がさらに進展することが期待されます。
発表者・研究者等情報
東京大学大学院新領域創成科学研究科
山口 耕平 博士課程
久保 麦野 准教授
早稲田大学 データ科学センター
久保 泰 講師
論文情報
雑誌名:Paleobiology
題 名:Temporal changes in sauropodomorph foot morphology and graviportal adaptations under gigantism inferred from trackways
著者名:Kohei Yamaguchi*, Tai Kubo, Mugino O. Kubo
DOI: 10.1017/pab.2026.10098
URL: https://www.cambridge.org/core/journals/paleobiology/article/temporal-changes-in-sauropodomorph-foot-morphology-and-graviportal-adaptations-under-gigantism-inferred-from-trackways/003FE59B8D8E2792E49190A7EAF3B61D?utm_campaign=shareaholic&utm_medium=copy_link&utm_source=bookmark
用語解説
(注1)足跡化石
生物が地面を踏んだ際にできた痕跡が地層中で化石化したもので、生物の行動の記録を示す証拠の一つである。
(注2)体化石
過去の生物の体そのものが化石化したもので、骨や歯など体の硬い部分が残りやすい。
(注3)楕円フーリエ解析(EFA)
閉曲線で囲まれた二次元画像の輪郭を抽出・記述する手法で、物体の輪郭を定量的に比較することができる。
(注4)負のアロメトリー
アロメトリーは、2つの指標の間に成立する関係で、y=axbというべき乗式で表される。b<1のとき負のアロメトリーとよび、xの増大に伴い、もう一方の指標yがxに対して相対的に小さくなることを表す。
(注5)体化石の形態に基づく推定
体化石を用いた先行研究として、竜脚類のより派生的な分類群では中手骨の配列がアーチ状に変化するという、体重支持に適した形態進化が起こったことを推定するものがある。
Bonnan, M. F., 2003. Journal of Vertebrate Paleontology, v. 23, no. 3, p. 595-613.

