記者発表

太平洋のサンゴ礁を守るため、科学に何ができるか? ――米国の絶滅危惧種法改正案が示す課題――

投稿日:2026/02/16
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東京大学

発表のポイント

◆規制緩和の拡大につながる政策を阻止し、脆弱なミドリイシ属サンゴの広範な保護を検討する必要性を提言しました。

◆国家安全保障と経済的利益を優先するよう求められて提案された絶滅危惧種法改正案は、西太平洋における重要なサンゴ礁保護を弱体化させる可能性があります。

◆科学的根拠に基づく保護策を推進し、分類学的に柔軟で現実的な政策を採用することが、太平洋におけるさらなるサンゴの損失を防ぐために非常に重要です。

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共同執筆者Colin Lock(シドニー工科大学博士課程学生)が、インドネシアのラジャ・アンパットの広大な枝状のミドリイシの茂みの中に位置する大型のミドリイシの上を浮遊している様子。ミドリイシ属サンゴは環境変化に敏感なため、このような光景はますます希少となっています。 [写真:Colin Anthony]

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概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻のコリン・J・アンソニー大学院生と丸山真一朗准教授、グアム大学海洋研究所のLaurie Raymundo所長らは、米国絶滅危惧種法(Endangered Species Act:ESA、注1)の改正案が太平洋のサンゴ礁を深刻な危機にさらす可能性があることを指摘する書簡を『Science』誌に発表しました。本書簡では米国管轄下の太平洋島嶼グアムを事例として、造礁サンゴ(注2)の保護策を弱めることが、サンゴ礁の消失を加速させ得ることを示しています。これは、米国フロリダ州において同様のサンゴが生態系での役割を失う「機能的絶滅(注3)」に至ったとする最近発表された事例を踏まえたものです。

政策の論議は米国を舞台に行われていますが、研究チームはこの問題とその影響が太平洋を越えて日本や東南アジアにまで及ぶことを強調しています。サンゴ礁はポリネシア、ミクロネシア、フィリピン、インドネシア、日本に至る地域全体で、漁業を支え、海岸線を保護し、海洋生物多様性を維持する役割を担っています。熱帯海域は極めて高い生物多様性を有するため、種ごとに保護策を定めることは非現実的であり、サンゴ礁保全は特に難しい課題です。さらに、気候変動がサンゴの急速な衰退を加速させている現状ではなおさら保全が難しくなっています。そのため、生態系の崩壊が差し迫る前に保護策を講じる必要があります。

この問題に対処するため、研究チームは、写真に示されるような枝状ミドリイシ属(Acropora)形態種(形や性質によって区別される個体群)など、識別が容易で絶滅リスクの高いサンゴ群を保護すること、あるいはミドリイシ属全体への保護拡大を提案しています。これらのサンゴは海洋温暖化に特に敏感であり、健全なサンゴ礁生態系の構築と維持に重要な役割を果たしています。研究チームは、科学に基づく慎重な政策立案を求めると同時に、タイムリーな対策が講じられなければ、太平洋のサンゴ礁がカリブ海のサンゴ礁と同様に広範囲にわたり崩壊する可能性があると警告しています。

ミドリイシの茂みの上を泳ぐ共同執筆者Colin Lock。[動画:Colin Anthony]

 

発表者                                        

東京大学大学院新領域創成科学研究科

   丸山 真一朗 准教授
   ANTHONY Colin Jeffrey 博士後期課程

 

掲載情報                                          

雑誌名:Science

題 名:Endangered Species Act changes threaten reefs

著者名:Colin J. Anthony, Colin Lock, Steven Mana'oakamai Johnson, Shinichiro Maruyama, Laurie J. Raymundo

DOI: 10.1126/science.aee4748

URL: https://doi.org/10.1126/science.aee4748

 

用語解説

(注1)米国絶滅危惧種法(Endangered Species ActESA
絶滅のおそれのある野生動植物の保護を目的として、1973年に制定された米国の法律(連邦法)。 

(注2)造礁サンゴ
刺胞動物のうち、石灰質の骨格を形成し、褐虫藻という微細藻類と共生している動物の総称。

(注3)機能的絶滅
ある生物種の個体数が減少して繁殖や食物連鎖の維持ができなくなり、たとえ生き残っていても、将来的に絶滅につながることが予想される状態のこと。

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