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重粒子線放射線照射が全身に与える影響 - メダカ全身連続切片で組織変化を詳細に解析 -

投稿日:2016/06/28
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発表者

三谷 啓志(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 教授)
尾田 正二(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 准教授)
浅香 智美(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 特任研究員)

 

発表内容

東京大学大学院新領域創成科学研究科の浅香智美特任研究員、尾田正二准教授、三谷啓志教授らの研究グループは、がんの放射線治療にも利用される重粒子線(炭素イオンを加速させた放射線の一種)をメダカの体表に照射した後、メダカを連続的に薄くスライスした切片を用いて全身組織の変化を細胞レベルで明らかにしました。今回の研究結果ががん治療などでの局所的な放射線照射時の健康リスク評価に貢献すると期待されます。
 

放射線を局所的に照射した場合、照射していない部位へどのような影響があるのかという点については長らく懸念されていました。このような影響を調査した従来の研究では注目している組織を摘出して個別に解析する手法が主流であり、全身をくまなく評価することはなされていませんでした。

今回の研究グループは、量研機構高崎量子応用研究所のイオンビーム照射研究施設(TIARA)を利用して、ヒトと同じ脊椎動物でありながら体が小さく解析が容易なメダカの一部分に重粒子線を照射し、全身を連続切片にして解析する全く新しい方法を開発して、放射線を照射した場合の全身の影響を明らかにしました。その結果、放射線が到達しない組織にも毛細血管の拡張や出血が生じるという現象を新たに発見しました。また、部分的に放射線照射した腎臓の組織像を3次元的に再構築して詳細に分析した結果、放射線が照射されている部分の組織の萎縮に加えて、照射されていない部位の血管にも放射線の影響があることを明らかにしました。
 

体表から約2mmまでしか到達しないようにエネルギーを厳密に調整した重粒子線をTIARAのサイクロトロンで作り出し、全身麻酔を施したメダカの背側と腹側から照射できる方法を開発しました。メダカを細胞レベルで全身くまなく観察するには、1匹を5マイクロメーターの厚さで連続的にスライスした切片が約3600枚必要でした。

 

なお、本成果は量研機構高崎量子応用研究所、北里大学および山口大学の研究グループと共同で得られたものです。また、今回の連続切片データは、山口大学のバーチャルスライドとして公開されています。

 

発表雑誌
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:In vivo 3D analysis of systemic effects after local heavy-ion beam irradiation in an animal model.
著者: K. Nagata, C. Hashimoto, T. Watanabe-Asaka*, K. Itoh, T. Yasuda, K. Ohta, H. Oonishi, K. Igarashi, M. Suzuki, T. Funayama, Y. Kobayashi, T. Nishimaki, T. Katsumura, H. Oota, M. Ogawa, A. Oga, K. Ikemoto, H. Itoh, N. Kutsuna, S. Oda, and Hiroshi Mitani
DOI番号: 10.1038/srep28691
論文のリンク:https://dx.doi.org/10.1038/srep28691

問い合わせ先
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻
特任研究員 浅香 智美
Tel: 04-7136-3663
E-mail: twatana@ib.k.u-tokyo.ac.jp