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幼虫の皮がコルセットとなりハエのスレンダーな体型をつくる

投稿日:2021/01/25
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発表のポイント

◆キイロショウジョウバエの幼虫が成長する過程で、幼虫の皮(クチクラ)がコルセットのように胴回りの伸びを抑えることによって、全身の体型を徐々に細長くさせることを見出しました。

◆このクチクラを構成する2つのタンパク質Cuticular protein 11A (Cpr11A)およびTubby (Tb)の働きが、コルセット機能に必要であることを明らかにしました。

◆クチクラのような細胞外の基質が体の形づくりに果たす役割について理解するための基礎になると期待されます。

発表概要

生物は過酷な環境の中で体を支え、守るために、さまざまな基質を細胞外に作り出して利用しています。たとえば脊椎動物は骨・毛・鱗などによって体を支えたり保護したりします。昆虫などの節足動物ではクチクラ(体の表面の殻あるいは皮)が外骨格として体の支持と保護の機能を担います。しかし、こういった細胞外基質が体の形づくりにどのように関わるのかはよく分かっていませんでした。

東京大学大学院新領域創成科学研究科の田尻怜子研究員、藤原晴彦教授、小嶋徹也准教授は、モデル生物であるキイロショウジョウバエの幼虫が成長する過程で、幼虫のクチクラがコルセットのように胴回りの伸びを抑えることによって、全身の体型を徐々に細長くさせることを見出しました。さらにこのコルセット作用には、このクチクラを構成する2つのタンパク質Cuticular protein 11A (Cpr11A)およびTubby (Tb)の働きが必要であることを明らかにしました。この発見は、クチクラのような細胞外の基質が形態形成に果たす主導的な役割についての理解を深めるための足掛かりになると期待されます。

この研究成果の詳細は2021119日付けで英国科学誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。

発表内容

多細胞生物の発生過程において、一つの受精卵から生じた体がドラマチックに形を変えていくさまは、多くの人の興味を引きつけてきました。近年、胚発生を中心にその仕組みについて研究が進み、体全体の変形は体を構成する細胞のふるまい(たとえば個々の細胞が偏った方向に分裂したり移動したりする)の総和として説明されるようになりました。胚発生の時期の体はほぼ細胞のかたまりと見なすことができるため、体の形の変化が細胞のふるまいの足し合わせであることは自然なことです。しかしこれは、胚期以降の発生(後胚発生)には必ずしも当てはまりません。

卵や母胎の中の保護的環境を脱したあとの生物は、過酷な環境の中で体を支え、守るために、さまざまな基質を細胞外に作り出して利用しています。たとえば脊椎動物は骨・毛・鱗などによって体を支えたり保護したりします。昆虫などの節足動物ではクチクラ(体の表面の殻あるいは皮)が外骨格として体の支持と保護の機能を担います。したがって、後胚発生で起こる体の形の変化は細胞のふるまいだけでは説明されず、こういった細胞外基質を考慮に入れる必要があるはずです。しかし、これらの細胞外基質が体の形づくりにどのように関わるのかよく分かっていませんでした。

東京大学大学院新領域創成科学研究科の田尻怜子研究員、藤原晴彦教授、小嶋徹也准教授は、モデル生物であるキイロショウジョウバエの幼虫が成長する過程で、クチクラがコルセットのように胴回りの伸びを抑えることによって、全身の体型を徐々に細長くさせることを見出しました。さらにこのコルセット作用には、このクチクラを構成する2つのタンパク質Cuticular protein 11A (Cpr11A)およびTubby (Tb)の働きが必要であることを明らかにしました。

キイロショウジョウバエは約4日間の幼虫期にせっせと餌を食べ、体重で約100倍の成長を遂げます。この急激な成長に伴ってクチクラは引き延ばされていきます。図1に示すように野生型系統(正常系統)の孵化したての幼虫から成長しきった幼虫までのクチクラを標本にして、長さ(L)と幅(W)を計測したところ、長さと幅が同じ割合で伸びていく(WL)のではなく、長さの伸び率のほうが大きいことが分かりました。つまり幼虫の体型は徐々に前後に細長い形になっていくわけです。

これに対して、Cpr11ATbそれぞれの変異体では孵化したての幼虫のクチクラの長さ・幅は野生型とほぼ同じですが、Cpr11A変異体ではそこからクチクラの長さと幅がほぼ同じ割合で伸びていき、Tb変異体では逆にクチクラの幅の伸び率のほうが大きくなっていました。これらの測定結果から、野生型ではクチクラの前後方向の伸びを促進する仕組み、あるいは胴囲方向の伸びを抑制する仕組みがあるのではないかと考えられました。

これらの可能性を検討するために、野生型・Cpr11A変異体・Tb変異体の幼虫のクチクラに引きバネを付けて引っ張り、クチクラの伸びと引っ張り力の関係を調べたところ(図2)、実際にCpr11A変異体・Tb変異体に比べて野生型のクチクラの胴囲方向の硬さが有意に大きい(つまり胴囲方向に伸びにくい)ことが確かめられました。これは、正常な幼虫のクチクラにはコルセットのように胴囲方向の伸びを抑える作用があること、その作用はCpr11ATbの働きに依存することを意味しています。幼虫の体におけるCpr11ATbの分布を調べたところ、クチクラの表面近くに互いに重なり合う層を成していることが分かりました。この層がコルセット機能を担うと考えられます。

以上の結果から、ショウジョウバエはクチクラにコルセットの機能を仕込むことで、クチクラを体の支持や保護のためだけではなく体の形づくりにも積極的に利用していると言えます。本成果は、細胞外基質が後胚発生における形態形成に果たす主導的な役割についての理解を深めるための足掛かりになると期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Communications Biology
論文タイトル:A corset function of exoskeletal ECM promotes body elongation in Drosophila
著者:Reiko Tajiri , Haruhiko Fujiwara, Tetsuya Kojima
DOI
番号: : 10.1038/s42003-020-01630-9
論文のリンク: https://www.nature.com/articles/s42003-020-01630-9

発表者

田尻 怜子(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 日本学術振興会特別研究員)
藤原 晴彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 教授)
小嶋 徹也(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 准教授)

添付資料

0119Cuticula_fig1.pngのサムネイル画像

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新領域創成科学研究科 広報室

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