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【創成インタビューシリーズ】篠田裕之教授 「世の中が変わる瞬間を見てみたい ー小さな漫画家が描いた研究者への道ー」

投稿日:2023/03/09 更新日:2023/10/17
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篠田・牧野研究室で開発中の超音波フェーズドアレイを使用した空中超音波触覚ディスプレイ
多数の超音波振動子を配列した超音波振動子アレイにより、空中の任意の位置に超音波の焦点や細かい分布を作り出し、何も装着していない人体表面に触覚を提示することができる。

創成40号の特集は「VR研究の最前線 ハプティクスの可能性」。新領域創成科学研究科の本拠地、東京大学柏キャンパスで行われているVRに関する研究について幅広く紹介しています。

40号特集の監修を務めた複雑理工学専攻の篠田裕之教授は、最先端の触覚インターフェイスの研究を行っています。空中ハプティクス技術をはじめとする触覚インタラクション研究、2次元通信、計測、センシングを専門とし、斬新な発想に基づく基礎的・普遍的成果を目指し、最終的にはそれらが幅広い分野で活用されるよう、実用化に至るまでのプロセスも研究活動としています。

このシリーズは、研究者になるまでをテーマに、創成特集監修者へのインタビューを掲載しています。

 

――子供の頃に夢中になったことはありますか。

幼少の頃はプラモデル作りが大好きでした。寝る前に布団の中で組み立て、説明書を眺めてはどうやって改造しようかと夢中になっていましたね。当時は『少年ジャンプ』や『少年チャンピオン』が創刊された時期で、漠然と将来は漫画家になりたいと思っていました。とくに藤子不二雄先生の自伝的漫画『まんが道』は何十回となく繰り返し読み、中学生ぐらいまではかなり一生懸命に漫画を描いていました。

 

――どんな高校生でしたか。

高校時代、サッカーをしていて怪我で入院した時期があったんです。あまりに暇なので数学の参考書を読んでいたら、面白さにハマってしまいました。同じように物理学も好きになり、気づけばアインシュタインに憧れるようになっていました。相対性理論のように、理論が世界を変えるってかっこいいなと思ったんですね。

 

――どうして研究の道に進まれたのですか。

大学進学のとき東大を選んだのは、相性がいいと感じたからです。いろんな大学の過去問を解きましたが、東大入試の数学の問題はとても面白く、むしろ一番受かりやすいんじゃないかと思って受験しました。無事に東京大学理科一類に合格し、教養課程を経て工学部物理工学科へ進学しました。大学4年生の頃、酸化物による高温超伝導体が発見され「超伝導革命」として注目されていたので、田中昭二教授、内野倉國光助教授が率いる研究室に飛び込みました。世界的な競争が行われていたこともあり、研究室は大変活気がありました。

当時はバブル景気にわき、高級車などが飛ぶように売れ、もはや物質的な欲求は満たされたと錯覚していた時代でした。それでも「個人が空を自由に飛ぶ」という夢だけはまだ叶っていないと思い、「絶対に落ちない小型ヘリコプター」を作りたいと考え、計測と制御を取り扱う工学系研究科計数工学専攻(現:情報理工学系研究科システム情報学専攻)に進学しました。そこでは、非接触で硬さを測るセンサーの研究をしました。山﨑弘郎教授、安藤繁助教授の研究室で、先生や先輩から「研究の仕方を教わる」ことを体験したことが、その後の研究の基礎となりました。

 

――研究の中でどのようなことが好きですか。

モノを削ったり、組み立てたり、半田付けしたり、プログラミングしたり......完成物を思い描きながら、そのプロセスを考えたり、作っている時間が楽しいです。プラモデル作りに没頭したあの頃と本質は変わっていませんね。最近は自分が手を動かすことはほとんどなくなりましたが、代わりに「どうやったら研究が進むか」という計画を考える時間はとても楽しいです。

 

――これまでの研究生活のなかで印象に残っているできごとはありますか。

30歳の頃、結婚や研究室の立ち上げなどが重なり、プレッシャーや不安で精神的に追い詰められていた時期がありました。その時に出会った加藤諦三先生の著書『無理しない人ほど強くなれる』に、「人に良く思われるための努力と、純粋に人のためにする努力はほぼ真逆のことである」という言葉があったんです。前者の努力は自分へのストレスが大きいうえ、本心から人に好かれることもないですが、後者は力強くエネルギーが沸いてくるし、物事がうまく進むようになる。私を救ってくれた、大切な1冊です。

 

――今後の目標や夢はありますか。

手が届きそうで届いていない「触感再現」を達成したいです。技術自体がまだ実用段階に到達していないので、そのための課題を解決することが必要ですが、人々が触覚をどのように活用していくことになるのかを考えると、この先がとても楽しみです。

 

――「触覚再現」が実用化した際には、実際に「会う」ことの意味はどのように変化すると思いますか。

人が「直接会いたい」と思う理由は、相手の顔色やその場の雰囲気を感じながら効果的に情報交換したい、ボソッと小声で話すような情報が欲しい、あるいは自分の生気やエネルギーを生で感じてもらいたいなど、いろいろな理由があるでしょう。いまあげた例はいずれも感覚・知覚を含む情報の伝達が目的であり、これらは技術が発展すればオンライン伝送できるようになると思います。ですが、例えば「わざわざここまで会いに来た」という誠意を見せたい場合、それには物理的な存在が近くに居ること自体に意味があります。生身の人間が苦労して雪かきをしていれば「手伝わなければ」という思いが沸きます。人がそこにいる事で心が動かされるという場面はたくさんあって、その必要性は今後も変わりません。ですから、軽いコミュニケーションはオンラインにシフトし、重要な事は対面、というコントラストがさらにはっきりしてくるように思います。

 

――最後に、学生のみなさんへのメッセージを。

人の価値観は時代とともに変わります。大人の世代からするとちょっとくだらなく見える、本気で取り組むべきものではないと感じるものが次世代の主役になったりもします。周りから「くだらない」と言われるけど、自分にとっては大切というものがもしあれば、その感覚をぜひ大切にして欲しいなと思います。

インタビュー・執筆:蘭 真由子
写真:本田龍介

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篠田裕之
東京大学大学院新領域創成科学研究科
複雑理工学専攻 教授

東京大学工学部物理工学科卒業、同大学院工学系研究科修士課程修了、東京農工大学、米国カルフォルニア大学バークレー校、東京大学大学院工学系研究科、東京大学大学院情報理工学系研究科を経て、現職。

コーヒー好き。
好きな場所は、柏キャンパス内にあるライトアップされた柏図書館と、キャンパス近くの「こんぶくろ池自然博物公園」。公園から柏の葉キャンパス駅方面へ続く広々とした道もお気に入り。

         

次号の『創成』は3月10日発行予定。
『創成』41
特集「水の新たな価値を探れ より良い社会システムを目指して」
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/gsfs/sosei/

 

関連ページ

篠田・牧野研究室ウェブサイト
https://hapislab.org/

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