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世界初、ミュオグラフィによる台風の観測

投稿日:2022/10/13 更新日:2022/10/17
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東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構
東京大学大学院新領域創成科学研究科
東京大学生産技術研究所
東京大学大気海洋研究所
シェフィールド大学
ダラム大学
イタリア原子核物理学研究所
カターニャ大学 ウィグナー物理学研究センター
アタカマ大学
オウル大学

発表のポイント

  • ミュオグラフィを用いて台風の観測に世界で初めて成功した。
  • 台風の透視により、温暖核を捉えることに成功した。
  • 将来、台風の早期警報システムに貢献できると期待される。

 

発表概要

東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構は、同大学大学院新領域創成科学研究科、生産技術研究所、大気海洋研究所、および英国シェフィールド大学、英国ダラム大学、イタリア原子核物理学研究所、イタリアカターニャ大学、ハンガリーウィグナー物理学研究センター、チリアタカマ大学、フィンランドオウル大学と共同で、世界で初めて台風の透視に成功した。

ミュオグラフィ(注1)は、宇宙に由来する高エネルギー素粒子ミュオン(注2)を用いて巨大物体を透視する技術である。これまで火山、原発、ピラミッド、気象津波などの陸域、海域の透視に成果を上げているが、大気現象の観測に用いられたのは、今回が初めてである。ミュオグラフィを用いることで遠方の台風の内部構造をイメージングできるため、将来、台風の早期警報システムへの応用が期待される。

発表内容

<台風透視について>

ミュオンは、銀河系における超新星爆発などの高エネルギーイベントによって加速される宇宙線と、地球大気が反応してできる素粒子の一つである。ミュオンは透過力が強く、厚さ300kmにも及ぶ水平方向の大気をも貫通することができる。このように、水平に近い角度で対流圏を飛行するミュオンは台風を通り抜けた後、地上のミュオグラフィセンサーに到達する。このミュオンの到達数を時間毎に計数することで、台風の内部構造や台風の動きを測定することが可能である。

この度、鹿児島に設置されたミュオグラフィセンサーを用い、2016年から2021年にかけて九州地方近傍を通過した台風のミュオグラフィ観測に世界で初めて成功した。その結果、台風を縦切りにした密度プロファイルを捉えることに成功した(図1)。同密度プロファイルには、温暖核(注3)に対応する低密度領域が映し出された。台風内部における鉛直方向の密度差の大小は浮力の大小を表すために、今回撮影された鉛直密度プロファイルは台風の強さの推定に役立つ。

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図1:台風を縦切りにした密度プロファイル
© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
緑から赤にかけて密度が低下する。

図2には2016年の台風12号の経路図と、観測された台風のミュオグラフィ透視像の時系列的な推移が示されている。ここには、遠方の台風は水平線付近に映し出されるが、センサーに近づくにつれ次第に大きくなり、その後センサー上空を通過して過ぎ去って行く様子が示されている(図3)。 

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図2:2016年の台風12号の経路図と観測された台風のミュオグラフィ透視像の時系列的な推移
© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
(A)はミュオグラフィ透視像及び台風12号の経路。赤数字は日付、○は同日付0:00における台風の位置。●は下から順に09/03/08:00、09/03/16:00、09/04/08:00における台風の位置。赤点線は暴風域、茶点線は強風域を表す。▲は屋久島(上)及び名瀬(下)の位置。(B)は、台風中心気圧の時系列変化。

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図3:ミュオグラフィによる台風透視のコンセプト図
© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
(A)は台風が遠方にある場合、(B)は台風が近づいた際のミュオグラフィ視野内において台風が占める位置を表す。

図4には、ミュオンカウント数の時間変化と屋久島測候所及び名瀬測候所における気圧の時間変化との比較を示す。(A)は屋久島から鹿児島付近上空の大気を通過してきたミュオンカウント数、(B)は名瀬から鹿児島付近上空の大気を通過してきたミュオンカウント数である。気圧低下を示すミュオンカウント数の増加が先ず(B)で起き、その後(A)で起きていることから、台風が名瀬方向から屋久島経由で徐々に鹿児島に近づいてきたことがわかる。この結果から、測候所が無い方向においても台風接近の状況をミュオグラフィで捉えることができると期待される。

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図4:ミュオンカウント数の時間変化と屋久島測候所及び名瀬測候所における気圧の時間変化との比較
© 2021 Hiroyuki Tanaka/Muographix
(A)屋久島から鹿児島付近上空の大気を通過してきたミュオンカウント数、(B)名瀬から鹿児島付近上空の大気を通過してきたミュオンカウント数、(C)名瀬測候所(オレンジ線)及び屋久島測候所(青線)で同期間に観測された気圧変化。

<今後の展望>

 測候所は、陸上いたるところにあるわけではなく、また設置可能場所は陸上に限られている。今回の成果はミュオグラフィセンサーの設置都市周囲において、測候所が無い方向においても台風接近の様子をミュオグラフィで捉えることができることを示しており、将来、ミュオグラフィを台風警戒システムに活用することが可能であると期待される。また、ミュオグラフィは台風の水平方向の積分密度を測定する唯一の方法であることから、台風の鉛直方向の積分密度を与える気圧計と組み合わせることで、台風の3を求めることができる。その結果、私たちの台風に関する理解が一層進むことが期待される。

発表雑誌

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:Atmospheric Muography for Imaging and Monitoring Tropic Cyclones

著者:Hiroyuki K.M. Tanaka*, Jon Gluyas, Marko Holma, Jari Joutsenvaara, Pasi Kuusiniemi, Giovanni Leone, Domenico Lo Presti, Jun Matsushima, László Oláh, Sara Steigerwald, Lee F. Thompson, Ilya Usoskin, Stepan Poluianov, Dezső Varga, Yusuke Yokota1

DOI番号:10.1038/s41598-022-20039-4

アブストラクトURLhttps://www.nature.com/articles/s41598-022-20039-4

用語解説

(注1)ミュオグラフィ
ミュオン(注2)の強い貫通力(岩盤で1km以上)を用いるレントゲン写真撮影法。医用のレントゲン写真ではX線を利用するが、これはX線の透過力が人体程度であることを利用している。ミュオンの透過力が海洋の深さ程度のオーダーであることからミュオグラフィを利用して海のレントゲン写真を撮影可能である。

 

(注2)ミュオン
主に超新星などの銀河系の高エネルギーイベントによって光速まで加速される宇宙線と呼ばれる粒子が地球に到達すると、大気を構成する窒素や酸素の原子核と反応して高エネルギーの2次粒子生成する。その一つがミュオンと呼ばれる素粒子であり、貫通力が強い。

 

(注3)温暖核
一般的に、台風の中心付近には明瞭な温暖核(ウォームコア)が存在しており、台風の中心付近の上空の温度が高くなっている。温暖核の形成は、熱帯低気圧の発達に重要な機構と考えられており、低い中心気圧と温暖核とが密接に結びついていると考えられている。

関連リンク

東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構

松島 潤 (新領域創成科学研究科 環境システム学専攻 教授)

お問い合わせ

新領域創成科学研究科 広報室

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