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【開催報告】研究倫理ワークショップ第3回「なめらかな都市、ざらつく都市:都市ゲノムとしてのデータと未来」を開催しました

投稿日:2022/03/30
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科学技術の進歩が劇的に加速する現代において、「倫理的である」とはどういうことなのでしょうか。研究者にとっての「倫理」の世界を紐解く新領域創成科学研究科「想像×科学×倫理」研究倫理ワークショップ。3回シリーズの第3回が、2022年2月14日(月)にオンライン開催されました。

第3回は「なめらかな都市、ざらつく都市:都市ゲノムとしてのデータと未来」と題し、都市におけるAIやデータの活用における倫理について、熱い議論を交わしました。コーディネータの福永真弓准教授によるファシリテーションのもと、機械学習や統計的データ解析を専門とする杉山将教授、持続可能な都市デザインを専門とする出口敦教授、通信・ネットワーク工学を専門とする東京大学生産技術研究所の瀬崎薫教授の3人を迎え、さっそく対話が始まります。
今回のテーマ「都市」は、日々の暮らしの延長線上にある、私たちになじみのある題材。倫理の問題がより身近に感じられる最終回になりました。

ー 都市デザインにおけるブラックボックス ー

はじめに、環境倫理学を専門とする福永准教授が「住民のウェルビーイング(価値のある、幸福な状態)を高める都市デザインを考える際、個人や地域から得られるあらゆるデータを都市デザインへ反映していく必要がある。一方で、住民にとってはデータがどう使われているのか分かりにくかったり、プライバシー侵害への不安なども存在する。しかもAIによってデータを活用する場合、よりブラックボックス化しやすい」と問題提起。これに対して瀬崎教授は、公正さや透明性は何より重要としながらも「AIによるデータ活用については、きちんと理解してもらおうとすればするほど説明が複雑になっていく。さらに言えば、ある時点で"完全な公正さ"を決定してしまうと、刻々と変化する社会や時代の多様化にも対応できない」と、システム専門家ならではの意見を述べました。

一方、杉山教授は「AIはデータを収集して整理して統計しているだけで、それをもとに判断を下すのはあくまでも人間。AIによる情報処理システムがブラックボックスだという不安は、実はそこにはあまり意味はないことを理解していただくほうが重要な気もする」と、科学用語を使わない形で地域住民に説明することが大切だと話しました。

とは言え、統計前の個人データの取り扱いに不安を覚える気持ちは理解できます。「例えば、家庭でのエネルギー消費量や利用時間帯などのデータから、その家庭の構成や所得まで推測できてしまうため、そこは留意が必要。プライバシー保護の観点からデータを活用していく技術の研究も進んでいるため、むしろその説明が重要になる」と瀬崎教授。また出口教授は「"説明"や"納得"ももちろん必要だが、やはり最終的には住民からの"信頼"が大事だと感じる。私たち研究者も、それをビジネスにする企業もそう。住民のみなさんからデータをいただき、研究者が解析し、企業がサービスという形で還元する。我々研究者も地域の円環のなかに属しているということを、我々も含めてみんなが理解することが基本だと思う」と、実際に都市計画や都市デザインに深く関わる立場ならではの実感を語りました。

ー データは誰のもの? ー

視聴者から「個人のデータではなく、集合的なデータに関する所有権をどう扱っているのか」という論点が提示されました。これに対して杉山教授は、「国や企業によっても考え方が違うが、私の周辺では、個人が十分なリテラシーや技術を持ってすべてのデータを管理するモデルの研究が進んでいる」と言います。

すると出口教授は「完全に私個人の考えだが、地域から吸い上げたデータの所有権は、地域そのものにあると思っている」と持論を展開。さらに「それらのデータは地域の行政や企業が地域住民のために活用すべき」だと続けました。これに対して瀬崎教授は「その概念は初めて聞いた。非常に興味深いので、熟考してみたい」と、驚きとともに新たな視点を歓迎する一幕も。

コーディネータの福永准教授は最後に「社会全体でリテラシーを作り上げるのが大きな課題。データも含めていろいろなものを社会の共有財産と見たうえで新たなルールを作っていくことも大切かもしれない」とまとめ、引き続き議論することの重要性を語って締めくくりました。

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会場と登壇者をオンラインでつないで対話が進みました

ー 未来に向けて私たちがすべきこと ー

こうして、全3回にわたって行われた「想像×科学×倫理」研究倫理ワークショップはひとまずの区切りを終えました。コーディネータをつとめた福永准教授を軸として、これまでに分野の異なる8名の研究者に加え、グラフィックカタリストの松本花澄氏と佐久間彩記氏による「グラフィックレコーディング」とともに、トータルで5時間近くにもおよぶ議論が展開されました。

3回のワークショップを通じて、地球、人間、都市のそれぞれのスケールにおいての科学の倫理について考えてきましたが、総じて感じるのは、ここで話されてきたことは決して私たちに無関係のものではないということ。近い将来間違いなく、社会的課題として大きくクローズアップされるであろう科学倫理だけに、まずはひとりひとりが未来を想像し、自分ごととして考えていくことが、重要な一歩だと感じました。

ー 出演者情報 ー

杉山将教授は、「コンピュータはどこまで賢くなれるのか」をテーマに、人工知能分野の機械学習とよばれる知的データ処理技術に関する様々な研究課題に取り組んでいます

出口敦教授は、都市デザイン学、都市計画学を基礎に、サステナブルな都市づくりの観点から、街路・街区、地区、都市圏にいたる様々なスケールでの計画とデザインを探求しています。

瀬崎薫教授は、ネットワークを利用した創造的な社会活動の支援と新たな応用の創造を念頭に置き、ネットワークの要素・システム技術と各種応用システム開発に取り組んでいます。

全3回の詳細、グラフィックレコーディングは、以下のウェブサイトをご覧ください。

「想像×科学×倫理」研究倫理ワークショップ ウェブサイト

(取材・執筆:蘭真由子)

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