東京大学大学院新領域創成科学研究科

PROSPECTUS

研究科長からのご挨拶

出口 敦

東京大学大学院新領域創成科学研究科長

「新領域創成科学研究科」は、極めてたぐいまれな部局名を拝命して1998年に創設された大学院組織です。部局名は、一般に既定の概念を組合せて学問の対象領域を特定する組織名とすることが多いのに対し、私どもの研究科は「新領域を創成する科学」を志向し、領域を特定するのではなく、組織や構成員が兼ね備えるべき姿勢、学問に臨む考え方や精神を組織名にした研究科であるとも言えます。では、新領域を創成する科学は、どのような組織で培われるのでしょうか。

科学とは、そもそも真理を探究するものであり、自ずとある領域やディシプリンを深めるものとなり、そのために考え方の枠組みをつくり、領域内を体系づけることが必要で、そうしたアプローチが既存の学問領域を発展させてきたと言えます。ただ、現代社会が抱える環境問題、エネルギー問題、感染症と公衆衛生の問題など、既存の領域を深めるだけでは解けない課題もあり、領域を超えた発想と取組が必要になります。その領域を超えていくという超領域の発想やアプローチこそが人類の難問に立ち向かう武器になり得るのだと思います。

私自身は、「都市」を研究対象とする研究室において、学生と本研究科に所属している意義を議論しますが、我々は既存の枠組みや学問領域の枠にとらわれない、より自由な発想で都市問題にもチャレンジすることが許されている知的特権を持つ組織の一員であることを共通の強みにしようではないかと言っています。

本研究科は創設以来、二十年余りの間にその精神を受け継ぐ多くの修了生を育て、様々な分野に送り出してきました。本学の百四十年余りの歴史の中では二十数年間はわずか七分の一にしか過ぎませんが、本研究科の立ち上げからの歴史の密度は濃く、学内外の多くの方々に支えられながら、国際的に高い評価を受けた多くの研究成果を上げて参りました。

加えて、柏キャンパスが立地する柏の葉という新たな都市開発のフロンティア(開拓地)に、まちづくりの仕組みや地域のネットワークを創り出すことにも貢献して参りました。キャンパスの周囲が新たな都市開発やスマートシティづくりのフロンティであることは、周囲が既に成熟した市街地で囲まれる本郷や駒場のキャンパスと大きく異なります。社会実験や社会実装の場が近隣に存在することを強みとし、その立地を活かした社会連携も柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)などを介して進めて参りました。

本研究科が創設された二十数年前の日本の社会から現在をみると、これほどまでにスマートフォンが普及し、データが社会を動かしていることをどれだけの人が予測したでしょうか。そう考えると今から二十年後の社会や都市がどのようになっているか、予測不能なことは多々あります。社会の動きを予測し、先導する専門家を育てることはゆるぎない重要な大学の役割である一方、時代の変化や社会の動きを俊敏に感じ取る感性と、予測不能な方向に社会が突き進んだ時に、それに柔軟に対応していける知的適応力や、時代と共に変化する社会課題を追尾し、探求していける柔軟な思考力を兼備した人材がサステイナブルな社会の形成には求められています。サステイナビリティ学グローバルリーダー養成プログラム(GPSS-GLI)をはじめとする先駆的な国際教育プログラムのモデルを創り出し、その中で育った優秀な人材を国際社会に送出していくことも本研究科の重要な役割です。

新領域を創成する科学は、既存の学問領域では解けないような課題に挑む研究を実践し続けることに加え、個々の研究者を異なる分野の者同志が支え合い、批評して切磋琢磨する多様性を知的活力の源とすることから培われるのだとすると、そのために我々は何をすべきかを本研究科の関係者の方々と共に考えて、行動して参りたいと思っております。

コロナ禍の厳しい状況の下、苦労を強いられている学生、教職員の方々が大勢いらっしゃる中、研究科としてできる支援を心掛けて参りたいと思います。また、感染症に対する安全対策を取りながら、「学融合」と「知の冒険」にチャレンジする機会と場を創出していきたいと思いますので、これからもどうか、本研究科の活動に対してより一層のご協力、ご支援を賜りますことをお願い申し上げます。

出口 敦
東京大学大学院新領域創成科学研究科長