教員紹介

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伊藤 耕三

(いとう こうぞう/特別教授/基盤科学研究系)

物質系専攻/物性・光科学講座/超分子構造物性学分野

略歴

1981年3月東京大学工学部物理工学科卒業
1986年3月東京大学大学院工学系研究科物理工学専門課程博士課程修了(工学博士)
1986年4月通商産業省工業技術院繊維高分子材料研究所 研究員
1990年10月同主任研究官
1991年6月東京大学工学部物理工学科講師
1994年8月同助教授
1999年4月東京大学大学院大学院新領域創成科学研究科助教授
2003年2月同教授
2023年6月物質・材料研究機構フェロー
2024年4月東京大学特別教授(現職)

研究活動

 研究室では、トポロジカル超分子を用いた高分子材料の研究開発を行っている。トポロジカル超分子の中でも、環状分子と軸状分子から構成されるロタキサンやポリロタキサンを用いた材料では、環状分子が軸状分子上をスライドすることで、従来の高分子材料とは異なる構造、物性、機能を示すことから大きな注目を集めている1)。当研究室で発明され今も盛んに研究開発を行っている材料が、環動高分子と擬ポリロタキサンナノシートである。当研究室では大型国家プロジェクトに参画し、これらの革新的な材料を用いて世界的な環境課題の解決を目指している。


1)環動高分子
 ポリロタキサン中の環状分子を架橋することで、架橋点が自由に動く環動高分子を開発した2)。通常の架橋高分子では架橋点間の高分子鎖の長さが不均一なために、応力や張力が集中しやすく強靭性に欠けるという課題があった。環動高分子では架橋点が自由に動くことから、架橋点が動滑車のように働き(滑車効果と呼ばれている)、高分子材料内部の応力や張力の集中を分散して、強靭性や破断伸度、耐久性などを大幅に向上するという働きがある。また環のエントロピーは、従来の高分子材料には見られないスライディング転移など、環のスライド運動に起因する特徴的な動的物性をもたらす。環動高分子は最初ゲル材料として開発されたが、その概念はエラストマーや樹脂などにも有効であることが明らかになっている3)。特にエラストマーや樹脂では、既存の材料の中に少量添加するだけで強靭性が大幅に向上することから、様々な分野で応用開発が進んでおり実用化もされている。


2)擬ポリロタキサンナノシート
 厚さがナノメートルサイズと非常に薄いシート状の物質・材料をナノシートと呼び、グラフェンや酸化チタンなどの無機物が多く知られており、2次元材料として注目を集めている。我々は最近、β-シクロデキストリンとポリプロピレングリコールの両端にポリエチレングリコールが結合したトリブロックコポリマーを水中で混合したところ、厚さ16nm程度、大きさ数μmの単離したナノシートが自己組織的に大量に合成できることを見出した4)。本ナノシートは生体安全性や生体適合性に優れ、凹凸の有無にかかわらず様々な有機・無機・生体材料に吸着し、水中で比較的高密度なポリマーブラシを形成するという特徴があり、特に医療やヘルスケアなどでの応用が期待されている。


3)研究プロジェクト
 当研究室は、下記のような国家プロジェクトに運営あるいは研究という立場で関わっている。
・ムーンショット研究開発事業
 現在、海洋におけるマイクロプラスチックが世界的な課題となっている。2020年に始まったムーンショット型研究開発事業の目標4(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施)の中で、「非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」というプロジェクトのリーダーを務め、産学連携で強靭性と海洋生分解性を両立したバイオポリマーの開発に取り組んでいる。

http://www.moonshot.k.u-tokyo.ac.jp/

・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
 現在の大量生産・大量消費・大量廃棄の一方通行型社会(リニアエコノミー)から、持続可能な形で資源を利用しつつ、かつ、経済合理性をも同時に満足する循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行は世界的な課題となっている。2023年度から始まった内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中で、「サーキュラーエコノミーの構築」というプログラムのリーダーを務め、プラスチックのリサイクルの課題に産学連携で取り組んでいる。
https://www.erca.go.jp/erca/sip/ce.html

・未来社会創造事業大規模プロジェクト
 田中敬二主幹教授(九州大学)が代表を務める「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」に参画し、環動高分子を用いた分子接着技術の開発に取り組んでいる。
https://crea.kyushu-u.ac.jp/

文献

1) L. F. Hart, et al., Nat. Rev. Mater., 6(6), 1-23(2021).
2) Y. Okumura and K. Ito, Adv. Mater. 13(7), 485-487(2001).
3) Y. Noda, et al., J. Appl. Polym. Sci., 131, 40509(2014).
4) S. Uenuma, et al., ACS Macro Lett., 10(2), 237-242 (2021).

その他

所属学会:高分子学会、日本化学会、シクロデキストリン学会

将来計画

 高分子材料は軽くて便利なことから、我々の身の回りに満ち溢れるようになってきた。そのためマイクロプラスチックに代表されるように、様々な課題が顕著になってきている。本研究室では、自分たちで発明した独自技術を用いて、社会問題の開発に産学連携で取り組んでいる。丈夫で長持ちし、リサイクル可能で、しかも環境中に流出した場合には生分解するような、環境に優しい革新的な高分子材料を開発したいと考えている。

ホームページのURL

http://www.molle.k.u-tokyo.ac.jp/