概要

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佐々木 淳

(ささき じゅん/教授/環境学研究系)

社会文化環境学専攻/循環環境学講座/沿岸環境学・海岸工学・環境水工学・国際開発学

略歴

1991年 3月 東京大学工学部土木工学科卒業1996年11月 東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻博士課程修了(博士(工学))1995年 4月 日本学術振興会特別研究員DC2,PD1997年 1月 東京大学大学院工学系研究科助手1999年 4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授1999年12月~2000年2月 アジア工科大学院客員研究員2002年10月 横浜国立大学大学院工学研究院助教授(2007年4月同准教授)2007年 8月~11月 フロリダ大学客員研究員2009年 4月 横浜国立大学大学院工学研究院教授2011年 4月 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授を経て2013年4月より現職

教育活動

大学院:沿岸環境基盤学,沿岸環境基盤学演習,社会文化環境学概論(分担),サステイナビリティ論(分担) 学部:沿岸環境学(工学部社会基盤学科),海研究のフロンティア?(東京大学海洋アライアンス)(分担)

研究活動

ブルーカーボンの評価と社会実装:
国連環境計画(UNEP)が2009年に「海洋生物の作用によって隔離・貯留された炭素」をブルーカーボンと命名した.植物プランクトン,海草(アマモ等),海藻(コンブ,ワカメ,ノリ,ホンダワラ等),潮汐湿地,マングローブは光合成によって二酸化炭素を吸収し,一部を長期的に貯留することで,大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑制する作用があると考えられる.そのため,近年,二酸化炭素吸収源対策における新しい選択肢の一つとして,注目を集めつつある.ブルーカーボンによる吸収源対策は,海草・海藻の藻場造成,干潟の再生や創造,マングローブ林の再生が挙げられる.それぞれは沿岸生態系の高度化を通して,生態系サービス(水産資源を通した食量の供給,水質浄化,観光レクリエーション,沿岸災害の防災・減災)や沿岸環境の価値の向上にも貢献する(コベネフィット).また,生態系ベースの対策のため,持続可能性が高く,社会実装への倫理的障壁が低いといった特長がある.このようなブルーカーボンの機能や価値を評価し,社会実装を進めて行くための研究を行っている.

内湾における水底質環境・生態系の長期的な変遷と予測:
東京湾をはじめとする主要な内湾では,近年水質が改善してきたといわれるが(実際,全窒素(TN),全リン(TP)等の陸域からの負荷量は大きく減少),夏季の東京湾の底層では貧酸素水塊が恒常的に発生し,その貧酸素水塊が沿岸域に湧昇することで,周辺の干潟・浅場の底生動物(アサリ等)等が死滅するといった,貧酸素水塊に関わる水質問題が長年の課題となっている.一方,アサリが激減し,代わって貧酸素耐性を有するホンビノスガイが増加するといった大きな変化が現れ,気候変動影響下とも相まって,今後の内湾環境管理のあり方にも見直しが迫られる可能性がある.これらを背景に,現地観測による無酸素水塊を含む水質のモニタリングや底質環境の把握,数値モデルによる再現・予測,底質系と水質系を連成させた,長期的な水底質の環境予測に関する研究を展開している.また,環境改善に有効と考えられる施策の提案やその効果の予測に関する研究にも取り組んでいく.特に,数値予測システムの開発では,流動,波浪推算,水質・生態系,多層底質過程を統合した,オリジナルの数値モデルを開発し,長期的な環境の再現・予測に適用する研究を進めている.また,FVCOMやFABM等のオープンソース(ソースコードが公開され,自由に改変が可能なもの)の数値モデルも積極的に採用し,様々な角度から検討を進めていく.加えて,ベイズ統計モデリングによる水質や生態系の変動要因の解析や数値計算と統計モデリングを融合した,データ同化研究を進めて行く.

生き物の生息場の再生に基づく内湾環境再生:
東京湾をはじめとする富栄養化した内湾では40年以上にも及ぶ流入負荷削減等の努力により,COD,全窒素,全リンは半分から1/3にまで削減されてきた.それにもかかわらず,東京湾の漁獲高は1960年代の1/10以下となり,斬減傾向が継続している.一方,瀬戸内海では栄養塩不足が叫ばれるようになり,東京湾でも冬季には栄養不足がささやかれるようになる等,流入負荷削減を主とする対策に疑問が投げかけられ始めている.こうした中,2013年に東京湾再生官民連携フォーラムが設立され,環境再生への機運が高まりつつあるが,同フォーラム傘下の生き物生息場つくりPT(プロジェクトチーム)を主宰し,東京湾の新鮮な魚介類を意味する「江戸前」の再興を目標に,生き物の生息場の再生に基づく内湾環境の再生の可能性について研究を進めている.

沿岸域の自然災害と減災:
2004年インド洋大津波,2006年ジャワ島沖地震津波,2010年メンタワイ諸島地震津波,2011年東北地震津波,2013年台風ハイヤンによるフィリピン高潮の現地調査を実施し,浸水高・遡上高や被害状況とその発現メカニズムについて研究してきた.また,複雑な沿岸域の地形を精密に表現可能な非構造格子海洋流動モデルFVCOMを用いた,津波・高潮計算システムの開発を行い,既往災害の被災メカニズムの解明や東京湾岸をはじめとする各地域の防災・減災に向けた検討を進めている.

気候変動影響下にあるアジア諸国の沿岸域の持続可能性の追求:
タイ,インドネシア,ベトナム,フィリピン,バングラデシュ等のマングローブ沼地はエビ養殖池の開発等による環境の劣化が著しく,海岸侵食をはじめとする多くの問題を抱えている.また,バングラデシュ沿岸域では淡水資源の塩水化が環境難民を発生させ,沿岸域コミュニティの持続性が損なわれる危惧に直面しつつある.これらの問題が発現するメカニズムの解明や対策検討に資することを目的に,地元の研究者や行政,住民等の協力を得ながら共同研究を展開している.また,スリランカでは,海岸保全施設の建設が困難な途上国の共通の課題として,コベネフィット構造物の概念を導入し,津波減災効果の評価を行っている.さらに,海岸侵食が深刻化しているスリランカ西部海岸を対象に,行政,漁業者,住民と協力して,侵食対策の評価,海岸環境や利用のあり方について,合意形成に資することを目的とした研究を展開している.

文献

1) Amunugama, M. and Sasaki, J.: Numerical modeling of long-term biogeochemical processes and its application to sedimentary bed formation in Tokyo Bay, Water, 10(5), 572, 2018. DOI

2) 佐藤 文也, 佐々木 淳, A. A. W. R. R. M. K. AMUNUGAMA: 水底質統合モデルを用いた東京湾における炭素収支の推算と気候変動に伴う将来予測, 土木学会論文集B2(海岸工学), 73(2), I_1441-I_1446, 2017. DOI

3) Ratnayakage, S. M. S., Sasaki, J., Esteban, M. and Matsuda, H.: Assessment of the co-benefits of structures in coastal areas for tsunami mitigation and improving community resilience in Sri Lanka, Int. J. of Disaster Risk Reduction, 23, 80-92, 2017. DOI

4) 佐々木淳:内湾における環境再生の課題-官民連携による生き物生息場つくりの取り組み,都市計画,66(1), 30-33, 2017.

5) 佐藤文也,佐々木淳,佐野弘明,呉海鍾:東京湾奥部における硫化物を含む無酸素水塊の変動特性と数値再現,土木学会論文集B2(海岸工学),71(2),I_1267-I_1272,2015.

6) Shimozono, T., Tajima, Y., Kennedy, A.B., Nobuoka, H., Sasaki, J. and Sato, S.: Combined infragravity wave and sea-swell runup over fringing reefs by super typhoon Haiyan, J. Geophys. Res. (Oceans), 120(6), 4463-4486, 2015. DOI

7) Chen, C., Lai, Z., Beardsley, R.C., Sasaki, J., Lin, J., Lin, H., Ji, R. and Sun, Y.: The March 11, 2011 Tohoku M9.0 Earthquake-induced tsunami and coastal inundation along the Japanese coast: A model assessment, Prog. Oceanogr., 123, 84-104, 2014. DOI

8) 佐々木 淳・山本修司・Retno Utami Agung WIYONO・鈴木崇之・田中陽二.2011年東北津波による東京湾のノリ養殖被害に関する考察.土木学会論文集B2(海岸工学),69(2),I_351-I_355,2013.

9) Sasaki, J., Ito, K., Suzuki, T., Wiyono, R.U.A., Oda, Y., Takayama, Y., Yokota, K., Furuta, A. and Takagi, H.: Behavior of the 2011 Tohoku earthquake tsunami and resultant damage in Tokyo Bay. Coastal Eng. J., 54(1), 1250012, 26pp., 2012.

その他

土木学会,日本沿岸域学会,国際開発学会,日本海洋学会,AGU各会員.
日本沿岸域学会理事(2017.6~2019.6),同企画運営委員会委員長(2013.5~2017.5),土木学会海岸工学委員会委員兼幹事(2017.6~2019.6),同幹事長(2013.6~2017.6),他.
国土交通省,水産庁,環境省,千葉県,神奈川県,静岡県等の各種委員会委員,審議会委員等.
ブルーカーボン研究会座長(2017年~現在),東京湾再生官民連携フォーラム企画運営委員会委員(2013年~現在),同生き物生息場つくりPT長(2013年~現在).

将来計画

気候変動影響が顕在化する中,影響予測,対策検討,施策の評価に際し,数値モデルやビッグデータ解析(時系列データ,空間データ,衛星画像等)の重要性が増しています.情報技術革命が進展する中,それら最先端の技術を積極的に沿岸域の課題へ適用していきます.
ブルーカーボンの社会実装に向けた研究では,二酸化炭素の吸収・貯留ポテンシャルの評価や社会実装に向けた課題に取り組みます.ブルーカーボンは,その社会実装が藻場やマングローブ等の再生を促進することで,沿岸生態系の質の向上,漁業資源の増大,沿岸災害の減災,エコツーリズム等の価値の創造にも寄与すると考えられ,沿岸環境研究を統合する横串としも重視していきます.
内湾環境研究では,夏季の貧酸素の課題が深刻な状況にある中,冬期には貧栄養の問題が言われ始めています.東京湾ではアサリが激減する一方,外来生物のホンビノスガイが増殖するといった,生態系の変化が顕在化してきています.気候変動影響も含め,内湾環境の将来が大きく変わっていく可能性があり,現地観測,数値シミュレーション,データ解析等によって,環境管理に資する研究を目指します.また,干潟・浅場の造成といった,環境再生施策を漁業資源の再興に繋げるような研究も展開していきたいと考えています.例えば,東京湾のマコガレイは湾奥に砂山を造成することで産卵場を確保することが有効と考えられています.具体的な設計や効果予測に有用な数値モデルの構築に加え,行政,漁業関係者,研究者,NPO等の連携枠組み,材料となる土砂の確保といった,プロジェクト実現に不可欠な官民連携のあり方についても研究していきたいと考えています.
近年深刻さを増している沿岸水災害に関する研究では統合的な沿岸水災害再現・予測システムの開発を進め,地元である東京湾や関東沿岸をはじめとした沿岸域の防災・減災に資するような研究を進めていきます.さらに気候変動影響が顕在化している,東南アジアや南アジアをはじめとする開発途上国の沿岸域を対象に,防災・環境と調和した持続的な利用を支援するための研究を留学生や元留学生のネットワークを活用して展開していきます.特にマングローブ沼地の再生,海岸侵食対策,様々なステークホルダーの合意形成に基づく沿岸域の持続的な利用について,国際共同研究を推進していきます.その際,海岸工学的な手法に加え,アンケート,フォーカス・グループ・ディスカッション,インタビュー等の社会調査を積極的に取り入れていきます.

教員からのメッセージ

科学技術と社会の両面から沿岸域の環境・利用・防災の向上をミッションとし,幅広い分野の学生さんを受け入れています.近年進展の著しい先端的な情報技術を活用した,ビッグデータ解析,統計モデリング,数値モデルの開発と活用,現地観測,および社会調査等,のいずれか,または複数の手法を組み合わせ,新しい価値の創造と社会実装に向け,一緒に取り組みましょう.

ホームページのURL

https://estuarine.jp