概要

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森 初果

(もり はつみ/教授/基盤科学研究系)

物質系専攻/物質科学協力講座

略歴

1984年3月 お茶の水女子大理学部化学科卒、1986年3月お茶の水女子大大学院理学系研究科修士課程修了、1986年4月東京大学物性研究所文部技官、1989年4月(財)超電導工学研究所研究員、1992年3月東京大学理学博士、1992年4月(財)超電導工学研究所主任研究員、2001年4月(財)超電導工学研究所主幹研究員、2001年9月東京大学物性研究所助教授、2007年4月東京大学物性研究所准教授、2010年4月東京大学物性研究所教授 (現職)

教育活動

大学院:物性化学特論(東邦大学大学院)学部:物理化学特論II、固体化学(お茶の水女子大学)、物性物理(東邦大学)

研究活動

 ""有機伝導体および磁性体の物質開発とその構造・物性の研究""が研究テーマで、有機特有の(無機物には無い)物性創成を目指して物質開発を行っている。主な業績は以下のとおりである。

1)新規有機超伝導体の開発及び物性評価
  現在有機超伝導体は80種類余りあるが、初めて10Kを越えた有機超伝導体(κ-ET2Cu(NCS)2; Tc = 10.4 K)をはじめ、計4種類の新規有機超伝導体を発見した。それぞれの物質については単結晶を育成し、X線構造解析で結晶構造を、拡張ヒュッケル法によるバンド計算で電子構造を明らかにし、電気伝導性及びSQUID,ESRを用いた磁性測定で常伝導での電子状態や、超伝導特性を調べた。その結果、有機超伝導体κ-ET2Cu(NCS)2は層状構造をしており、伝導面内で2次元的な電子構造をもっていることをバンド計算および磁気抵抗で明らかにした。この電気抵抗率は、100K付近で極大をもちそれ以下でT2に比例し減少し、強相関モット絶縁体から熱収縮してバンド幅の大きい金属にクロスオーバーしている。磁性も強相関物質であることを反映してその室温磁化率の値は大きく、擬ギャップ的振る舞いが低温で観測される。2次元的な結晶構造は超伝導特性にも反映しており、層間がジョセフソン的に結合した超伝導体であることを明らかにした。この系で超伝導転移温度が10Kを超えて物理の分野では色々な物性測定が可能となり、有機伝導体のフェルミオロジーが確立し、また強相関系として新たな展開が生まれた。(文献1),2))

2) 有機伝導体の電子状態制御因子の決定
  有機伝導体は、通常バンド幅(W)とオンサイトあるいはインターサイトクーロンエネルギー(V, U)が拮抗するため強相関系に属する。我々のグループはθ型と呼ばれる有機伝導体の物質群を開発し、その基底状態が非磁性絶縁相から、超伝導相、金属相の範囲ににわたることを明らかにした。また、その電子状態を制御する因子が、実格子では分子間の二面体角であり、また逆格子ではバンド幅であることを示した相図を提唱した。これにより、θ型の有機超伝導体は、電荷揺らぎをバンド幅増大によって抑えて超伝導相を出現させる系であることが解った。さらにθ型の超電導相の隣にある絶縁相はモット絶縁相ではなく、ストライプ型電荷秩序相であるということが明らかとなり、その中間の電荷揺らぎをもった金属相の電子描像も調べている。(文献3))

3) バンドフィリング制御による新規有機伝導体の開発
 通常有機伝導体の電子状態は、バンド幅制御によってコントロールされる。我々は有機伝導体においても初めて系統的なバンドフィリング制御に成功し、(a)反強磁性体、(b)非磁性体、(c)電荷整列体、(d)ナローギャップ半導体の応答を調べたところ、(d)において半導体が金属に変化することを明らかにした。さらに、このキャリアドープによる強磁性相互作用の出現も観測した。(文献4))

文献

1) H.Urayama-Mori et al., ""A New Ambient Pressure Organic Superconductor Based on BEDT-TTF with Tc Higher than 10 K (Tc=10.4 K)"", Chem. Lett., 1988, 55.
2) H.Mori et al., ""A New Ambient-Pressure Organic Superconductorκ-(BEDT-TTF)2Ag(CN)2H2O"", Solid State Commun., 76, 35(1990).
3) H.Mori et al., ""Systematic Study of the Electonic State in θ-type BEDT-TTF Organic Conductors by Changing the Electronic Correlation"", Phys. Rev. B, 57, 12023-12029(1998).
4) H.Mori et al., ""First Systematic Band-Filling Control in Organic Conductors"", J. Am. Chem. Soc., 124, 1251-1260(2002).

その他

所属学会:日本化学会、日本物理学会

将来計画

 有機固体はその構成単位である分子の多様性、素材の柔らかさを特徴とするが、その機能性としては1980年に初の超伝導体が発見され、1991年に初の有機強磁性体が見い出されて以来、無機物とは異なる特性に注目が集まっている。無機物には無い有機物の特性を生かして、新しいタイプの機能性物質を開拓していきたい。

教員からのメッセージ

 科学の面白さは自然との対話にあると思う。こちらの問いかけに対し、自然の答えは人智を超えるものであることを、研究を通していつも感じる。我々化学屋はある明確な目的をもって物質開発を始めるのだが、自然界の答えはその思いを越え、意外性をもった新しい展開をいつも提示してくれる。学生の方々には研究を通して自然との対話の面白さ、楽しさを実際肌で感じる能力を培ってもらいたいと思う。

ホームページのURL

http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/labs/new_materials/hmori