概要

教員検索

久恒 辰博

(ひさつね たつひろ/准教授/生命科学研究系)

先端生命科学専攻/構造生命科学講座/細胞応答化学分野

略歴

1987年3月 東京大学農学部農芸化学科卒業、 1989年3月 東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻修士課程修了、同年4月 同博士課程進学、 1991年6月 東京大学農学部助手 1993年9月 博士(農学)(東京大学) 1994年4月~1996年3月 アメリカ国立予防衛生研究所(NIH) 脳疾患および脳卒中研究所(NINDS) 客員研究員、 1996年4月  東京大学大学院農学生命科学研究科助手(改組による) 1999年4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授(現職)

教育活動

大学院:シグナル伝達機能化学、科学技術倫理論、先端生命科学演習、先端生命科学研究論
農学部:応用生物化学実験

研究活動

1) 大脳神経回路のシステム形成原理
 大脳皮質のニューロン群は、感覚系からの入力信号を受け取り、統合的に処理し、各種の運動として出力するはたらきを担っています。このニューラルネットの配線機構については未だ不明なことが多く、未知なる現象が数多く未発見のままであると推測されます。そこで私たちは、この配線過程を調べるために、高解像度の顕微鏡下でニューロンを一個一個同定し、その細胞の活動を微小電極および蛍光画像イメージングにより計測する技術を開発しました。その結果、この配線過程は自然発生(オートポイエーシス)的に進行する機構と、外界からの神経刺激により可逆的に制御される機構とが、密接に連関しつつ進行していることがわかってきました(文献4,5)。中でも、この時期に特徴的なイベントとして、ニューロン群が偶発的に協調して活動する現象を見出しました。今後は、大脳回路形成の数理シミュレーションについても研究を進めていく予定です。

2) 成体における脳神経回路の再生メカニズムの解明
 脳回路の成長は、子供のころに停止し、それ以降は退化していくだけであると、これまで考えられてきました。しかし、私たちを含め複数のグループが「大人になっても脳細胞は成長している」ことを発見し、新しい研究領域が、今まさに開拓されようとしています(文献1-3,6)。大人の脳の中にも、ニューロンに成長することができる神経幹細胞が、数多く存在していることがわかってきたからです。私たちは、大人の脳内で神経幹細胞から新しくニューロンが生み出されていく機構、さらにはこの新生ニューロンにより脳回路が再生されていく仕組みを、霊長類を含めたモデル動物の系で研究しています。またさらに、脳梗塞の動物モデルを導入し、脳神経回路の再生過程を解析するとともに、脳梗塞の治療に効果のある薬剤の探索を進めています。これらの知見を有効に利用すれば、脳の病気や加齢により傷害された脳神経回路を修復することが実現するはずです。

文献

1)久恒辰博、「幸せ脳」は自分でつくる
脳は死ぬまで成長する(講談社、2003)
2)D. Koketsu, A. Mikami, Y. Miyamoto and T. Hisatsune, Non-renewal of neurons in the cerebral neocortex of adult Macaque monkeys, Journal of Neuroscience 23, 937-942 (2003)
3)N. Yoshida, S. Hishiyama, M. Yamaguchi, M. Hashiguchi, Y. Miyamoto, S. Kaminogawa and T. Hisatsune, Decrease in expression of α5β1 integrin during neuronal differentiation of cortical progenitor cells, Experimental Cell Research 287, 262-271 (2003)
4)H. Okada, N. Miyakawa, H. Mori, M. Mishina, Y. Miyamoto and T. Hisatsune, NMDA receptors in cortical development are essential for the generation of coordinated increases in [Ca2+]i in “Neuronal Domains”, Cerebral Cortex 13, 749-757 (2003)
5)N. Miyakawa, S. Uchino, T. Yamashita, H. Okada, T. Nakamura, S. Kaminogawa, Y. Miyamoto, and T. Hisatsune, A glycine receptor antagonist, strychnine, blocked NMDA receptor activation in the neonatal mouse neocertex, NeuroReport 13, 1667-1673 (2002)
6)K. Nakashima, M. Yanagisawa, H. Arakawa, N. Kimura, T. Hisatsune, M. Kawabata, K. Miyazono and T. Taga, Synergistic signaling in fetal brain by STAT3-Smad1 complex bridged by p300, Science, 284, 479-482 (1999)

その他

日本神経科学会、北米神経科学会、日本農芸化学会、日本動物細胞工学会、日本霊長類学会

教員からのメッセージ

 「とにかく脳のことが知りたい」この一心で研究を進めてきました。複合領域であるはずの脳科学も、研究の細分化が進行し、危機的状況にあります。本研究科のモットーである学融合の精神を基軸に、これまでに国内外の研究者との活発な交流を進め、この中から新しい発見を生み出してきました。“新しい分野を切り開き、自分の力で何かをやり遂げてみたい”そんな大学院生を応援する研究環境作りを推進してします。