新東京大学大学院領域創成科学研究科
磁場と渦の宇宙論的起源にせまる 
新領域創成科学研究科記者会見を8月31日に行いました

発表者 

吉田善章 教授(大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻)

発表概要

宇宙は渦=磁場でみちている(物理の理論では渦と磁場は統一して記述される).その起源,すなわち最初の磁場=渦がどうして生まれたかが謎であった.宇宙の渦=磁場を「時空の歪み」として説明する研究が注目を集めている.

発表内容

 〈渦〉は不思議な事象を説明する概念として,科学史の中にしばしば登場する.デカルトの宇宙論にも〈渦〉の概念が現れる.宇宙にみちる渦動が惑星と衛星を運ぶというのである.月の摂動を研究したオイラーは,エーテル中の複雑な渦動を構想した.もちろん流体に現れる可視的な構造としての渦は馴染みが深い.しかし,その渦とは何か,どのような働きをするのかは十分理解できてはいない.今も〈渦〉は,科学の諸領域で,不思議な作用,複雑な現象という意味を引き寄せる謎であり続けている.
 たしかに宇宙は「渦」でみたされている.現代物理学では,流体の渦と磁場を統一的に考える.宇宙はこの〈渦=磁場〉でみたされているのである.銀河,降着円盤,惑星系,そしてほとんど全ての天体がもつ磁場などである.
 渦=磁場の発達や変形に関する研究は既に多くある.しかし,その「起源」すなわち「種」がどのようにして生まれたのかは物理の大きな謎である.その「創造」を説明する新しい理論が生まれた[論文1].東京大学大学院新領域創成科学研究科の吉田善章教授とテキサス大学のS.M. マハジャン教授は,相対性原理の効果によって生じる時空間の歪みが渦=磁場を生みだすことを示した.このメカニズムは,初期宇宙論だけでなく,高エネルギー天体や強力なレーザーなどで重要な働きをしていると考えられ,新しい現象の発見にもつながると期待される.
 東京大学大学院新領域創成科学研究科のRT−1実験プロジェクトでは,超伝導マグネットがつくる磁場で天体磁気圏の渦構造を再現する研究が進められている.磁場の効果で電荷をもった粒子が感じる空間が歪み,渦が自然に形成されることが実験的に証明された [論文2].この構造は,先進的な核融合に応用できる可能性があり,注目されている.
 今回発表される成果は,自然や社会に遍くみいだされる〈渦〉の起源と構造について新しい見方を与えるものとして,幅広い科学に波及することが期待される.

発表雑誌

Physical Review Letters 誌 2件
[論文1] S.M. Mahajan and Z. Yoshida; Twisting space-time: Relativistic origin of seed magnetic field and vorticity,Phys. Rev. Lett. 105, 095005 (2010).
** Editor's Suggestionに選ばれる.また米国物理学会から注目論文としてハイライトされる:
http://physics.aps.org/synopsis-for/10.1103/PhysRevLett.105.095005
[論文2] Z. Yoshida et al., Magnetospheric vortex formation: self-organized confinement of charged particles, Phys. Rev. Lett. 104, 235004 (2010).
** 米国物理学会(2010年11月)で招待講演の予定(発表者・齋藤晴彦助教). 6月10日にすでに掲載されました。

問い合わせ先

吉田善章(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
電話:04-7136-3991
Fax:04-7136-3992
E-mail: yoshida@ppl.k.u-tokyo.ac.jp

用語解説:

宇宙磁場
ほとんど全ての天体は磁場をもっている(地磁気,太陽の磁場,銀河や銀河団の磁場など;銀河や銀河団は10-7〜10-5 ガウスほどの磁場をもつ;因みに日本の地域で観測される地磁気は0.3ガウス程度である).その磁場は,宇宙の大規模空間に広がった磁場を天体が巻き込んで増幅したものと考えられている(渦運動による磁場の増幅プロセスはダイナモ効果と呼ばれ多くの研究がある).しかし,その元となる宇宙磁場(種磁場とも呼ばれる)がどのようにして生まれたのか,すなわち「磁場の起源」が謎として残されている.いろいろなモデルが提案されているが,さまざまなスケールの磁場が作られる一般的なメカニズムは未だ明らかになっていない.今回発表される理論は,相対性理論に基づいた新しい原理を提案する.
渦と磁場
物理の理論では,物体の旋回運動を表わす「渦」の概念を一般化して,電磁場の渦である「磁場」と統一した「一般化した渦」を考える.天体の構造は,この一般化された渦(回転運動と磁場の結合体)として理解できる.しかし,物理の基本方程式は,一般化された渦に対する「保存則」を示しており,最初に渦=磁場が0であればずっと0ということになる.そこで最初の「種」がどのようにして創造されたのかという問題が,物理の基本法則に遡及する謎として研究されている.今回の研究成果は,相対論効果によって時空が歪んだことで渦=磁場が作られるという新しい原理を提示したものである.
相対論効果
アインシュタインによって導かれた「相対性理論」は,時間と空間が独立ではなく,運動する物体ごとに「固有な時間」を用いてその運動を記述しなくてはならないことを示している.運動している時計はゆっくり進む.この「相対論効果」のために,様々な速度で運動する物体で満たされた流体の時空間は複雑に歪み,その歪の効果で「渦」が生成されることが示された.
磁場中の粒子(プラズマ)が感じる空間
一般的に周期運動が生じると断熱不変量という保存量が生まれ,エネルギーが量子化される(断熱不変量はエネルギー量子の数という意味をもつ).このエネルギー量子は,断熱不変量を分離した空間の中で運動するのだが,その空間は,運動を直接観察している空間の中にはめ込まれた「歪んだ曲面」として表わされる.電荷をもった粒子が磁場中に置かれると,磁力線の周りを旋回する周期運動(サイクロトロン運動)が生じて磁気モーメントという断熱不変量が生まれる.このために,磁場中の粒子運動に歪が生じ,その効果で天体磁気圏の渦構造が自然に生みだされることが示された.
渦の一般科学
「渦」とは何かを一般的に定義することは難しい.さまざまな不思議な運動や構造が「渦」という表象に結び付けられるからである.たとえば,銀河や降着円盤,惑星系などを特徴づける回転運動,太陽表面の複雑な渦,地球でも台風や竜巻,海流などの渦,生体においても様々な模様・パターンに現れる渦,あるいは突然死につながる心筋上の渦などは可視的な渦の多様な例である.また「渦中」とか「・・・の渦に巻き込まれる」とか日常言語でも使われるように,複雑で動的な様相を表わす言葉(メタファー)にも「渦」が現れる.「渦」がどのように発生し,変化し,どのような効果をもたらすかを理解することは,現代科学の諸領域で重要な課題である.今回発表された成果は,宇宙に渦の起源を探す物理学の研究であるが,渦の起源,構造,働きについて新しい見方を与えるものとして,幅広い科学に波及することが期待される.

添付資料

相対論の効果で生まれる磁場.膨張する卵型の球殻上に発生する磁場の強度分布.膨張速度の不均一によって時空が歪むことで電磁場の「渦」すなわち磁場が生まれる.




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