研究紹介

かつて微細加工の寸法の縮小だけで電子デバイスの性能が向上していた時代もありましたが、現代の電子デバイス性能の飛躍的な向上には、高い機能を有する新しいデバイス材料を取り入れることが不可欠になっています。電子デバイスは外部から印加する電圧に応じて半導体中のキャリアが増減することによって動作しますが、この動作を担うのは主に半導体と絶縁膜の界面近傍の数ナノから数十ナノメートルほどの領域であり、この領域の物性がデバイス特性を支配しています。従って新しいデバイス材料を使いこなすためには、材料の性質をよく調べ、理解した上で、適切なプロセスによって界面近傍のナノ領域における原子のならびや物性を制御することが欠かせません。
例えば、ワイドギャップ半導体をSi に代わるデバイス材料として使いこなせれば、電気自動車や鉄道を始め、様々な機器の電力を制御するのに必要となるパワーデバイスの飛躍的な高効率化が可能になり、省エネルギー社会に大きく貢献することができます。また優れた誘電物性を持つナノ絶縁膜はトランジスタやメモリの進化には欠かせません。例えばナノ薄膜でありながら強誘電性を示す材料は、次世代コンピューティングを支える新しい不揮発性メモリへの応用が期待できます。

喜多研究室 研究紹介

 

ワイドギャップ半導体SiCのMOSFET反転層移動度のアニール処理による向上効果

喜多研究室 研究紹介

 

ワイドギャップ半導体SiCとゲート絶縁膜SiO2の界面と、赤外分光による構造解析

メッセージ

社会で一番役に立つ学問は何か? 物質科学を選んだ理由はそれだった。電子デバイスの世界では「できたらいいな」が、日々「できた」に更新されている。

生活に身近な現象を理解するための「化学」は、環境保全やエネルギーの高効率利用など社会に貢献できる技術を学ぶのに必要だとの考えから、私は化学工学を専攻していました。卒業後に助手となると、今度は「物理」を専門としながら最先端の電子デバイス研究を先導する教授と出会いました。教授から次々に湧き出る新しいアイデアを必死に追いかけているうちに、やがて自分の道をみつけて今に至ります。
今、最先端をいく電子デバイスに重要なのは「材料学」です。デバイス分野では私のように材料学を専門とする研究者はまだ少なく、自分の果たすべき役割は大きいと感じます。材料学の視点でデバイスの物理を考えることで初めて気づくことが多いのです。このような研究ではアイデアを試してもうまくいかないことの方が多いのですが、「ダメだった」を繰り返すうちに「これはいい!」に辿りつき、それが未来につながっています。挫折なんて不要です。全力で迷いながら進んでいくのが楽しいのです。

物質系専攻を志す学生へ

現代社会の科学技術への期待は大きく膨らんでおり、様々な技術的な課題に私たちの知恵を結集して立ち向かうことが求められています。物質系専攻では、材料のまったく新しい機能を発見したり、それを自在に設計・製造する技術を作り出しています。例えば私たちの身の回りの電子デバイスも、その機能の飛躍的な向上には新しい材料を使いこなす技術が欠かせません。皆さんにも、大きな課題に立ち向かう使命感を胸に、この輪に加わって欲しいと思います。

プロフィール

喜多 浩之 教授

喜多 浩之 教授

1994年 東京大学工学部化学工学科卒

1996年 東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修士課程修了

1996年-1998年 三洋電機株式会社研究開発本部勤務

2001年 東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻博士課程修了(工学博士)

2001年 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻助手

2007年 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻講師

2010年 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻准教授

2022年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授

研究室訪問

  • 04-7136-5456
  • 277-8561
  • 千葉県柏市柏の葉5-1-5
  • 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
  • 喜多浩之教授研究室
  • kita@edu.k.u-tokyo.ac.jp