研究紹介

私たちの研究室では、新しい分子の形を活かした高分子材料群の開発をするうえで、分子の運動性や刺激応答性、持続可能性に着して研究を行っています。金属やセラミックスとは違い、高分子材料中には様々な階層の分子運動があります。結晶状態やガラス状態であっても、高分子には側鎖の回転などが残っていて、材料の耐衝撃性や気体分離性能などに劇的な効果をもたらします。分子マシンという言葉は2016年のノーベル化学賞で広く知られるようになりましたが、私たちはこのような分子群に特有の運動性を、目で見える材料物性や機能として発現させる研究に取り組んでいます。例えば、共有結合の代わりに幾何学的な拘束を用いることで、高分子の主鎖と側鎖の運動を分離することができます。また、材料の変形という刺激に対しても、役割の異なる主鎖と側鎖の高い独立性によって、柔軟に対応できます。さらに、その材料は環状オリゴ糖を主成分として実現していて、新たなバイオベースプラスチックとしても期待されています。ミクロな分子の構造から隣接する分子との相互作用、材料中での運動性や高次構造、そしてマクロな材料物性や刺激応答性を、階層的に一つずつ調べ上げ、分子設計へのフィードバックを繰り返すことで、これまでにない新しい物性や機能を持った高分子材料の実現を目指しています。

加藤研究室 研究紹介

 

環状オリゴ糖を主成分とし、幾何学的に結合した高分子を有する透明プラスチック。ガラス状態にもかかわらず、高分子の鎖は大きく運動しており、これを用いた分離膜への応用が研究されている。

加藤研究室 研究紹介

 

高分子鎖と環状オリゴ糖は結合していないため、応力が集中した部分では鎖が環から引き出されるこることで、堅くても強靭な材料となっている。

メッセージ

持続可能性と高性能化は両立する。分子の新しい形を設計することで、次世代のプラスチック材料を生み出します。

学生時代、複雑な形を持った分子どうしが、結晶の中で複雑に結合している姿を毎日のように観察していました。それぞれの分子が持つ個性を隣接する分子どうしが認識し合い、それが目で見える大きさの結晶の形や性質になって表れている様子は、まるで小さな宇宙のようにも感じました。この経験は、分子の形を正しく設計することができれば、目で見える大きさの材料の性質をも自在に操ることができるという確信を与えてくれました。当時は分子量が数百程度の有機分子を扱っていましたが、その後は分子量が数万を超える複雑な分子を使って、プラスチックを始めとする高分子材料の物性や機能を自在に操るための、分子のデザインに取り組んできました。そして今、私たちの研究室では、分子間が特殊なつながりを持った超分子と呼ばれる分子群を用いた、新たなプラスチック材料の研究をしています。デンプンへの酵素反応によって工業的規模で合成されている環状オリゴ糖を主原料にし、その穴に細い糸を通したネックレスのような超分子からでも、透明なプラスチックが作れるようになっています。この変わった形をした分子が持つ個性は、既存のプラスチックには無い物性や機能として表れ始めています。ミクロな分子の個性とマクロな材料の性質の関係を理解していくことで、石油原料に依存しなくても高い性能を持ったプラスチックが設計できるようになると信じています。

物質系専攻を志す学生へ

私たちの身の回りにある材料の多くは、金属、セラミックス、樹脂、ゴムなどが複雑に組み合わさった複合材料です。物質系専攻では、様々な材料物性に関する最高の研究環境と高度な専門知識を持った仲間や教員が待っています。国際色豊かなキャンパスの中で、幅広い分野の研究者と交流することで、これまでにない新しい材料のアイデアが思い浮かぶかもしれません。

プロフィール

加藤 和明 准教授

加藤 和明 准教授

2004年 大阪大学大学院工学研究科博士課程修了

2004年 産業技術総合研究所研究員

2005年 アレクサンダー・フォン・フンボルト財団研究員(ドイツ、ザールラント大学)

2007年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻特任研究員

2009年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻特任助教

2014年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻特任講師

2017年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻講師

2023年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻准教授

研究室訪問

  • 080-7300-8968
  • 277-8561
  • 千葉県柏市柏の葉5-1-5
  • 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
  • 加藤和明准教授研究室
  • kkato@edu.k.u-tokyo.ac.jp