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田邉 晋

(たなべ すすむ/客員准教授/環境学研究系)

自然環境学専攻/地球表層地質環境学講座/沖積層、地層形成、海水準変動

略歴

1998年3月信州大学理学部地質学科卒業
2000年3月信州大学大学院工学系研究科地球生物圏科学専攻修士課程修了
2003年3月新潟大学大学院自然科学研究科生物圏科学専攻博士課程修了(理学博士)
2003年4月産業技術総合研究所地球科学情報研究部門特別研究員
2004年4月日本学術振興会特別研究員
2004年10月産業技術総合研究所地質情報研究部門研究員
2011年4月産業技術総合研究所地質標本館主幹
2012年4月産業技術総合研究所地質情報研究部門研究員
2013年3月産業技術総合研究所地質情報研究部門主任研究員(現職)
2015年4月東京大学大学院新領域創成科学研究科客員准教授

教育活動

大学院:自然環境学演習I、 II、自然環境学特別演習I、 II、 III、自然環境学研究I、 II、自然環境学特別研究I、 II、 III

研究活動

もともと考古学が好きだったのですが、遺跡の発掘現場でトレンチを見学するに従い、考古学をやる前に地質学を勉強する必要があると考え、大学は当時第四紀学講座のあった信州大学を選びました。大学では、化石にも興味が沸き、卒論では山中地溝帯という白亜系の堆積盆解析を行いました。しかし、ここはスラストで激しい変形を受けており、堆積盆解析以前に堆積相すら認定することができませんでした。そこで、現世の地層で観る目を養いたいと思い、修士からはボーリングコアを用いて、東南アジアにおけるデルタの完新世の発達過程を研究するようになりました。この研究は博士でも続けたのですが、その結果、地層を観る目やその発達過程を復元できる能力が身についたと思います。産総研には、このような能力を認めてもらって雇われたのですが、就職してからは、日本各地の沖積低地の調査を行ってきました。東京低地では地震動予測、越後平野では活断層の履歴解明、利根川低地では液状化調査を目的としたプロジェクト研究を行ってきましたが、いずれの研究でも沖積層の成立ちが堆積物物性の分布を決定し、それが地質災害と密接に関係することが分かりました。
現在、考えうる研究テーマとしては以下のものがあります。
1) 多摩川低地における沖積層の発達過程に関する研究:産総研のプロジェクトとして行っているもので、地震動予測に資する地質情報を整備するのが目的です。デルタの発生の形態や海陸境界における沖積層の発達過程などのテーマが考えられます。
2) 台湾における沈降堆積盆の研究:名古屋大学や台湾の中央地質調査所との共同研究として行っているものです。台湾南西部には250 mを超える世界で最も厚い沖積層が分布します。MIS3からLGMにかけた海水準変動や地震性イベント堆積物に関する研究が考えられます。
3) 霞ヶ浦周辺の環境変遷と貝塚形成に関する研究:上高津貝塚や陸平貝塚の考古資料館との共同研究として行う予定のものです。主にフィールド調査によって、霞ヶ浦周辺の縄文海進以降の海水準変動と地形発達を明らかにし、貝塚立地や縄文人の食生活がどの程度環境変遷に依存するのか、定量的に調べようとしています。








東京低地における沖積層の基盤地形.田辺ほか(2008)地質調査研究報告.

文献

1) Tanabe, S., Nakanishi, T., Ishihara, Y., Nakashima, R. (2015) Millennial-scale stratigraphy of a tide-dominated incised valley during the last 14 kyr: Spatial and quantitative reconstruction in the Tokyo Lowland, central Japan. Sedimentology, doi: 10.1111/sed.12204.
2) 田辺 晋・石原武志・小松原 琢(2014)沖積層の基底にみられる起伏地形:その成因の予察的解釈.地質調査研究報告,65,45-55.
3) 田辺 晋・石原与四郎(2013)東京低地と中川低地における沖積層最上部陸成層の発達様式:“弥生の小海退”への応答.地質学雑誌,119,350-367.
4) 田辺 晋(2013)テクトニックな沈降域における沿岸河口低地の地層形成:越後平野の沖積層を例として.地学雑誌,122,291-307.
5) Tanabe, S., Nakanishi, T., Yasui, S. (2010) Relative sea-level change in and around the Younger Dryas inferred from the late Quaternary incised-valley fills along the Japan Sea. Quaternary Science Reviews, 29, 3956-3971.
6) Tanabe, S., Saito, Y., Vu, Q.L., Hanebuth, T.J.J., Ngo, Q.L., Kitamura, A. (2006) Holocene evolution of the Song Hong (Red River) delta system, northern Vietnam. Sedimentary Geology, 187, 29-61.
7) Tanabe, S., Ta, T.K.O., Nguyen, V.L., Tateishi, M., Kobayashi, I., Saito, Y. (2003) Delta evolution model inferred from the Holocene Mekong delta, southern Vietnam. In: F. H. Sidi, D. Nummedal, P. Imbert, H. Darman, H. W. Posamentier (eds.) Tropical Deltas of Southeast Asia: Sedimentology, Stratigraphy, and Petroleum Geology, SEPM Special Publication 76, 175-188.
8) Tanabe, S., Saito, Y., Sato, Y., Suzuki, Y., Sinsakul, S., Tiyapairach, S., Chaimanee, N. (2003) Stratigraphy and Holocene evolution of the mud-dominated Chao Phraya delta, Thailand. Quaternary Science Reviews, 22, 789-807.

その他

所属学会:日本地質学会、日本第四紀学会、日本堆積学会、国際堆積学会(IAS)、米国地球物理学連合(AGU)

将来計画

放射性炭素年代によって、沖積層の年代を測り、その千年単位の発達過程を復元する研究は、ここ20年ほどで急速に広まりました。仕事柄、日本の沖積低地の調査を行うことが多いので、将来は100 km以下の規模を持つ沖積低地の地層形成過程を定量的に体系化したいと考えています。このような沖積低地は、日本の他にも台湾やイタリアなどにも分布しており、国際的な対比も必要になります。また、地層形成過程の定量化には、アナログ調査だけではなく、共同研究によって地球物理学的シミュレーションを加える必要があります。沖積層の形成に最も影響のある海水準変動についても、まだまだ不確定な要素がたくさんあると考えています。その他、内陸堆積盆における沖積層の形成過程や沖積低地の地形発達と人間活動との関わりなど、やりたい研究はたくさんあります。

教員からのメッセージ

これまで様々な沖積低地を研究してきましたが、どれひとつとして同じものがないという印象です。ボーリングコアを開けるたびに新たな発見があります。これらの発見の中には新たな普遍的な概念の創出へとつながるものもあり、このような思考作業とそれを体現化した論文が完成した時が、研究をやっていて一番楽しい時です。このような楽しさを得るためには、ある程度の経験も必要かも知れません。大学では、その基礎となる地層を観る目や堆積物の解析技術、データにもとづいた考察と論文化ができる能力を身につけてもらいたいと思います。沖積層の研究には、ボーリングコアが必要なこともあって、なかなかとりかかりにくく、研究人口があまり多くないのが現状です。しかしその反面、都市などの社会基盤が立地する地層であることから、応用面でのニーズが高いのも事実です。このような沖積層の研究を一緒に盛り上げてくれる方々に巡り会いたいと願っています。

ホームページのURL

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