概要

教育目標

基盤科学研究系

基盤科学研究系の教育目標は、人類が直面する様々な課題を解決するため、関連する個々の専門分野におけるものの考え方を理解しつつ、勇気を持ってその間の垣根を飛び越え、新たなパラダイム創造を実行できる人材の育成です。今日の科学技術の進歩の多くは、扱う課題を細かく分類して、そこを深く探求することによって達成されてきました。その反面、分野間の関連性が見えにくくなっています。相互の関連性に気づかないため、永年の課題が、他の分野で得られた知を経由することで解決するというチャンスを逃しているかもしれないのです。

基盤科学研究系とは、構成する物質系、先端エネルギー工学、複雑理工学の3専攻を包む大きな分野ではなく、これらの中にある個々の分野をノードとし、それらを縦横無尽に接続するネットワークだと考えてください。自分が研究する専門分野を入り口として、この巨大なネットワークに入りましょう。時に勇気が必要ではありますが、出来る限りの機会を利用して、他の分野に接続してみましょう。分野が異なると、同じ問題が、異なる名称、異なる価値観で語られ、場合によっては、既に解決済みであることがあります。それをうまく利用して、自分の抱えている課題を解くブレイクスルーにしていく、そのような能力を身につけて欲しいと考えています。

物質系専攻では、理学と工学の融合によって物質に関わる先導的研究と総合的かつ系統的な教育を行っています。先端エネルギー工学専攻では、エネルギーに関する先端物理、材料、システム、環境等の諸問題を総合的に扱います。複雑理工学専攻では、理工融合により、ナノから宇宙にわたるマルチスケールで複雑系科学技術を創成します。

これら3専攻に加え、基盤科学研究系では分野横断型の教育プログラムを提供しています。核融合研究教育プログラムでは、東京大学における核融合研究・教育の英知を結集し、未来の核融合研究を国際的に先導する人材を育成します。高次元データ駆動科学教育プログラムでは、どの分野でも必要となるイメージング、シミュレーション、データ分析について新しい方法論、哲学を探究します。深宇宙探査学教育プログラムでは、価値ある探査を立案し、実行に移すことができる理工連携マインドを持つ人材を育成します。

さらに、基盤科学研究系は、物性研究所のような東大内の他の部局や、JAXAのような東大外の機関とも連携し、科学技術探究の世界を広げています。基盤科学研究系では分野の垣根を容易に飛び越える学習環境を提供しています。

基盤科学研究系長 鈴木 宏二郎

生命科学研究系

生命科学研究系は、新領域創成科学研究科の中で、文字通り生命科学を担う部門として設置されています。多様な研究領域をカバーしており、本郷・弥生・浅野・駒場キャンパス内のいろいろな研究科、専攻、研究所等に分散する生命科学の部署を一部門に凝縮したような趣があります。生命科学研究系は、多様な研究背景を持つ教員からなる2専攻、先端生命科学専攻とメディカル情報生命専攻、から構成されます。また、それぞれの専攻には、学内他部局の兼担教員、協力講座、学外研究機関の連携講座が属します。さらに、研究科に設置された生命データサイエンスセンターとの密接な協力により、データサイエンスのリテラシーを兼ね備えた人材育成にも力を入れています。生命科学研究系は様々な背景をもつ学生を積極的に受け入れ、多様な研究分野でユニークな研究と教育を行っています。

多様な研究分野があるといっても、個々ばらばらに研究・教育を行うのではなく、研究科の「学融合」の理念のもと、分野や専攻を超えた教育と研究を行うことをモットーとしています。専攻を超えた教育プログラムの一例として、国際化演習(短期留学プログラム)があります。先端生命科学専攻は中国の浙江大学と部局間協定を締結しており、メディカル情報生命専攻はフランスのリヨン大学と大学間協定を結んでいます。これらに基づき、専攻を超えて学生派遣・受け入れの短期交換留学を行っています。これらの海外の大学と、教員・学生の研究交流のための合同シンポジウムも開催しています。

また、生命データサイエンスセンターを通じて、博士課程向けの生命系共通教育プログラムとして、データサイエンス人材育成教育プログラム(DSTEP)を実施しています。これには科目等履修生制度も活用し、企業に勤める、DSTEPに関心のある社会人の受講も可能としており、リカレント教育にも力を入れています。最近の試みとしては、健康長寿実現に向けた分野横断的・課題解決型の人材養成を目的とする老化制御デザイン演習を、環境学研究系とも連携して行っています。

研究面では、先端生命科学専攻は、多様な生物を対象に、生体分子、細胞、生物個体、生物集団/生態系といった階層を縦断し、食、健康、生物資源、多様性・進化といった基礎から実用をカバーする様々なベクトルをもった研究を、ウェット、ドライ、フィールドワークなどの多様なツール・メソッド・アプローチを駆使して行っています。生命の基本分子という「共通言語」による多様な生命現象の統合的理解(Integrated Biosciences)を目指しています。先端生命科学専攻の名称にある「先端」は、すでにあるピラミッドの先端に登るのではなく、自らを発端として先端に立ち、先端を創るという含意から来ています。

メディカル情報生命専攻は、研究科の旧2専攻、情報生命科学専攻とメディカルゲノム専攻との融合により2015年に誕生し、「医科学」と「バイオインフォマティクス」を旗印としています。遺伝子発現機構や生命機能分子の最先端知見を医療現場に橋渡しすることで革新的医療を実現し、そのためのデータサイエンスの加速を目指しています。また、同専攻には、研究科で唯一の教育コースである医療イノベーションコースが設置され、最先端科学の成果の医療や産業への展開に必要な社会の仕組みと倫理・知財・規制などでの諸課題について文理融合型の研究・教育を担っています。

このように生命科学研究系は、多角的なバイオサイエンス、医科学、バイオインフォマティクスを看板に掲げ、学融合による教育と研究活動を通じて、社会に知的成果を還元し、科学的思考と国際性を身に着けた人材の育成を目指しています。

生命科学研究系長 河村 正二

環境学研究系

環境学研究系は、その前身である環境学専攻が1999年に設立されて以来、多くの分野の専門家が「学融合」の理念に基づいて協力することにより、複雑化・多様化する環境問題に対して世の中に解決策を提示していくことを目標として教育・研究活動をおこなってきた。現象・事象を細分化し真理や原理を追求するための科学から、多面的な環境問題にかかわる多様な要素を総合化し、社会全体としての解決の道筋を示すような新たな学術への転換を目指している。

本研究系では、自然環境学、海洋技術環境学、環境システム学、人間環境学、社会文化環境学、国際協力学という6つの専攻をユニットとして教育研究をおこなっている。それぞれの専攻が特定の学問領域に収斂するのではなく、各専攻の中に多様な領域を配し、専攻一つ一つがそれぞれ特有の視点や対象を持ちつつも環境を総合的に幅広く扱えるよう配慮している。その上で研究系全体としてさまざまな分野が融合しつつ、新しい学術分野として環境の設計・創造につながるような環境学を構築していこうとしている。

「知の爆発」に象徴されるように、知識や技術の深化のスピードはめざましく、これに情報伝達手段の発達が相まって、人類の生活は大きな質的変化を遂げている。多様なニーズに応えるべく暮らしの豊かさや生活空間の広がりが急速に進む一方で、地域格差や経済格差などの様々な地球規模での社会的問題も顕在化してきた。さらに、気候変動に代表される地球環境問題が危急の課題として人類全体にのしかかっている。解決すべき問題は、空間的にも時間的にも広範にわたり、それらが複雑に絡み合っているのである。このような中で環境を考える際には、各瞬間でのスナップショットで最適化をめざすだけでは十分でなく、あるべき未来の姿を明確にイメージし、かつその目標と現在をシームレスにつなげる合理的で現実的な道筋を含めて考えなければならない。価値観の多様性を認めつつ、将来にわたっての最適解を見いだすことは決して容易ではないが、だからこそ既存の学問体系の枠組みを超えた学融合によって、新しいパラダイムを創造していくことが環境学の使命であり、環境学研究の醍醐味であると考えている。

教育面においても、専門分野の習得を目指す各専攻独自の教育カリキュラムに加えて、研究系横断的な教育プログラムとして、英語での教育により学位を出すサステイナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラムや、一定の要件を満たした学生に修了証を授与する環境マネジメントプログラムおよび環境デザイン統合教育プログラムを配置し、総合的な視野を持って複層的な環境問題に立ち向かい、新たな産業を創出できる人材の養成を目指している。また、全学横断プログラムである海洋学際教育プログラムにも主体的にかかわっている。さらに、国際化をキーワードに、英語による講義の充実、外国人留学生用の奨学金の獲得、留学生サポートの充実など、外国人と日本人がともに学べる環境の整備に努めている。

このように環境学研究系は、「学融合」の理念に基づいた特徴ある研究教育体制をもち、総合的な学問である環境学の世界的拠点として、独自の地位を築きつつある。

環境学研究系長 奥田 洋司