研究室紹介

は「学生を募集しない」ことを示す.

複雑系プラットフォーム Complexity

郡研究室 非線形物理学,複雑系,力学系,同期現象,生物リズム紹介を見る
郡 宏 教授(基幹)
E-mail: kori@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.hk.k.u-tokyo.ac.jp/index-jp.html

『モデリングと理論の構築を通して
この世界を解き明かす』

自然,生命,人工物などに現れる複雑な動的システムを理解するために,基礎理論の構築と数理モデリングおよび解析を行います.さらに,実験研究者と密接に協働し,社会に求められている問題の解決を目指します.研究は主に力学系と確率過程の理論,および数値シミュレーションに基づきます.

モデリングと理論
複雑な現象を生み出すシステムを記述するできるだけ簡単な数理モデルを構築し,現象の理解,予測,制御,最適化を行います.また,問題の一般化・抽象化を通して,普遍性の高い理論の構築を行います.研究対象として,体内時計などの生物リズム,歩行や遊泳などのロコモーション,流体現象,電力網,輸送網,交通流,化学反応系や生物のパターン形成,社会システム,神経ネットワークなど幅広く扱います.

実験研究者との協働
工学,生物学,医学,化学分野などの研究者と協働し,数理モデリングや解析による理論的考察を提供することよって,社会的ニーズのある問題の解決を目指します.

キーワード
非線形物理学,力学系,振動,カオス,同期,ゆらぎ,複雑ネットワーク,縮約,制御,最適化,体内時計,生物物理学,発生,ロコモーション

小林研究室 データサイエンス、計算論的神経科学、ウェブ科学 紹介を見る
小林 亮太 准教授(基幹)
E-mail: r-koba@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.hk.k.u-tokyo.ac.jp/index-jp.html

『データサイエンスで複雑システムを理解する』

 

生命・社会システムなどは多くの要素が相互作用する複雑システムです。本研究室では、複雑システムから得られる時系列データを分析する技術の開発や数理モデリングを通じて生命・社会現象を理解することを目指しています。本研究室では、以下の3つのテーマを中心に研究を進めています。

イベント時系列分析
イベント時系列はあるイベントが起きた時刻についてのデータで、インターネット・金融市場・脳など、さまざまな分野で現れる新しい形式の時系列データです。私たちはイベント時系列のデータ解析技術を開発し、脳神経科学やインターネットデータ分析への応用を進めています。

計算論的神経科学
計測技術の驚異的進展により多数のニューロン (神経細胞) の信号を長時間にわたって計測できるようになりつつあります。私たちは、ニューロンから計測されたスパイク信号を分析する方法論を開発したり、脳の一部 (神経回路) を数理モデル化して分析する研究を進めています。

ウェブ科学
スマートフォンの普及に伴い、インターネットは私たちの生活で必要不可欠になりつつあります。私たちは、ネットから大規模データを収集し、数理モデルを構築することで、ネット上の人々の行動や心理の振る舞いを理解し、デマの拡散や炎上などの社会問題が起こるメカニズムの理解を目指して研究を進めています。

泉田研究室 非平衡熱統計力学,非線形動力学紹介を見る
泉田 勇輝 講師(基幹)
E-mail: izumida@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.hk.k.u-tokyo.ac.jp/index-jp.html

『複雑な動的システムのモデリングから
非線形・非平衡系の基礎法則を探求する』

我々の世界の多くのシステム(自然・人工物)は動的でエネルギー・物質の流れを伴う非平衡な状態にあります. そのダイナミクスはしばしば非線形な方程式に従います. 本研究室では具体的なシステムの数理モデリングや現象論の構築を通じて,これら非線形・非平衡系を司る基礎法則を探求しています. また基礎法則に基づいた新しいテクノロジーの創出も目指しています. これまで主に以下のような研究テーマを扱ってきています.

(1) 熱機関の最大仕事率時の効率限界
熱機関の最大効率はカルノー効率で与えられますが,準静的極限ではパワーがゼロとなるという実用上の問題点があります. この問題に対し,有限時間カルノーサイクルモデルを提案し, 熱機関の最大仕事率時の効率限界から非平衡熱統計力学の基礎的な側面にアプローチしています.

(2) 自律駆動するエンジンの物理学
低温度差スターリングエンジンは体温と室温の間のわずかな温度差で自律的に動きます. 非線形ダイナミクスモデルを提案し,エンジンの回転メカニズムの解明や非平衡熱力学理論を構築しています. また新しいタイプのエネルギーデバイスを提案することにも興味があります.

(3) 結合振動子の同期のエネルギー論
重要な生物機能を担う鞭毛は自律振動子とみなせ,流体結合によってシンクロ(同期)して働くことが知られています. 結合振動子のシンクロのエネルギー論を構築し,シンクロの生物機能における役割を明らかにすることで複雑な生命現象にアプローチしています.

(4) Shortcuts to adiabaticity (STA)
STAは外部パラメータの十分遅い変化を伴う断熱量子ダイナミクスを高速化する手法として近年提案され,応用上も注目されています. STAは古典系にも適用されており,高速化の数理的なメカニズムを研究しています.

杉山研究室 機械学習,統計的データ解析紹介を見る
杉山 将 教授(基幹)
Tel. 03-5841-4106
E-mail: sugi@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.ms.k.u-tokyo.ac.jp/index-jp.html

『機械学習:
    ヒトのように学習するコンピュータを作ろう』

 インターネットやセンサー技術の飛躍的な発達と普及に伴い,音声・画像・テキスト・動画・ソーシャルメディア・Eコマース・電力・医療・生命など, 工学・産業・自然科学の様々な場面で膨大な量のデータが収集されるようになってきました. このようなビッグデータから新たな価値を創造するためには,機械学習の技術が有用です.

 機械学習とは,コンピュータにヒトのような学習能力を持たせるための方法論を研究する分野の総称です. 本研究室では,機械学習と統計的データ解析の基礎理論の構築,実用的なアルゴリズムの開発,そして,実世界データ解析への応用に関する研究を幅広く行っています.

横矢研究室 画像解析,空間情報紹介を見る
横矢 直人 准教授(基幹)
E-mail: yokoya@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.ms.k.u-tokyo.ac.jp/index-jp.html

『異種時空間データから地球のいまを理解する』


 本研究室では,衛星画像,モバイルデータ,災害データなどの異種時空間データから,地球のいまを理解するジオインフォマティクスの研究を行なっています.特に,可視・近赤外,熱赤外,そしてマイクロ波に基づくリモートセンシングで得られる大規模で多様な画像集合から,地球上のどこで何が起きているのかをタイムリーに把握するための知的データ処理技術の研究に取り組んでいます.

 (1)人の目を超える
分光イメージングや合成開口レーダで得られるデータによって,人には見えない世界を観ることができますが,その中にはセンサ特性や大気条件に起因する不完全性が存在します.数理最適化,機械学習,信号処理に基づき,不完全な多次元観測データから元の信号を復元することで,人の視覚を超えるセンシング技術の更なる高度化を目指しています.

 (2)地球のいまを理解する
災害などの緊急時には,いかに速く全体像を把握するかが重要となります.衛星から地上まで,異なるプラットフォームの多様なセンサで得られる時空間データから,変化情報を抽出するデータ融合技術の開発や,機械学習と数値シミュレーションの融合により,想定外の複雑な地表面の変化を,瞬時に推定する技術の開発に挑戦しています.

 (3)持続可能な社会に向けて
災害状況把握や森林モニタリングなど,国際的な社会課題の解決支援につながる研究を進めています.世界の宇宙機関や防災機関と密に連携し,実社会の問題解決に真に役立つ技術を探求することで,持続可能な社会の実現に向けてグローバルに貢献することを目標としています.

石田研究室 機械学習紹介を見る
石田 隆 講師(基幹)
E-mail: ishi@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.ms.k.u-tokyo.ac.jp/index-jp.html

『実用的で信頼性の高い機械学習技術の確立へ』

 機械学習とは、コンピュータがデータからパターンや知識を学ぶ技術のことです。例えば音声認識や物体認識、異常検知などで機械学習技術が活用されています。また近年は今までとは異なる分野での機械学習の活用も進んでおり、実社会では新しい種類のデータを扱うケースや新しい問題に直面するケースも増え、それに伴い機械学習技術を活用する需要も高まり続けています。

 本研究室では、機械学習のアルゴリズムを開発するという基礎研究を進めています。未知なるデータに対する汎化性能を高める取り組みや、弱い教師情報しか与えられない場合でも高精度に学習するためのフレームワークの構築、ロバスト性を維持する工夫、そして機械学習の適用範囲を広げるような汎用的な技術の考案などを行っています。このように、研究室では様々な観点から、より実用的で信頼性の高い機械学習技術の確立を目指しています。

佐藤研究室 統計的機械学習,ベイズ推定紹介を見る
佐藤 一誠 教授(兼担)
E-mail: sato@k.u-tokyo.ac.jp
https://www.ml.is.s.u-tokyo.ac.jp

『社会基盤としての統計的機械学習を目指す』

 統計的機械学習は,大量のデータから機械が知的な処理を行うためのルールを自動的に抽出するための技術です. 例えば,現在どのスマートフォンにも搭載されている顔認識,オンラインショッピングサイトの推薦システム, 近年注目を集めている車の自動運転など,様々な実社会の中で機械学習が重要な役割を果たしています. 本研究室では、以下のテーマを研究しています.

 (1)数理モデリングの研究
統計的機械学習では,データや機械に処理してもらいたい問題に応じて数理モデルを仮定する必要があります. 本研究室では,データがもつ隠れた性質を表現する潜在変数という確率変数をもつ統計モデルの研究をしています.

 (2)学習アルゴリズムの研究
数理モデルが決まるとそのモデルのパラメータをデータから推定することで学習することができます. 大規模なデータから高速にパラメータ推定を行うアルゴリズムを研究しています. 特に,ベイズ推定を基にしたアルゴリズム開発を行っています.

 (3)統計的機械学習の実験をする統計的機械学習の研究
統計的機械学習に限らず,多くの研究分野では実験を行うことに多くの時間を割いています. 我々は,機械がそのような実験をサポートする技術を研究しています. 研究者が,実験中に行うTrial&Errorを機械が代わりに行ってくれます.

 (4)社会応用
本研究の成果や近年の機械学習技術を基に社会へ積極的な還元を行います. 例えば,東大病院と医用画像の読影支援システムの開発などを行っています.


Brain-Bio 脳・バイオモジュール

青西研究室 データ駆動科学,情報統計力学,システム科学,神経科学,
材料科学,量子人工脳紹介を見る
青西 亨 教授(基幹)
E-mail: aonishi@c.titech.ac.jp
https://aonishilab.jp/

『システムの同型性に基づく普遍的理解』

 当研究室では,神経系をはじめ,電池などの機能材料,光コンピュータを研究対象としています.これらは一見無関係に見えますが,システムとして共通の数理構造すなわち同形性を有しています.我々は様々な研究対象を専門とする実験/理論研究者と手を組んでモデリングを行い,これら対象の同型性に基づき共通の機械学習や統計力学を適用して,高次機能や設計指針を明らにしようとしています.このような分野をまたぐ横串展開により,異なる対象から普遍的な理解をもたらすことができます.

 (1)神経系や材料などのイメージングデータ解析
神経科学や材料科学など様々な研究分野において、革新的なイメージング技術が開発されています.これら異分野のイメージングデータは,その生成過程を数理モデル化すると,その多くが同型です.我々は,これまで機械学習が使われていないイメージング課題において,同型性に基づき有効な解析手法を提案しています.

 (2)非平衡情報統計力学の横串展開
神経系や磁性薄膜や光発振器などは,非線形振動子として見ると同型の標準モデルで記述できます.我々は,これまで非平衡情報統計力学が適用されていない課題において,同型性に基づきその巨視的性質を明らかにしています.例えば,データ駆動科学の基盤技術である圧縮センシングを光コンピュータのコヒーレントイジングマシンに実装する方法を提案し,その性能限界を明らかにしています.

 (3)皆様へのメッセージ
昔,神経科学と人工知能は同一の研究分野でした.研究者人口の増加と研究の高度化とともに,様々な研究分野に細分化されていきました.多くの人がこのような研究の細分化がもたらす弊害に気づき始めています.我々の役割は,細分化と逆方向の流れを作り出すことです.究極のジェネラリストになってみませんか.

岡田研究室 脳科学,情報統計力学,量子計算,非線形動力学紹介を見る
岡田 真人 教授(基幹)
Tel. 04-7136-4085
E-mail: okada@k.u-tokyo.ac.jp
http://mns.k.u-tokyo.ac.jp

『最初は物理学だった
     今,脳と物質のデータ駆動科学の創成を目指す』

 磁性体の物理,脳科学,情報科学,これら三つの一見無関係に見える学問体系の中に共通の数理が潜んでいると言ったらみなさんは驚かれるでしょうか?

 これら三つの学問の共通の特徴は非常に“たくさん”のモノやコトを取り扱っている点にあります. 物質の磁性は,アボガドロ数個の原子のスピンの向きから決まります. 脳の中にある100億個以上の神経細胞がスパイクと呼ばれる活動電位で情報交換することで,我々は認識,記憶,思考などの高度な情報処理をおこなうことができます. 1MB,1GBといった0,1の無数の系列が,ある種のフォーマットの従うことで,われわれが理解できる画像などの情報になります.

 このように“たくさん” のモノやコトが集まると,これら多数のミクロな構成要素の性質と異なった,マクロな性質がシステムにあらわれます. たくさんあることは質的変化をもたらします. 統計力学は,このようなミクロとマクロの橋渡しをする学問です. 本研究室では,統計力学の手法を中心に,以下の分野を研究しています.

(1)理論脳科学
 人類にかせられた最大の課題であるといわれる脳の情報処理メカニズムの解明に取り組みます.

(2)情報統計力学・量子計算
 ベイズ統計と統計力学の数学的等価性にもとづき,統計力学的アプローチで情報科学の最先端の諸問題を研究しています. また量子力学の原理を使った,情報処理のメカニズムも研究しています.

(3)データ解析・機械学習
 大量の高次元測定データから背後に潜む法則を抽出する技術は機械学習と呼ばれ,脳科学をはじめとしたさまざまな分野のデータ解析を機械学習により解析しています.

篠田研究室 ハプティックス,触覚,センシング,
ヒューマンインタフェース,ネットワーク,物理情報学紹介を見る
篠田 裕之 教授(基幹)
Tel. 04-7136-3900
E-mail: hiroyuki_shinoda@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.hapis.k.u-tokyo.ac.jp/public/hiroyuki_shinoda/

『触覚を通して人間を理解し
         情報環境を革新する』

 あらゆる情報システムは,最終的には人間の感覚器官を刺激することで情報を伝達し,人々の知的活動を支援しています. 私たちは,五感の中でも特に触覚に注目し,全身に分布する触覚を活用する新しい情報システムを研究しています. 複雑システムとしての触覚を解明するとともに触覚インタフェースを実際に試作し,触覚イメージの伝達や触覚による運動・行動の誘導, 心理面での作用などを直接体験しながら研究を進めます.また,それらを実用化するための基盤技術の開発にも力を入れています.

(1)触覚の解明と活用
 触覚受容器の物理的な知覚特性の解明をはじめ,人間の知性・知能の根底を支える心や感情と触覚がどのように関係しているか, 触覚が人間の運動や認知にどのような影響を与えるか,などの問題を解明し,触覚への刺激によって人間の生活・行動を支援するシステムを具体化します. 医療,コンピュータシステム,自動車/航空機の操縦システム,コミュニケーション,エンターテイメントなど幅広い分野への応用を展開します.

(2)センシング,インタラクションの物理システム基盤
 視覚,聴覚,触覚が調和して人間とインタラクションする情報環境の基盤技術を研究します.映像情報・触覚情報の提示デバイスにはじまり, その基礎となるセンシング技術,環境に機能を分散するためのワイヤレス電力伝送法,2次元通信,テラヘルツ波利用技術など,未来を変革する物理情報システムを探求します.

牧野研究室 ハプティックス,触覚センサ・ディスプレイ,触覚情報処理,
ヒューマンインターフェース紹介を見る
牧野 泰才 准教授(基幹)
Tel. 04-7136-3912
E-mail: yasutoshi_makino@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.hapis.k.u-tokyo.ac.jp/?page_id=1002

『人を測り、人を動かす
    触ること・触られることの本質を探る』

 人が情報機器に何かを入力しようとする時,音声認識など一部の例外を除いたほぼすべての場合で,触覚を介しています. その入力手段は近年特に変化が激しく,従来のキーボード・マウスから,タッチパネルへ,そして最近では空中に文字を描くような入力も実現され始めています. 触覚を理解することは,人が情報に対してどうアクセスするかという「人と情報のあり方」を理解することに繋がります. 「人と情報のあり方」を変え,日常生活を一新する技術の実現を目指し研究しています.

 「人と情報のあり方」を変えていくために重要なことは2つあります.1つは,人がどのように知覚しているのかを推測できるように, 人のことをきちんと計測することであり,もう1つは,適切な情報を提示し,人の情動・行動を変化させることです. 触覚は人の情動と強く結びついているという,他の五感にはないユニークな特徴を持ちます. 情報空間への入り口である触覚インタフェースに,情動的な側面からの価値を付与することは,今後の大きな課題になります.

能瀬研究室 脳神経科学実験,生物物理,分子生物学紹介を見る
能瀬 聡直 教授(基幹)
Tel. 04-7136-3919
E-mail: nose@k.u-tokyo.ac.jp
http://bio.phys.s.u-tokyo.ac.jp/

『脳という物質になぜ心が宿るのか
    神経回路の機能と構造にその答えを探る』

 脳・神経系は多数の神経細胞がシナプスという構造を介して連絡した複雑な回路です.このなかを神経インパルスが伝わることが,脳機能の基本であると考えられていますが, その仕組みはほとんど謎のままです.いったい,どのような回路の中を,どのようにインパルスが伝わることにより高度な情報処理が可能になるのでしょうか? 原理的には,脳内の配線のパターンを丹念に紐解き,さらにそのなかを情報が伝わる様子を明らかにできれば,この問題を解くことができると考えられます. しかし,現実には,複雑なほ乳類の脳組織のなかでこのような実験を行うことは困難です. そこで私達は,比較的構成が単純で高度な遺伝子操作が適用可能なショウジョウバエの神経系をモデルとして,この問題にアプローチしています.

 私達はこれまでバイオイメージングや遺伝子操作を用いて軸索やシナプスを可視化することにより,神経の配線が形成される仕組みを明らかにしてきました. 現在,この研究を回路レベルに発展させ,複数の神経配線からなる機能的な神経回路が,どのようにして構築されるのかを調べています. また,神経細胞の活動を光生理学という新しい技術を用いて可視化・操作することにより,神経回路の動作原理を探っています. 配線パターンの分かっているモデル神経回路において,個々の神経細胞の活動をリアルタイムに追跡することにより,神経回路の情報処理の仕組みを明らかにすることが私達の夢です.

林研究室(物性研究所) 生物物理計測,分子モーターの物理紹介を見る
林 久美子 教授(兼担)
E-mail: hayashi@issp.u-tokyo.ac.jp

『生物を物理計測の対象にする、物性研究所発の生物物理』

磁性、超伝導、スピントロニクスなどの固体物理分野を対象とした物性計測だけでなく、 生体、特に細胞を対象とした物性計測も細胞内現象のメカニズムを理解するために重要です。生きている、 つまり外部からエネルギー注入があり内部でエネルギー消費がある細胞は複雑な非平衡環境にあり、 統計力学法則が破綻するため、最も物性計測が難しい対象と言えます。

本研究室では蛍光顕微鏡観察をベースに細胞内現象に対して、力・速度・エネルギーなどの物理量を正確に計測する技術を開発します。 顕微鏡などのハード部分だけでなく統計力学、数学や情報科学などを駆使したソフト面の改善も行います。 測定量を元に細胞内現象の理論モデルを構築し、細胞内現象を物理として定量的に理解します。神経疾患などの病気の理解に役立て、 医学への貢献を目指します。

生物物理学は新しい学問ですが、今後成長する学際分野です。生物に興味があって、それを物理から理解したい方を歓迎します。 なお、本研究室の主な参加学会はBiophysical Societyです。学問をして国際社会で活躍しましょう。

研究例1:ヒトiPS運動ニューロン内の軸索輸送の蛍光顕微鏡観察
神経細胞では主に核のある細胞体で物質が合成され、タンパク質分子モーター(キネシンとダイニン)が、末端にあるシナプス領域まで、 長い軸索内を物質輸送します(軸索輸送)。軸索輸送は神経細胞物流の要であるため、輸送障害が神経疾患と関連します[1]。 ヒトiPS運動ニューロン内の軸索輸送の蛍光顕微鏡で得られたタイムコースデータに非平衡統計力学を応用することで、 輸送を担う分子モーターの力・速度・分子数・エントロピー生成を計測します[2]。

研究例2:ナノスプリングによる分子モーターキネシンの力計測
キネシンは神経細胞軸索輸送を担う分子モーターの1つです。これまで主に光ピンセット技術で(2018年にノーベル物理学賞)で キネシンの出す力が測定されてきました[3]。私たちは光ピンセットに代わって先行研究[4]で開発されたDNAオリガミ製のナノサイズ 世界最小バネを用いてキネシンの力測定を行っています。ナノスプリングを用いてガラスチャンバー内の1分子実験のみならず、 より野心的に、細胞内で軸索輸送の輸送力計測を目指します。

研究例3:極値統計学を用いた神経細胞軸索輸送の速度解析-個体内 in vivo イメージング-
神経細胞軸索輸送のタイムコースデータに極値統計学を応用して、速度の「極値」に注目することで、平均速度解析では 分からなかった情報を抽出します。ガラスチャンバーや培養細胞でなく、個体内こそが分子モーター本来の環境です。 個体内での物理計測は非常に困難です。私たちは生きている線虫内で軸索輸送の蛍光観察に成功し、速度データへの極値統計解析の応用で、 キネシンによる順行性輸送とダイニンによる逆行性輸送の力発生メカニズムの差異を検出しました[5]。

研究例4:神経細胞軸索輸送に起因するシナプス形成異常の理論モデル構築
神経細胞軸索輸送の蛍光観察で得た測定量を用いて、シナプス形成の理論を構築します。 シナプス小胞前駆体(シナプスの材料物質)を輸送する分子モーターキネシンKIF1Aの変異で、シナプス形成異常が生じることが報告されています[6]。 本研究では理論によって、「KIF1A変異体の物性(力・速度・分子数等)変化」と「シナプスサイズ・間隔・形成位置の異常という物理的変化」 を定量的に関連付け、シナプス形成異常を予測します。KIF1A関連神経障害[1]の解明に貢献します。

文献
[1] KIF1A.org
[2] Hayashi, et al., Mol Biol Cell 2018;Phys Chem Chem Phys 2018; Sci Rep 2019
[3] Svoboda, et al., Nature 1993
[4] Iwaki, et al., Nat Commun 2016
[5] Naoi, et al., bioRxiv 2021
[6] Niwa, et al., Cell Rep 2016

藤澤研究室 神経生理学,行動神経科学,神経回路計算論紹介を見る
藤澤 茂義 客員教授(連携)
E-mail: shigeyoshi.fujisawa@riken.jp
https://cbs.riken.jp/jp/faculty/s.fujisawa/

『ニューロンの活動を直接観測することで
記憶や空間認識のメカニズムに迫る』

 私たちの脳には約百億個ものニューロン(神経細胞)があり、お互いに密なコネクションを形成し相互に情報をやりとりすることにより脳機能を実現しています。いままでの脳科学の進展により、脳のどの部位でどのような機能実現しているか、ということは明らかになってきつつあります。たとえば、海馬という部位では空間認知やエピソード記憶などにかかわっていることが知られています。しかし、脳はそれらの高次認知機能をどのような回路計算によって実装しているのか、という疑問については、まだまだ謎が多いです。

 私たち研究室では、高次認知活動を行っているときのニューロン群の活動を観測することで、その背後にある神経回路の働きを解明することを目標に研究を行っています。具体的には、ラットなどの動物が空間探索などの行動を行っているとき、海馬などの脳部位からニューロンの活動を多チャンネル電極によってリアルタイムで記録します。そして、得られたデータを数理統計解析することにより、脳の高次機能にかかわる神経回路のメカニズムを明らかにすることを目標に研究を進めています。私たちはこれまで、(1)社会的な環境において他者の空間位置を把握するメカニズムの解明、(2)経験した出来事の順序を記憶するメカニズムの解明、(3)睡眠による脳のネットワークの可塑的な変化についての解析、などの研究テーマを進めてきています。


アストロバイオロジーモジュール Astrobiology

今村研究室 惑星探査,惑星大気紹介を見る
今村 剛 教授(基幹)
E-mail: t_imamura@edu.k.u-tokyo.ac.jp
http://www.astrobio.k.u-tokyo.ac.jp/imamura/

『大気がつくる惑星環境  探査と理論モデルで新領域を切り拓く』

私たちは地球という惑星の大気圏の底で暮らしています。大気圏のエネルギーと物質の循環は、惑星の環境形成の要であり、 生命圏の成立を左右します。当研究室では、惑星探査と理論研究を両輪として、 惑星大気の物理学を中心に惑星環境形成のメカニズムを追求しています。

大気の流体としてのダイナミックな振る舞い、開放系としての宇宙空間・惑星内部との物質交換、 それらの帰結としての動的平衡が、私たちの世界観です。 金星探査機「あかつき」は、大気中の巨大な波や渦の時間変化を赤外線や紫外線のリモートセンシングで追いかけて、 時速400 kmの高速大気循環がなぜ生じるのか、金星全体をおおう硫酸の雲がどう作られるのかを調べています。 検討中の火星探査では、水が凝結と蒸発を繰り返しながら大気と地面の間で循環するしくみや、 細かな塵が地面から巻き上げられて濁った大気が生じるしくみを調べる計画です。 当研究室ではまた、探査機と地上局を結ぶ電波を使う電波掩蔽という観測で、惑星大気の、 さらには太陽の外層大気の波動や乱流をとらえ、大気の加熱や加速のしくみを調べています。 このような探査に加え、数値シミュレーションで惑星大気の変動と構造形成を再現して、 惑星たちの驚くべき多様性の背後にある普遍的な物理プロセスを探ります。 それらの天体がいま私たちが見るような姿でなくてはならない必然性を理解します。

惑星の大気科学、環境科学は、いまや太陽系外の惑星も射程に入れ、 宇宙における生命存在可能性が中心テーマとなりつつあります。 惑星科学、気象学、天文学の融合に未来があります。探査と物理理論を武器にそのようなサイエンスを切り拓きたい皆さんを、歓迎します。

青木研究室 比較惑星学,リモートセンシング, 大気分光学紹介を見る
青木 翔平 講師(基幹)
Tel. 04-7136-3948
E-mail: shohei.aoki@edu.k.u-tokyo.ac.jp
https://www.astrobio.k.u-tokyo.ac.jp/imamura/

『惑星探査機・望遠鏡観測を用いて地球型惑星大気の成り立ちを理解する』

「生命が存在可能な惑星環境はどのように育まれるのか?」私の研究の目的は、そのような疑問に答えることです。

生命あふれる惑星で一番身近な私たちの住む地球は、そういった観点で研究が盛んに行われてきました。 一方で、近年急速な発展を遂げる天文学分野では、私たちの太陽系の外に「第二の地球を探す」観測研究が盛んになされていて、第二の地球候補が続々と見つかっています。 これからの惑星科学・天文学分野では、こうした多くの地球型惑星を包括的に網羅し、惑星大気システムを体系的に理解することが求められています。 ただし、系外惑星の大気は観測がまだ難しく、ほとんど情報を得られていません。 そこで、我々の太陽系に存在する地球型惑星である、金星と火星を詳しく調べ、地球との比較からその惑星環境や大気進化を理解することが大切になります。

金星も火星も、かつては現在の地球大気のように温暖湿潤な気候で、大量の液体の水が地表面に存在した時代がある可能性があると考えられています。 しかし、現在の金星は分厚い二酸化炭素大気に覆われた灼熱気候であり、一方で火星は薄い二酸化炭素大気に覆われた寒冷乾燥気候です。 かつて存在した水はどこへ失われたのか?このような疑問を解き明かすことが、近年の金星・火星探査ミッションの中心的な科学目標です。

私はこれまで、そのような目的で打ち上がった欧州の火星探査機Mars-ExpressやExoMars/Trace-Gas-Orbiter、 また、Subaru・SOFIA・ALMA・IRTFなどの地上大型望遠鏡による観測データを用いて、火星大気の研究をしてきました。 最近の興味は、「火星や金星にかつて存在した水はどこへ行ったのか」という問題で、そのために現在の火星における水の循環を把握すべく、 日々火星から送られてくる最新の探査機データの解析をNASAやESAの国際チームと共に解析を行ったり、望遠鏡での観測を続けています。

惑星科学はチームで進める機会が多く、国際協力で進めることが魅力の一つです。立ち上がったばかりの新しい研究室ですが、自主性とやる気溢れる皆さんの参加を歓迎します。

吉川研究室 惑星科学, 磁気圏物理学, 太陽系探査, 系学惑星探査紹介を見る
吉川 一朗 教授(基幹)
Tel. 04-7136-5520
E-mail: yoshikawa@k.u-tokyo.ac.jp
http://www.astrobio.k.u-tokyo.ac.jp/yoshikawa/

『宇宙の真実を最初に知る喜び
   観測機を開発し,深宇宙へ送り出す』

 地球が,豊かな生命の星でいられるのはなぜだろうか? 私達は,地球のこと,太陽系のこと,宇宙のことをどれだけ理解しているだろうか? 生命が生きてゆくには,湿潤な環境と宇宙放射線から体を守るバリア(惑星磁場)が必要である. 太陽から程よい距離にできたことが,地球における生命発生の理由の一つだが,大気はいつ発生し,湿潤な環境はどのように維持されてきたのだろうか? 火星や金星は生命にとって,どれほど苛酷な環境なのだろうか? 地球の大気環境は変化しないのだろうか? 火星のようになったりしないだろうか?

 これらの謎と大気の多様性を解明するために,我々の研究室では,目に見えない特殊な光を用いた観測機を開発している. この観測機を太陽系内惑星探査機や宇宙ステーション,地球を周回する衛星に搭載し,太陽系惑星を走査し,惑星大気の成分や運動を分析する.

 2013年9月にイプシロンロケットで打ち上げられた惑星分光観測衛星「ひさき](SPRINT-A)は,極端紫外光の目を持つ “宇宙望遠鏡” である. 極端紫外光は,紫外線の中でも波長の短い光で,この光で見た地球は,ふだん私たちが見ている青くて丸い地球とはずいぶん違って見える. 例えば,北極と南極を付け根にして,地球半径の5~6倍の空間に広がる蝶のような姿(双極子磁場)に満たされたプラズマ(電離した気体)が写る. 極端紫外光で他の惑星を観測すれば,地球との差異だけではなく,惑星大気の生成過程も解明できるだろう.これらの知見を元に観測対象を拡大し, 「太陽系外の生命探査」を行うことが究極のテーマだ.

吉岡研究室 惑星探査,惑星科学, 宇宙空間物理学 紹介を見る
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吉岡 和夫 講師(基幹)
E-mail: kazuo.yoshioka@edu.k.u-tokyo.ac.jp
https://www.astrobio.k.u-tokyo.ac.jp/yoshikawa/member/yoshioka/

『神秘の宇宙に探査機で乗り込む』

 ○我々の住む地球や太陽系はどのようにして形成され今の姿になったのだろうか。

 ○地球や他の惑星を取り巻く宇宙空間はどのような姿をしており、どのような物理に支配されているのだろうか。

 ○地球上にはほぼいたるところに生物は存在するが、地球以外にも存在するのだろうか。

これらの疑問は、誰しも一度は抱いたことがあるだろう。残念ながらこれらは一発で満点の回答を出すことは極めて難しい問題である。 しかし、長年多くの研究者が様々な手法の研究を積み重ね、少しずつこれらの疑問にアプローチしており、着実に真実に近づきつつある。

その重要な研究手法のひとつが、探査機を用いた観測的研究である。

天体や宇宙空間の観測には、「すばる」に代表される地上の大型望遠鏡を用いる方法の他に、ロケットや人工衛星、探査機などの”飛翔体”を用いる方法がある。

我々は、探査対象と科学目標(宇宙におけるどこの何を調べたいのか?)を設定し、それを実現するために苛酷な宇宙環境にもサバイバルできる観測装置を設計・製作する。 さらに、得られた観測データを自らの手と頭を使い解析し、科学的な議論(はじめに打ち立てた疑問に、いかにアプローチできているのか!?)を成熟させることを研究の柱としている。

世界の一線級の成果を目指すには、ミッションを通した全てのプロセスで、民間企業やJAXA等の研究機関、海外の研究者との協力は必須である。 したがって、必死の思いでミッションを遂行させていくうちに、様々な分野の人々と広く協力し物事を進めていくスキルが身につくはずである。

飛翔体を用いると、対象天体に近づくことで精度の高い観測ができる、もしくは地球大気の影響を受けることなく安定して良質なデータを取得できるという圧倒的な強みがある。 しかしながら、一度打ち上げてしまえば二度と修正が出来ないため失敗は許されず、開発には常に困難と緊張が伴う。 もちろん、開発の苦労が大きいぶん成功までたどり着いたときの喜びは格別である。

分野・国籍・官民の枠を越えて多くの人々と協力し、困難を乗り越えて未知の世界に踏み込んでいく興奮を常に肌で感じながら、根源的な疑問に近づいていく。 そんな刺激的な研究生活に魅力を感じたら、挑戦してみる価値はあるだろう。

田中研究室(宇宙科学研究所) 惑星科学,月惑星探査紹介を見る
田中 智 客員准教授(連携)
Tel. 050-3362-4196
E-mail: tanaka@planeta.sci.isas.jaxa.jp
http://planetb.sci.isas.jaxa.jp/luna/index.html

『探査で明らかにする太陽系の姿
   太陽系探査の最先端の現場を肌で感じよう』

 世界に比類がなくわが国独自の月惑星探査を遂行するための探査機器の開発およびプロジェクトの遂行を行っている. これまでJAXA(宇宙科学研究所)において「かぐや」,「はやぶさ」などの月惑星探査を成功させてきたが, それらに続くものとして月着陸探査ミッション(SELENE-2)やC型小天体サンプルリターンミッション(はやぶさ2)などが進められている. これらのミッションの科学的側面から探査戦略の追及,それを実現するたの搭載器機の性能をつきつめて実現化し, 世界トップクラスと賞されるだけでなく将来にわたって活用し続けられるデータの取得を目指す.

 これからの月惑星探査の主流は内部構造探査である.これを遂行するための搭載インフラや機器(地震計や熱流量計)の開発が重要である. 我々は長年にわたり地震計などを搭載可能なペネトレータとよばれる高速貫入型の観測装置の開発に携わり,技術的に高いレベルにまで完成させた. 我々が開発したこの装置を月惑星に送り込んで内部構造に関するデータを取得し,月惑星の起源と進化に重要な制約条件を得ることが私の究極的な目標である.

 科学的な専門分野は月惑星内部構造論であり,アポロミッションで得られた地震(月震),熱流量などの地球物理学的観測データの解析を行っている. 40年前に取得されたデータでありながら,まだ我々が見出していない真理がまだ多く埋もれているのは驚きでもありまた感動的でもある.

宮本研究室(総合研究博物館) 太陽系科学,惑星地質学,数値流体力学紹介を見る
宮本 英昭 准教授(兼担)
Tel. 03-5841-2830
E-mail: hm@um.u-tokyo.ac.jp
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/hp/miyamoto/

『火星人はいるのだろうか?
   惑星や衛星などの表面を調べよう』

 惑星探査技術の進歩により,太陽系の天体に探査機を送り込んで調査することが可能となった. 火星探査車は砂だらけの火星表面を走り回り,小惑星探査機は,弾丸を使って岩石を破砕し岩石サンプルを収集した. 人類は,こうした太陽系の直接探査を通じて地球外の天体に関する情報を猛烈な勢いで獲得している. 太陽系科学は,革命的な発展を遂げていると言って良い.

 私たちの研究室では,太陽系探査に直接関連した,以下の2つの方向性の研究を推進している. 1つ目は,探査データの解析である. 特に天体の表層環境に関する研究に重点を置いており,主に固体天体表層地形の解析を通じて,地球表層環境の持つ普遍性と特異性を明らかにするという, 比較惑星学(特に惑星地質学)分野の研究を行っている. 「人類が地球に誕生した事に必然性が存在するか」というアストロバイオロジーの大問題に,惑星探査データの解析から迫ろうとしているとも言える.

 2つ目は,惑星探査計画への参画である.これまで火星探査機「のぞみ」や小惑星探査機「はやぶさ」,月探査機「SELENE」などの固体惑星探査プロジェクトにおいて微力を尽くしてきたが, 現在は次期小惑星探査計画や月探査計画に参加すると共に,杉田研究室などと共同で,火星着陸機を中心とした複合探査計画を推進している.

 こうした研究を進めるには,前者は理学,後者は工学のセンスが重要となるが,実際には双方の知識が必要となる. これらを融合したアプローチを創出し,複雑系という枠組みで新たな太陽系科学を創成することが,私たちの大きな目標である.

杉田研究室(理学系研究科) 惑星科学,地球初期進化,
超高速衝突物理学,深宇宙探査紹介を見る
杉田 精司 教授(兼担)
Tel. 04-7136-5520
E-mail: sugita@k.u-tokyo.ac.jp
http://www-space.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sugita-lab/

『はやぶさ2で迫る太陽系の起源
    C型小惑星に残る惑星大移動の痕跡』

 私は,惑星の起源と進化を理解するため,室内実験と惑星探査の両面から研究を行っている. 室内実験では,惑星初期進化で支配的な役割を果たした小天体衝突の機構解明に力を注いでいる. 地球の基本形が作られた地球集積期やその直後の時代の表層環境の解明が目的である. 特に,大気圏や水圏の質量と組成を決定する衝突蒸発現象機構の解明のため,高速度衝突実験と高速分光計測を用いた研究を行っている. こちらは,自分だけの自由な発想で行えるタイプの研究である.

 惑星探査は,他の惑星や衛星を調査して,地球との違いを明らかにすることが目的である. 2014年の打ち上げを目指す「はやぶさ2」計画に参画し,可視分光カメラ開発のサイエンス担当者を務めている. 米国がOSIRISRex計画を打ち出したので競争が大変だが,日本の計画を米国がまねた珍しいケースであり,競争の甲斐もある. どちらも水や有機物を豊富に含んだC型小惑星から試料を持ち帰る計画である. 可視分光カメラは小惑星上の物質分布や地形を調べ,どこから試料を採るか決めるための重要な情報を得る. こちらの研究は,大型プロジェクトの動向に左右されるリスクもあるが,宇宙を実感できるメリットがある.

 さらに,将来の月や火星の着陸探査計画を見据え,レーザーを用いた元素組成計測装置(LIBS)やK-Ar法を用いたその場年代分析装置の開発も進めている.


Extreme Matter 極限物質モジュール

江尻研究室 プラズマ物理,核融合,トカマク
[核融合研究教育プログラム]紹介を見る
江尻 晶 教授(基幹)
Tel. 04-7136-3926
E-mail: ejiri@k.u-tokyo.ac.jp
http://fusion.k.u-tokyo.ac.jp/~ejiri/

『真理を見通す眼と熱き情熱
   共に歩もう核融合エネルギーへの路』

 プラズマは荷電粒子の集合である.各粒子は電場と磁場を自ら生成すると伴にこれらを通して相互作用をする. 粒子の集合は衝突,拡散によって熱平衡状態に近づこうとするが,高温で閉込めのよい系は,衝突,拡散が小さく,熱平衡状態からはるかに離れたところにある. このことからプラズマは非線形,非平衡な系と言われる. これらの性質を解き明かすもっとも良い方法は,プラズマ中の揺らぎを観測することである. 本研究室では,高瀬教授とともに,主としてTST-2球状トカマク装置(東大:写真参照)を用いたプラズマ実験を行っている. TST-2は波動加熱のみで電流駆動,配位形成が可能であることが特徴である. 本グループでは,プラズマの加熱と自己組織化,揺動,不安定性を研究テーマとし,ユニークなプラズマ,自作の装置,解析方法を武器に,日々プラズマと格闘している. 学外では,計測手法,解析手法の開発をテーマに核融合科学研究所(岐阜)のLHD装置,九州大学のQUEST装置,イギリスのMAST装置, アメリカプリンストンプラズマ物理研究所のNSTX装置で共同研究を行っている.

辻井研究室 プラズマ物理,核融合,トカマク
[核融合研究教育プログラム]紹介を見る
辻井 直人 講師(基幹)
Tel. 04-7136-3878
E-mail: tsujii@k.u-tokyo.ac.jp
http://fusion.k.u-tokyo.ac.jp/

『理想のエネルギー源を作る
 大規模並列計算が明らかにする核融合プラズマの物理』


 核融合エネルギーはクリーンで安全なベースロード電源になりうるものとして研究されています.トカマク型核融合炉により正味の出力パワーを得られる見通しである一方,商業炉実現のためにはプラズマの閉じ込め性能の改善や定常運転の実現等解決すべき課題がいくつも残っています.本研究室では,高瀬教授,江尻准教授とともに,核融合実現に役立つ基礎的な技術開発やプラズマ物理の研究を行っています.核融合科学研究所や米国MIT等の世界的な核融合研究グループと共同研究を行うとともに,東大のTST-2球状トカマク装置を用いて,定常運転が可能な,波動によるトカマクプラズマ駆動実験を行っています.核融合プラズマのシミュレーションにおいては,大きく異なる時間,空間スケールを同時に解いたり,位相空間で粒子の運動を追跡したりする必要があるため,一般に大きな計算資源が必要となります.近年の大規模並列計算技術の発達により,様々な物理が相互作用する核融合プラズマの振る舞いをかなり定量的に記述できるようになってきました.シミュレーションによる予測を検証するため,TST-2ではマイクロ波干渉計やX線放射計測等を開発・設置し,計測を行っています.実験で得られた計測データを,核融合科学研究所のスパコンでのシミュレーション結果と付き合わせることで,波動の伝搬・吸収過程や電流駆動と電磁流体平衡の相互作用の様子が少しずつ明らかになってきています.

佐々木研究室 表面科学・触媒化学紹介を見る
佐々木 岳彦 准教授(基幹)
Tel. 04-7136-3910
E-mail: takehiko@k.u-tokyo.ac.jp
http://sas.k.u-tokyo.ac.jp/index.html

『化学反応を理解し制御したい
   サステナブルテクノロジーを創造しよう』

 物質変換の基礎となる触媒の開発・反応機構の研究・機能性界面の創成・表面科学的研究を行っている. また,これらの応用として,二酸化炭素の転換を様々な方法で行い,低炭素化に貢献するための研究を行っている.

(1)新規固体触媒の開発
 化学反応を実現する際には,多くの場合に触媒が不可欠となる. 特に,固体触媒は,生成物からの分離が容易で,再利用にも有利なことから実用的な意味が高い. 不活性分子の有用物質への変換を目指して,ナノ金属酸化物結晶,金属錯体をベースにした固体触媒,メソポーラス金属酸化物の開発を行っている.

(2)固定化イオン液体の開発
 イオン液体は有機物であり,かつイオン対から構成される塩であることから物性のデザインが可能な溶媒として注目を受けている. 我々は,イオン液体分子を固体表面に固定化して(下図参照)固体触媒として有用であることを示している. イオン液体は二酸化炭素との親和性が高いことからこの性質を利用した反応を開発している.

(3)固体表面上の電子・光励起ダイナミクス・プラズマ誘起化学反応の研究
 電子線や光を入射することにより固体表面上の電子状態を励起することで,化学結合の切断や組み替えが起こる. これらのダイナミクスは光触媒作用とも直接かかわる重要なプロセスである.パルスの電子線,レーザーパルスを入射した後のイオン発生, 発光現象を時間分解測定するための装置開発,およびそれらを用いたダイナミクスの研究を行っている. また誘電体バリア放電による大気圧近傍のプラズマを利用した化学反応過程の研究を行っている.

(4)計算化学的手法による表面過程・触媒反応の研究
 計算化学的手法は現在非常に重要かつ有用なツールとなっている. 我々は,1)モンテカルロ法による固体表面上の吸着種の振る舞いと化学反応の記述,2)遺伝的アルゴリズムを取り入れたテンソルLEED法による複雑な固体表面構造の解析, 3)密度汎関数法による触媒の活性構造と反応過程の解明に取り組んでいる.

 化学または物理のバックグラウンドを持つ皆さんに是非一緒に研究に取り組んでいただきたいと思います.

篠原研究室 プラズマ物理,核融合,トカマク
[核融合研究教育プログラム]紹介を見る
篠原 孝司 教授(基幹)
Tel. 04-7136-4044
E-mail: shinohara@k.u-tokyo.ac.jp
https://pp4nf.edu.k.u-tokyo.ac.jp

『"人類永続"のためのエネルギーを手にいれましょう』


太陽の光(エネルギー)が届かない宇宙空間で人類が使える基幹エネルギー源は核反応に基づくものとなります.核反応には核分裂と核融合がありますが,核分裂の場合,燃料であるウランなどは微小金属で宇宙空間にはほとんど存在しません.一方の核融合の燃料である水素などの軽元素は宇宙の多くの場所に存在します.人類が地球を離れ,火星より遠くへ生活圏を広げることができるようになるためには,是非とも手にすべきエネルギー源です.  2020年代,核融合研究は新たなステージに入ります.これまでの知見に基づいて設計された2つのマイルストーン的装置の運転が始まります.一つは,ITER(2025〜)で核融合反応で自身を加熱維持する燃焼プラズマ(注:暴走はしません)の実験を行います.人類が初めて見る燃焼プラズマです.一つは,JT-60SA(2020〜)です.燃焼プラズマではありませんが,ITERほど大きくないため(それまでは世界最大です)開発します.このJT-60SAは,EUと共同で茨城の量子科学技術研究開発機構那珂研究所に建設されました.  核融合コミュニティーはこれら装置で活躍する意欲のある人材を求めています. 当研究室では,江尻・辻井・大舘・藤堂研究室と協力して,柏キャンパス内のTST-2装置や学外の装置(JT-60SA (量研),LHD (NIFS),GAMMA10 (筑波大)など)での実験や物理計算コードを利用しての各種物理現象の機構の理解とそのエッセンスに基づく運転シュミレータコードの開発を目指します.また,実験での新たな発見を目指して計測器の開発研究も進めます.

藤堂研究室(核融合科学研究所) プラズマ物理, 核融合, シミュレーション
[核融合研究教育プログラム]紹介を見る
藤堂 泰 客員教授(連携)
Tel. 0572-58-2270
E-mail:todo@nifs.ac.jp
http://www.nifs.ac.jp/rd/fts/

『大規模シミュレーションでプラズマの非線形現象を解明する』

プラズマは膨大な個数の荷電粒子の集団であり、荷電粒子と電磁場の相互作用がもたらすプラズマの挙動は複雑な非線形問題です。プラズマの非線形現象の解明と予測を目的として、スーパーコンピュータを駆使した大規模計算機シミュレーションに取り組んでいます。

 研究室の中心的な研究課題は磁場閉じ込め核融合プラズマにおける高速イオンと電磁流体波動の相互作用です。これは、国際協力によりフランスで建設中のITERにおいて特に重要な研究課題です。

 この他にもプラズマの高エネルギー粒子と電磁流体現象を対象としてシミュレーション研究を行うとともに、そのための計算物理モデルや高性能計算手法を開発しています。また、大型ヘリカル装置(核融合研)やTST-2装置(東大)などの多くの実験装置を対象として、国内外の共同研究を積極的に推進しています。

(図註)大型ヘリカル装置(左)とITER(中)における電磁流体波動の流体速度揺動分布、研究室の風景(右)。

岡﨑研究室(物性研究所) 強相関電子系、超伝導、光電子分光紹介を見る
岡﨑 浩三 特任准教授(兼担)
Tel. 04-7136-3367
E-mail: okazaki@issp.u-tokyo.ac.jp
http://okazaki.issp.u-tokyo.ac.jp/

『研究に必要なのはやる気と好奇心
一緒に世界トップを目指して物質の世界を探求しよう』

 低温で電気抵抗がゼロになる超伝導という現象は、ミクロスコピックな世界を支配する量子力学がマクロスコピックな現象に現れる一例として非常に興味深く、 一方で将来的な応用の面でも大きな期待が持たれています。 超伝導など複雑な現象をミクロな電子構造の観点から解明する事は、物質科学における最も重要な課題の一つであるとともに、 実社会においてさらなる応用を加速するためにも不可欠であると捉えられています。 角度分解光電子分光という実験手法を用いると、超伝導体など物質中の電子の運動量とエネルギーの分散関係(バンド構造)を直接観測することが出来ます。 本研究室では、エネルギー分解能70μeV、測定最低温度1Kという世界最高性能を有するレーザー角度分解光電子分光装置を用いることによって、 物質の非常に微細な電子構造を調べ、超伝導を始めとする様々な物性現象の機構解明を目指しています。 さらに、非常に短いパルスを発するフェムト秒レーザーをポンプ光、その高次高調波をプローブ光として用いると、 非平衡状態におけるバンド構造の超高速な過渡特性も観測できるようになります。 本研究室では、レーザー開発の研究室と共同で超短パルス高次高調波レーザーを用いた時間分解光電子分光装置の開発・改良を進めて、 ポンプ・プローブ時間分解光電子分光によって、光励起状態からの電子の緩和過程の直接観測、光誘起相転移に伴う電子状態の変化の直接観測等を行い、 励起状態からの電子の緩和機構の解明、光誘起相転移の機構解明等を目指しています。

有田研究室(工学系研究科) 物性理論,第一原理計算,物質設計紹介を見る
有田 亮太郎 教授(兼担)
Tel. 03-5841-6810
E-mail: arita@ap.t.u-tokyo.ac.jp
http://arita-lab.t.u-tokyo.ac.jp/index.html

『夢の新機能物質を設計する』

本研究室では、非経験的手法に基づく物性物理学の研究を行っています。 様々な物質に対する計算から得られた知見をもとに、 非自明な電子状態 に由来する特異物性を理論的に予言、設計することを目指しています。 長期的には、新しい設計指針や 指導原理の確立を理論物理学上の新概念 の発見につなげることを考えています。精度の高い物質設計を可能にする 新しい計算法論の開発にも積極的に取り組んでいます。最近の研究テーマとしては以下のものがあります。

- 強相関モデル計算と密度汎関数理論の融合
- 鉄系超伝導体、銅酸化物高温超伝導体、フラーレン固体、高圧下硫化水素における超伝導
- 超伝導密度汎関数理論の開発と応用
- 5d電子系におけるスピン軌道相互作用と電子間相互作用の競合
- スカーミオン系、ワイル半金属などのトポロジカル系の電子状態計算
- 遷移金属化合物における巨大熱起電力
- 重い電子系における多極子の物理

量子力学、量子化学、統計力学といった伝統的な物理学や化学の知識、方法だけでなく、機械学習などの情報科学のアプローチを組み合わせて物質科学のフロンティアを切り拓くことを目指します。