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大谷 義近

(おおたに よしちか/教授/基盤科学研究系)

物質系専攻/物質科学協力講座/物性研究所

略歴

1984年3月 慶應義塾大学工学部卒業
1989年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科物理学専攻(博士課程)修了(理学博士)
1989年4月 ダブリン大学トリニティーカレッジ(アイルランド)博士研究員 
1991年4月 ルイ・ネール磁性物理研究所 CNRS(フランス)研究員
1992年4月 慶應義塾大学理工学部物理学科助手
1995年6月 東北大学工学部材料物性学科助教授
2001年10月 理化学研究所フロンティア研究システム 単量子操作研究グループ 量子ナノ磁性研究チームリーダー 
2004年4月 東京大学物性研究所教授(現職)理化学研究所フロンティア研究システム 量子ナノ磁性研究チームリーダー兼務(非常勤)

教育活動

大学院:電子論 (東北大学)、物質科学概論?(東京大学)学部:物理実験、力学演習(慶応義塾大学)

研究活動

当研究室では,ナノスケールの微小磁性体において特徴的になる磁気物理現象の研究を行っている。また、スピン偏極電流を供給する電極としてナノスケール磁性体を用いてスピン注入誘起磁性を詳細に研究し、スピン流を利用したスピントロニクスデバイスの開発を目指している。主な研究テーマは以下の3つである。

1. ナノスケール磁性体のスピンダイナミクスに関する研究
円盤磁性体のように対称性の良い磁性体の場合は、円盤中心に磁気渦が現れ、円盤面内磁場に対してはその移動によって磁化過程が記述される。実際に磁気光学カー効果を用いて磁化曲線を測定すると磁気渦の生成・移動や消滅と相関を持って磁化が変化する様子が観測される。直感的には、磁気渦中心はパラボリックポテンシャル中に閉じ込められた擬似粒子のように振舞い、外部から印加される振動磁場(電場)と相互作用して調和振動する。静磁的に結合した二つの円盤の場合、磁気渦の回転固有振動の縮退が解け、二つの円盤の磁気渦中心の分極方向とカイラリティーの組み合わせに依存して4つの固有振動が現れ、結合した磁気渦対はエネルギー的にファンデルワールス力によって結びついた2原子分子と同様に振舞うことが明らかになった。以上の考察は容易にN×N個の2次元磁気渦格子に拡張することができ、磁気渦の分極度の分布に応じて多彩な振動状態密度分布が得られることが明らかになった。現在検証実験に取り組んでいる。[文献1, 2]

2. スピン注入によって誘起される磁化反転や磁気相転移現象に関する研究
ナノスケール磁性体中にスピン偏極電子を注入すると,スピン角運動量の移送(spin transfer)とスピン蓄積(spin accumulation)の2つの効果が発現する。そのためにスピン注入された磁性体中の局在スピンにトルクが働いたり、電気化学ポテンシャルがスピンに依存して分極し、注入端子との接合近傍に非平衡磁化(内部磁場)が発生する。本テーマでは,このスピン注入とスピン蓄積の二つの現象に着目して実験を進めている。まず前者については、巨大磁気抵抗効果を示す強磁性/非磁性/強磁性3層構造を持つナノピラー素子を作製してスピン注入磁化反転の系統的な研究を行っている。[文献3, 4] また、後者のスピン蓄積についても、局所あるいは非局所スピンバルブ素子を用いて面内方向に電荷流を伴わないスピン流を効果的に生じさせる手法を確立し、スピン流のみを用いた磁化反転に成功した。最近ではスピンホール効果の研究にも積極的に取り組んでいる。[文献5]

3.生体擬似ナノスピントロニクス素子の開発・研究生体分子
モーターを構成するアクチンやミオシン等のタンパク質は、細胞レベルで栄養素の搬送、老廃物の排出など、生体内における物質輸送の主な役割を果たしている。これら生体分子モーターでは、等方的な運動を異方的な輸送に変換して搬送機能を作り出す。例えば熱擾乱による等方的な運動を、ポテンシャルラチェットを用いて直線運動に変換する。本研究では、このような生体系に特徴的なポテンシャルラチェットを用いた整流機構に着目して研究を遂行する。例えば上述の熱擾乱を振動磁場や振動電場に置き換えることにより強磁性/非磁性体複合ナノ構造中の電子スピンの分極制御や極微細ナノ磁壁の運動制御方法を確立する。更に、これらの手法を用いて、従来に無いスピンポンプ、スピンレンズ、スピンプリズムと言った次世代スピントロニクスデバイス開発につながる新パラダイムを理論と実験の両面から構築することを目指している。

文献

1) J. Shibata, K. Shigeto and Y. Otani, Phys. Rev. B 67 224404-1 (2003)
2) J. Shibata and Y. Otani, Phys. Rev. B 70 012404-1 (2004)
3) T. Yang, A. Hirohata, T. Kimura and Y. Otani, J. Appl. Phys. 99, 073708 (2006).
4) T. Yang, J. Hamrle, T. Kimura and Y. Otani, Appl. Phys. Lett. 87, 162502 (2005).
5) T. Kimura, Y. Otani and J. Hamrle, Phys. Rev. Lett. 96, 037201 (2006).

その他

所属学会:日本物理学界、日本応用磁気学会国際会議組織委員:Intermag 2005 (プログラム委員), International Conference on Magnetism 2006 (プログラム委員)

将来計画

 磁気光学効果による時間分解手法を用いて、磁気渦格子のスピンダイナミクスの測定を進めていきます。また、局所あるいは非局所スピン注入の手法を効果的に使った磁化反転素子、スピン流・電荷流変換素子やポテンシャルラチェットを用いたナノ磁壁運動制御やスピン整流素子の研究を展開します。

教員からのメッセージ

何事にも好奇心を持って、心から楽しんで研究をして下さい。