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高橋 敏男 たかはし としお/教授/基盤科学研究系
物質系専攻/物質科学協力講座/
http://ttaka.issp.u-tokyo.ac.jp/

略歴
1972年3月東京大学工学部物理工学科卒業
1974年3月東京大学工学系研究科物理工学専攻修士課程修了
1976年3月東京大学工学系研究科物理工学専攻博士課程中退
1976年4月東京大学工学部物理工学科助手
1979年工学博士
1986年4月東京大学物性研究所助教授
2004年3月東京大学物性研究所教授(現職)
1997年-2002年高エネルギー加速器研究機構併任助教授
2001年-2002年(財)高輝度光科学研究センター放射光研究者客員主席研究員
教育活動
大学院:放射光回折物理、物性科学概論III
工学系研究科:量子ビーム特論、物理工学実験技法(B)
研究活動
 放射光X線などの回折散乱現象を研究し、その成果を物質の構造や物性の研究に応用している。測定の対象は、主として、基板結晶上に創製した表面構造、界面構造、ナノ構造などである。

1)X線や中性子の動力学的回折現象の研究とその応用
  X線や中性子がSiなどのように完全性の高い単結晶で回折するときには、通常の1回散乱の取り扱いでは不十分で、多重散乱を取り入れた扱い、すなわち、動力学的回折理論を適用する必要が生じる。
  このような動力学的な回折現象を利用して表面や界面の原子配列を調べることができる。さらに、半導体デバイスにおいて、表面に絶縁体薄膜を成長させたことにより生じる電子特性を左右させる結晶内の極微小歪みについても情報を得ることができる。このような測定を解析するのに適した動力学的回折理論を展開し、表面に吸着した原子層の原子配列、界面に埋め込まれた原子層の原子配列、酸化膜によるSi単結晶の極微小格子歪みなどについて研究を行っている。
  他方、中性子の動力学的回折を利用して、散乱角の極めて小さい領域を測定できる極小角散乱装置を開発している(文献1)。

2)表面X線回折法による表面界面構造の研究
  表面や界面では、結晶とは周囲の環境が異なるので表面や界面に特有な構造が形成される。このような構造の原子配列を決定するには、結晶の場合と同様に、X線回折法が有効である。しかし、散乱に寄与する原子が少ないので,従来,このような測定は困難であったが、近年、放射光高輝度X線を利用できるようになり測定が可能になった。表面や界面の解析に適した回折法を開発して、他の方法では、決定が困難であった構造も解いてきている。同時に、このような測定に適した表面回折装置を国内の放射光施設の共同利用装置として建設協力してきた。低温でも表面X線回折が可能な試料マニピュレーターを製作して、相転移や最安定構造の研究を行っている(文献2、3)。

3)モデルフリーなX線回折散乱法の開発
 X線などの回折散乱法による測定では、観測するのはX線の強度であるためにX線の波として位相情報が消えてしまうという「位相問題」が生じる。もし回折波の位相を知ることが出来れば、測定結果をフーリエ変換することにより直ちに散乱体の構造を決定できる。結晶の場合には、研究が進展しているが、表面界面の構造やナノ構造にはそのままでは適用できない。このような構造に適した方法の開発を進めている(文献4)。

[受賞]
日本IBM科学賞(1987)、IConUSAS Prize(2003).
[文献]
1) T. Takahashi et al., Surf. Sci.282, 17 (1993).
2) T. Takahashi et al., Surf. Sci. 326, 347 (1995).
3) T. Takahashi et al., Surf. Rev. Lett.10 (2&3), 519(2003)
4) K. Sumitani et al., Japan. J. Appl. Phys. 42, L189 (2003)
その他
所属学会:日本物理学会(元JPSJ編集委員会委員)、応用物理学会(元JJAP編集委員会委員)、日本放射光学会、日本結晶学会(元編集委員会委員)、日本結晶成長学会、日本真空協会、日本中性子科学会、米国物理学会
各種委員会:PF懇談会運営委員
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将来計画
 高輝度放射光X線を利用することにより、表面X線回折の実験では測定精度が向上し、表面界面の原子配列だけでなく、格子振動の異方性も解析できるようになってきた。さらに、測定精度の向上と解析方法を開発することにより、外殻の結合に寄与している電子の密度分布も求められるようになるものと思われる。磁性に寄与している電子の情報も得られるものと思われる。これに関連して、位相問題を解決して表面の原子配列あるいは電子密度分布をモデルを仮定せずに解く方向の研究も進める。測定の対象も2次元周期性のないナノ構造にも広げ、それに適した測定法や解析法の開発も行う。
 他方、放射光の高輝度X線を利用できるようになりX線の強度は飛躍的に増大したが、これまでの光源から得られるX線はコヒーレシーが低い。自由電子レーザの短波長化などにより、近い将来には、コヒーレンシーの高いX線ビームが得られるようになる。その場合には、光学の分野と同様に非線形光学の研究分野が進展することが期待されるので、この分野の研究も進める。
教員からのメッセージ
 これまでの教育では理路整然として体系化された学問を効率よく学んできていることと思う。これらは、自分があらたな学問を開拓するという逆の立場になることを早く自覚して欲しい。確立していると思われることでも批判の目をもってみること。最近のノーベル賞受賞の研究にもみられるように、実験して予想しない結果、理解できない結果が出て来たときこそ胸を躍らせること。発想は大胆に、実験は緻密に。
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