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末元 徹 すえもと とおる/教授/基盤科学研究系
物質系専攻/物質科学協力講座/
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/labs/spectroscopy/suemoto/

略歴
1973年3月 京都大学物理系卒業
1978年3月東京大学大学院理学系研究科物理学専門課程博士課程終了(理学博士)
1980年3月東北大学科学計測研究所助手
1983年1月東北大学科学計測研究所助教授
1984年12月から86年11月までMax-Planck固体研究所研究員(在職のまま)
1989年4月東京大学物性研究所助教授、2002年3月東京大学物性研究所教授(現在に至る)
教育活動
大学院理学研究科物理学専攻:光学物性
大学院基盤科学研究科物質系専攻:光物性B
研究活動
 光を利用する計測方法は非接触、非破壊で物質の性質を調べることができるので、物性の研究手段として非常に有用である。応用上も光通信や情報処理、情報記録など重要な役割を担っている。われわれの研究室では、近年進歩の著しいレーザー光源の短パルス化、波長の広域化を利用した研究を行っている。特に10fs(10-14秒)クラスの超短パルスを用いた時間分解測定によって、レーザー以外の手段では全く不可能な超高速現象を追求することができる。

1)コヒーレント励起時間領域分光
  フォノンやプラズモンなどの素励起は従来の分光では周波数領域でのパワースペクトルの測定であったが、その固有振動周期より短いパルスを用いれば、振動を時間波形として観測することができる。これにより今まで知ることができなかった位相の情報や波形そのものの解析、究極の時間分解測定が可能となる。この手法により、半導体や低次元遷移金属酸化物などにおいて過渡的に出現する励起状態や磁気的な励起を研究している(文献1)。

2)「波束映画」の制作
  分子や固体の中における原子の振動や化学反応に伴う原子の移動を時々刻々追跡することは、ダイナミクス研究の究極の目標である。そのような現象に追随できる超高速「映画」を作成する種々の試みが行われているが、われわれは、世界最高の時間分解能をもつ超高速発光分光法を用いて、これに挑戦している。原子の運動は古典力学的には3次元空間における質点の運動として記述されるが、量子力学的には固有状態を表す波動関数の重ね合わせとして作られる「波束」の振舞いとして理解される。その形状変化を映画として初めて捉えたのが右の図である(文献1)。更に、最近、この「波束」が、2次元ポテンシャル面上でミクロなリサージュ図形を描いて運動している証拠を見つけた(文献2)。

3)ラマン散乱とテラヘルツ電磁波による時間分解分光
 当研究室では従来より時間分解ラマン散乱を有力な研究手段として用いており、半導体における電子やホールの緩和過程、酸化物超伝導体におけるキャリアーの緩和などを研究してきた。しかし、ラマン散乱には選択則という制限があり、観測できない素励起も存在する。短パルスレーザー光を半導体に照射することで得られるテラヘルツ電磁波パルスを用いれば、これらの励起の観測が可能になる。これによりこれまで調べることができなかったソフトモードなど低エネルギーの赤外活性モードのダイナミクスが研究可能になると考えられる。光源の強度や周波数幅の拡大、分光への応用に関して世界各所で研究が進められており、現在われわれも光源の強力化の研究を進めている。
[文献]
1) T.Matsuoka et al., Phys. Rev. Lett. 91 247402 (2003)
2) K.Yasukawa et al. Solid State Commun. (2006) 印刷中

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Figure:  Pt-Br系錯体における自己束縛励起子で観測された波束の運動
その他
所属学会:日本物理学会、American Physical Society.
1992-98 日本物理学会ジャーナル編集委員会委員
2005-06 日本物理学会領域5代表
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将来計画
 レーザー技術の発展によりさまざまの超短パルス光源が実現されているが、物性研究においてその性能を十分に発揮させるには、光源以外の周辺技術の開発が重要である。当研究室では、極限的な物性測定を追及すると同時に、幅広い物質群に新しい超高速分光方法を適用することを目標としている。このために、波長可変光源、低温測定、磁場下測定、顕微測定装置などの整備を進めている。現在、電子格子緩和、磁気秩序形成、光誘起相転移など興味ある現象をダイナミクスの視点から研究しているが、最も重点をおいているのは、素励起スペクトルを時間領域で観測する「実時間領域分光」である。これを更に発展させるとともに、さらに新しい方向として、光による物質秩序の制御、新物質相の創出などを計画している。
教員からのメッセージ
 21世紀は光の時代とも言われています。「光」は単に優れた手段というだけでなく、人間にとって根源的な意義をもつものではないでしょうか。
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