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小嶋 徹也

(こじま てつや/准教授/生命科学研究系)

先端生命科学専攻/遺伝システム革新学分野/進化発生分子生物学

略歴

1990年3月東京大学理学部生物化学科卒業
1994年4月東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻助手
1997年3月東京大学大学院博士号(理学)取得
2005年4月東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授(現職)

教育活動

大学院:適応分子生物学, 基礎生化学・分子生物学
早稲田大学理工学部電気・情報生命工学科:発生生物学

研究活動

生物の体はどのようにして形作られるのか?という大きなテーマを念頭に置いて、ショウジョウバエの肢や触角といった付属肢の形成過程をモデルとして、上記問題の遺伝子レベルでの理解を目指している.また、ショウジョウバエの肢形成過程で明らかになってきた知見を基礎として他の昆虫の付属肢の形成過程を比較していくことで、どうしてさまざまな生物種によってそれぞれ違う形をしているのか?その違いはどのように進化してきたのか?というテーマについてもこれから挑戦しようとしている.

1)ショウジョウバエ成虫肢の形成機構
生物の形作りの過程(発生過程)における重要なプロセスの一つは、モルフォゲンと呼ばれる分泌タンパク質の働き(モルフォゲン・シグンナリング)に応じて、細胞が自分の位置に依存した特異的な転写因子を発現するようになり(領域特異的な転写因子の発現)、それらの転写因子がそれぞれ異なるセットの下流遺伝子の発現を制御して各細胞集団の性質を決定することで、それまで性質の均一だった細胞集団がそれぞれ性質の異なる細胞集団に細分化されること(領域化)である.我々は、ショウジョウバエ成虫肢(遠近軸方向に分節化されている)の各分節に対応する領域を決定する転写因子の発現制御機構を分子遺伝学、分子発生学、分子生物学などの手法を駆使して詳細に解析することで、領域の確立・維持のメカニズムの全貌を解明しようとしている.また、分節特異的に発現している遺伝子の網羅的な探索をマイクロアレイを用いて行っており、各転写因子がどのくらいの数の、どのような遺伝子の発現を制御しているのかを解析することで、領域化がどのように最終的な形態に結びついているのかについても、解明しようとしている.

2)付属肢の特異性決定機構
ショウジョウバエを初めとする昆虫類を含む節足動物の体は、一対の駆動可能な突起物(付属肢)を持つ体節がいくつも連なって出来ていると考えられている.進化の過程で、各体節はそれぞれに特徴的な性質を持つようになり、それに伴い付属肢も体節ごとに異なる構造や機能を獲得してきた.我々は、ショウジョウバエの肢と触角の特異性決定機構を詳細に解析することで、付属肢の特異性決定機構について解明しようとしている.

3)付属肢における進化・多様性獲得の機構
生物は種によって、非常に多様性に富む形態をしている.我々は、付属肢の多様性に着目し、様々な昆虫の付属肢形成の過程をショウジョウバエで得られる知見と照らし合わせて付属肢の多様性獲得の機構を探り、その進化機構にも注目することで、生物の進化・多様性獲得の機構の解明に挑戦しようとしている.

文献

1) Sakurai, K. T., Kojima, T., Aigaki, T. and Hayashi, S. (2007) "Differential control of cell affinity required for progression and refinement of cell boundary during Drosophila leg segmentation." Dev. Biol. 309, 126-136.
2) Tajiri, R., Tsuji, T., Ueda, R., Saigo, K. and Kojima, T. (2007) "Fate determination of Drosophila leg distal regions by trachealess and tango through repression and stimulation, respectively, of Bar homeobox gene expression in the future pretarsus and tarsus." Dev. Biol. 303, 461-473.
3) Yasunaga, K., Saigo, K. and Kojima, T. (2006) "Fate map of the distal portion of Drosophila proboscis as inferred from the expression and mutations of basic patterning genes." Mech. Dev. 123, 893-906.
4) Kozu, S., Tajiri, R., Tsuji, T., Michiue, T., Saigo, K. and Kojima, T. (2006) "Temporal regulation of late expression of Bar homeobox genes during Drosophila leg development by Spineless, a homolog of the mammalian dioxin receptor." Dev. Biol. 294, 497-508.
5) Kojima, T., Tsuji, T. and Saigo, K. (2005) "A concerted action of a paired-type homeobox gene, aristaless, and a homolog of Hox11/tlx homeobox gene, clawless, is essential for the distal tip development of the Drosophila leg." Dev. Biol. 279, 434-445.
6) Tsuji, T., Sato, A., Hiratani, I., Taira, M., Saigo, K. and Kojima, T. (2000). "Requirements of Lim1, a Drosophila LIM-homeobox gene, for normal leg and antennal development." Development 127, 4315-4323.
7) Kojima, T., Sato, M. and Saigo, K. (2000). "Formation and specification of distal leg segments in Drosophila by dual Bar homeobox gene, BarH1 and BarH2." Development 127, 769-778.
8) 小嶋徹也 (2006).「発生過程における組織の厳密な領域化のメカニズム-ショウジョウバエ成虫肢形成過程における解析-」蛋白質核酸酵素 51, 256-261.
9) Kojima T. (2004). "The mechanism of Drosophila leg development along the proximodistal axis." Develop. Growth Differ. 46, 115-129.

その他

所属学会:日本発生生物学会、日本分子生物学会、日本ショウジョウバエ研究会

将来計画

我々と同じ地球上に生息している生命は、驚くほどに多種多様である.近年の分子生物学的な解析の目覚しい進展のおかげで、Hox遺伝子や主要なシグナル伝達系などは生物の多種多様性から考えると逆に驚くほどよく保存されており、生物は遺伝子のレベルでみればそれほど違いはないことがわかってきた.しかしその一方で、共通の原理を用いながらどうして様々な生物種の多様性が存在するのかという疑問については、未だ明快な解答は得られていない.この生物の「違い」について、その「違い」を生み出してきた進化的メカニズムについても合わせて、遺伝子の言葉で説明できるようになりたいと思っている.また、昆虫を含めた節足動物の肢は基本的な構造については類似性が高いのだが、その基本的な構造をつくる発生過程で働く遺伝子の発現様式などは少しずつ異なっていることが最近わかりつつある.昆虫や節足動物の進化・多様性の研究を通じて、似た構造を作るのにどのような方法がとられているのか、言い換えれば、どのような方法がとり得るのか、ということについても考えていきたい.

教員からのメッセージ

研究には、世界の誰も知らない事や自分の素朴な「なぜ?」という疑問を、自分自身の手で解き明かす醍醐味があります.想像力あふれる学生さんと一緒に、この醍醐味を堪能していきたいと思います.

ホームページのURL

http://www.idensystem.k.u-tokyo.ac.jp/