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石井 直方 いしい なおかた/教授/環境学研究系
人間環境学専攻/健康スポーツ科学分野/筋機能適応のメカニズム
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/research/faculty/list/mds/mds-ls/f002506.html

略歴
1977年3月 東京大学理学部生物学科卒業
1982年3月 東京大学大学院理学系研究科動物学博士課程修了(理学博士)
1982年4月 東京大学理学部助手
1987年2月〜1988年3月 日本学術振興会特定国派遣研究者(オックスフォード大学)
1990年4月 東京大学教養学部助手
1991年4月 東京大学教養学部助教授
1999年4月〜現在 東京大学大学院総合文化研究科教授
2005年4月〜現在 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授(兼担)
教育活動
大学院:適応生理科学特論
総合文化研究科:行動適応論II、III
教養学部統合自然科学科:適応生命科学
教養学部前期課程:身体生命科学、身体運動・健康科学実習
研究活動
平滑筋の”catch”収縮機構(1982-1991):
 軟体動物平滑筋などに見られる”catch”収縮(収縮張力が長時間維持される収縮)のメカニズムにつき、主に筋より単離した単一平滑筋細胞の張力と細胞内カルシウムを同時計測して調べた。張力維持中には、細胞内カルシウムイオン濃度が安静時と同レベルであること(文献1)、ATP分解活性も安静時レベルであること(文献2)などを世界で初めて示した。

単一の筋フィラメントを用いた筋収縮機構の研究(1990-1998):
 軟体動物平滑筋より単離した太いフィラメントから作成した“in vitro再構成運動系”を用い、太いフィラメントとアクチンフィラメントの極性がマッチしない場合でも速度の遅い「滑り運動」が起こること(文献3)、”negative load”(滑り方向と同一方向の負荷抵抗)を与えると、無負荷最大短縮速度(Vmax)を超えて滑り運動の加速が起こること(文献4)などを世界で初めて示した。

筋血流制限下での筋力トレーニング(1995-2011):
 筋の静脈血流を圧迫により制限した状態で筋力トレーニングを行うことにより、きわめて低負荷強度のもとでも筋肥大と筋力増強が起こることを示した(文献5)。また、その効果のメカニズムにつき、動物実験や網羅的遺伝子発現検索などによって調べた(文献6, 7)。

スロートレーニングのメカニズムと応用(2005-現在):
 筋血流制限下でのトレーニングのメカニズムに基づき、より安全な方法として、「筋発揮張力維持スロー法」を開発し(文献8)、その効果の分子レベルでの解明(文献9)、高齢者や低体力者への応用などを行った(文献10,11)。

新たな筋機能測定法の開発(1995-現在):
 主に単一筋線維を対象に用いられてきた力学的計測法をヒト生体内の筋収縮に応用し、”slack-test“法や(文献12)、複合関節動作等張力性ダイナモメータ(文献13)を開発し、高齢者の筋機能計測などへ応用した(文献14)。最近では、「超音波剪断波エラストグラフィー」を応用し、ヒト生体内の筋の発揮張力を推定する新しい測定系を開発した(文献15)。

ウエアラブルセンサを用いた動作分析(2011-現在):
 加速度センサ、ジャイロセンサを用い、走動作(文献16)と歩行動作の分析・評価を行うシステムを開発している。特に、歩行動作の分析については、高齢者の歩行不安定性や転倒危険性の早期発見につなげることを目的としている。

[文献]
1) Ishii, Simpson and Ashley: Free calcium at rest during "catch" in single smooth muscle cells, Science (N.Y.), 243, 1367-1368, 1989.
2) Ishii, Mistumori and Takahashi: Changes in sarcolpasmic metabolite concentrations and pH associated with the catch contraction and relaxation of the anterior byssus retractor muscle of Mytilus edulis measured by phisphorus-31 nuclear magnetic resonance, J. Musc. Res. Cell Motil., 12, 242-246, 1991.
3) Yamada, Ishii and Takahashi: Direction and speed of actin filaments moving along thick filaments isolated from molluscan smooth muscle, J. Biochem., 108, 341-343, 1990.
4) Ishii, Tsuchiya and Sugi: An in vitro motility assay system retaining steady-state force-velocity characteristics of muscle fibers under positive and negative loads, Biochim. Biophys. Acta., 1319, 155-162, 1997.
5) Takarada, Sato, Takebayashi, Takazawa, Tanaka and Ishii, N: Effects of low-intensity resistance exercise combined with vascular occlusion on muscular function in humans, J. Appl. Physiol., 88, 2097-2106, 2000.
6) Kawada and Ishii: Skeletal muscle hypertrophy after chronic restriction of venous blood flow in rats, Med. Sci. Sports Exerc., 37, 1144-1150, 2005.
7) Ishii, Ogasawara, Kobayashi and Nakazato: Roles played by protein metabolism and myogenic progenitor cells in exercise-induced muscle hypertrophy and their relation to resistance training regimens, J. Phys. Fitness Sports Med., 1, 83-94, 2012.
8) Tanimoto and Ishii: Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men, J. Appl. Physiol., 100, 1150-1157, 2006.
9) Ochi, Hirose, Hiranuma, Min, Ishii and Nakazato: Elevation of myostatin and FOXOs in prolonged muscular impairment induced by eccentric contractions in rat medial gastrocnemius muscle, J. Appl. Physiol., 108, 306-313, 2010.
10) Watanabe, Tanimoto, Ohkane, Miyachi and Ishii: Low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation increases muscle size and strength in older adults, J. Aging Phys. Activity, 21, 71-84, 2013.
11) Watanabe, Madarame, Ogasawara, Nakazato and Ishii: Effect of very low-intensity resistance training with slow movement on muscle size and strength in healthy older adults, Clinl Physiol. Funct. Imaging, 34, 463-470, 2014.
12) Sasaki and Ishii: Shortening velocity of human triceps surae muscle measured with the slack test in vivo, J. Physiol., 567, 1047-56, 2005.
13) Yamauchi, Mishima, Fujiwara, Nakayama and Ishii: Steady-state force-velocity relation in human multi-joint movement determined with force clamp analysis, J. Biomech., 40, 1433-1442, 2007.
14) Yamauchi, Mishima, Nakayama and Ishii: Ageing related differences in maximum force, unloaded velocity and power of human leg multi-joint movement, Gerontology, 56, 167-174, 2010.
15) Sasaki, Toyama and Ishii: Length-force characteristics of in vivo human muscles reflected by supersonic shear imaging, J. Appl. Physiol., 117, 153-62, 2014.
16) Kawabata, Goto, Fukuzaki, Sasaki, Hihara and Ishii: Acceleration patterns in the lower and upper trunk during running, J. Sport Sci., 31, 1841-1853, 2013.
その他
spacer体力医学会、運動生理学会、体育学会、生物物理学会、動物学会 各会員。
「体力科学」編集委員(和文誌、英文誌)、日本ボディビル・フィットネス連盟副会長、日本パワーリフティング協会理事、JOC強化委員等。
将来計画
駒場の研究室では、主に運動やトレーニングに対する筋の適応のメカニズムに関して、細胞〜分子レベルでの基礎研究を進めています。柏の研究室では、新しい計測技術やトレーニング法を応用して、高齢者の健康づくりを支援するシステムづくりを目指す研究を進めていきたいと考えています。
教員からのメッセージ
これまで、軟体動物の平滑筋からヒトの身体まで、さまざまな材料を研究対象としてきました。また、微小張力測定システムの設計と製作から、ヒト用の大型ダイナモメータの設計、筋力トレーニング法の開発まで、紆余曲折しながら種々雑多なテーマに取り組んできました。今になって思えば、これらすべては関連し合っており、無駄なことは一つもありませんでした。将来「役に立ちそうだ」、「役に立たない」という安易な価値判断をせず、多くのことに常に真剣に取り組むことこそ、独創的な発想を養う上で重要だと思います。本研究科は、既成の学問領域に捉われず、多様な研究に触れることのできる希少な環境を提供していると思います。
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