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瀧川 仁 たきがわ まさし/教授/基盤科学研究系
物質系専攻/物質科学協力講座/
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/labs/new_materials/takigawa/

略歴
1978年3月東京大学理学部物理学科卒業、1983年3月東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了(理学博士)、1983年4月東京大学物性研究所技官、1987年4月米国ロス・アラモス国立研究所研究員、1990年10月米国IBMワトソン・リサーチセンター研究員、1997年4月東京大学物性研究所教授(現職)
教育活動
大学院:低温電子物性、磁性
非常勤講師:強相関電子系の核磁気共鳴による研究(九州大学、福井大学、名古屋大学)
研究活動
 核磁気共鳴法(NMR)を主な実験手段として、固体内の強い電子間相互作用によって引き起こされる様々な現象を研究している。物質の性質は殆どその中での電子の振る舞いによって決まっている。とりわけ、電子の間にクーロン力などの相互作用が働く結果、集団として秩序ある振る舞いをする場合に、超伝導や強磁性・反強磁性秩序といった興味ある現象が現れる。核磁気共鳴法(NMR)は磁場中におかれた原子核のスピン磁気モーメントの回転運動を検出する実験方法であるが、原子核の磁気モーメントや電気四重極モーメントと周囲の電子の間に磁気的・電気的な相互作用が働くために、NMRはスピン・電荷・軌道といった強相関電子系の多重自由度の秩序状態や揺らぎの性質をミクロに探る有力な実験手段となる。最近の研究例を以下に示す。

1)量子スピン系
  シングレット基底状態を持つ量子スピン系が強磁場中で示す磁化プラトー現象には、遍歴性と局在性が拮抗する量子多体系の特徴が現れている。我々は28テスラの強磁場、50mKの低温においてNMR実験を行うことにより、2次元ダイマースピン系SrCu2(BO3)2の1/8磁化プラトー状態において、単位胞中に16個のスピンを含む巨大なスピン超構造が出現していることを発見した。(文献1)

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Figure: SrCu2(BO3)2の1/8磁化プラトー状態における銅原子核NMRスペクトル(左)と それから決定されたスピン超構造(右)。
2)低次元伝導体
  量子揺らぎの強い1次元電子系では、スピンや電荷の異常なダイナミクスが期待される。良い1次元伝導性を持つ銅酸化物PrBa2Cu4O8の銅原子核に対しおいてゼロ磁場下、核四重極共鳴(NQR)の測定を行い、非常に遅い電荷の揺らぎと低温でのランダムな電荷凍結を観測した。(文献2)

3)エキゾティックな超伝導体
 強い幾何学的フラストレーション効果を持つパイロクロア酸化物のなかで始めて超伝導が観測されたRe2Cd2O7についてカドミウムおよびレニウム原子核のNMR・NQR測定により超伝導ギャップの等方性、構造相転移を見出した。(文献3)
[文献]
1) K. Kodama et al. Science 298, 395-399 (2002).
2)S. Fujiyama et al. Phys. Rev. Lett. 90 147004-1-4 (2003).
3)O. Vyaselev et al. Phys. Rev. Lett. 89 017001-1-4 (2002).
その他
所属学会:日本物理学会、アメリカ物理学会
学術雑誌編集委員:Journal of the Physical Society of Japan(編集委員)、Journal of Physics: Condensed Matter (英国、Dupty Editor)
国際会議組織委員:International Conference on Strongly Correlated Electrons Systems, Nagano 1999 (プログラム委員), International Workshop on Magnetic Excitations in Strongly Correlated Electrons, Hamamatsu 1999 (組織委員長), ISSP International Symposium on Correlated Electrons, Kashiwa 2001 (組織委員長)
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将来計画
 当面は、希釈冷凍機を用いた低温域(50mK程度)と3GPa程度の高圧を組み合わせ、更に単結晶試料の方位を自由に制御できる実験環境を整え、低温・高圧における強相関電子系のエキゾティックな量子相転移をNMRによって観測することを目指す。長期的には、磁気力検出NMR法などの新しい測定方法を活用することにより、微小試料やナノ構造を持つ試料に対してもNMRを用いた研究を試みたい。
教員からのメッセージ
 自然科学の進歩は「思いがけない発見」から生まれます。あらかじめ理論的な予想がある場合に、それを実験で確認することも重要ですが、予想外の実験結果はもっと重要な発見の可能性を秘めています。実験中に予期しないことが起きたときに、それを見逃さない注意深さと、最後までそれを究明する忍耐と執着心が必要です。せっかく異常を見つけても「何かの間違いだろう」と注意を払わなかったり、少し考えて分からないからといって実験結果を理解することをあきらめてしまっては何も生まれません。研究においては、注意深さと執着心、予断にとらわれない柔軟性を大切にしてください。
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