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小林 一三 こばやし いちぞう/教授/生命科学研究系
メディカルゲノム専攻/システム医療科学講座/バイオ医療知財分野
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ikobaya/index_ja.html

略歴
1974年、東京大学理学部生物化学科卒業。1979年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。東京大学医科学研究所助手(生物物理化学研究部)、 Research Associate at Institute of Molecular Biology, University of Oregon, USA, 東京大学医学部助手(細菌学教室)、国立小児医療研究センター研究員(感染症研究部)、東京大学医科学研究所助教授(生物物理化学研究部、遺伝子動態分野)を経て、2004年より現職。薬学博士(東京大学)。
教育活動
大学院:システム微生物学、システム細胞情報論、メディカルゲノムサイエンス研究法、メディカルゲノムサイエンス研究室実習、メディカルゲノムサイエンス指導実習、他
理学部生物化学科:分子生命科学II
教養学部前期課程:全学自由研究ゼミナール、全学体験ゼミナール
研究活動
「生命とは何か」という問いを、ゲノム(=生き物の持つ遺伝情報の総体)のレベルで問う事ができるステージに、生命科学研究は到達した。分子生物学がもたらした「生命とは、遺伝子という情報(= テクスト)の自己増殖の過程である」という命題から、さらに進んで、今や、「そのように利己的な遺伝子たちが、なぜゲノムという社会秩序と生命体とを作りうるのか?」を問う事ができる。

 ゲノムは自己を忠実に維持しようとするが、配列の同じあるいはよく似た(ホモロジーのある)ゲノム部分とは頻繁に組換えを起こす。これが相同組換えであり、一つの種(例えば人間)内での性による多様化と均一化の基礎である。一方、ゲノムは進化の過程では大きな再編を経験する。私たちは、ゲノムを作る DNAの切断が、この相同組み換えとゲノム再編・進化に重要であることを明らかにした。さらに、DNA切断によるゲノムの死が、「ゲノムという遺伝子の社会」の秩序維持と進化に重要である事を、制限酵素遺伝子の「利己的な遺伝子」としてのふるまいから明らかにしつつある。

[ゲノムの相同組み換えとDNA両鎖切断] 感染細胞内で作られるDNAウイルスゲノム間の相同組換えの中間体と産物を、試験管内ウイルス再構成で「生きた」形に変える事によって、定量的に検出する系を創った。それらを電子顕微鏡で観察するなどして、相同組換えの機構を解明した。

 ウイルスゲノムがタンデムに連なった多量体から単量体が切りだされる反応が、相同組換えを促進する事を発見し、さらに、細胞内で制限酵素(配列特異的 DNA切断酵素)を働かせることによって、DNAの切断が相同組換えに働く事を示した。ウイルスによる相同組換え機構について、「DNAの切断が、同じ配列を持つDNAを鋳型とするコピーによって修復される」という「二重鎖切断修復モデル」を提案し、実証した。

[相同組み換えとでたらめな組み換え] アデノウイルスベクターによってドナーになるDNAを導入し、動物細胞内のゲノム配列を高精度でデザインされたように修正した(体細胞遺伝子ターゲッティング)。この過程で動物細胞と細菌とで「ホモロジー相互作用に関連したでたらめな組換え」を発見した。
 これらの発見に示唆されて、「相同組換えの中間体で2つのDNAを連結する点がホモロジーに沿ってランダムウォークし、ホモロジーの端にぶつかると壊れる」というモデル化をし、遺伝子ターゲッティングの効率がホモロジー長さの3乗に比例する事を定量的に説明できた。

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[生き物としての制限酵素修飾酵素遺伝子] DNAを特定の配列で切断する制限酵素は、同じ配列をメチル化し制限酵素から保護する修飾酵素と対をなす。それらは、「侵入DNAを切断することによって細胞を守るために進化し維持されている」というのが定説であった。私達は、「制限酵素修飾酵素遺伝子単位は細胞から失われにくい」という現象を発見した。さらに、実験によって、「細胞から制限酵素修飾酵素遺伝子が失われると、細胞分裂に伴って修飾酵素がしだいにうすまっていき、新しく複製された染色体上の認識配列を守りきれなくなる。そこを残った制限酵素が切断すると、細胞は殺される。」という機構の証拠を得た。
 これらから、制限修飾遺伝子は、ウイルスやトランスポゾンのような独自の遺伝単位つまり「生き物」であり、「外敵を破壊する」戦略だけでなく、このような「分離後の宿主殺し」(あるいは「遺伝的中毒」)戦略、そして「ゲノムを動く」戦略によって、広まり維持される、という「利己的遺伝子仮説」を提唱した。以来、制限修飾遺伝子のバイオロジーという分野を開拓している。
 ゲノム配列を同種・同属の近縁間で比較することによって、制限修飾遺伝子が挿入した痕跡、ゲノムの逆位を起こした痕跡など、「制限修飾遺伝子が動く遺伝子であり、ゲノムを造り替えてきた」証拠を得た。実験によって、制限修飾遺伝子のウイルスゲノムのようなふるまいを示した。制限修飾遺伝子の存在を脅かすことによって、逆位・重複・転移など様々なゲノム再編を実験室で再現することができた。さらに、制限修飾遺伝子が爆発的に自己増殖する現象を発見した。右の写真では、分裂して出来たばかりの二つの娘細胞(矢印)の一方で、爆発的な増殖が起きている。

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[ゲノム社会の維持と進化のシステム] このように「自己の存在を脅かされるとホスト(ゲノム)をダメージする」という「遺伝的中毒」が、ゲノムという「遺伝子たちの社会」の構築の原理である可能性を提唱した。
 ゲノムDNAは自然状態でも頻繁に二重鎖切断を受けることを発見した。切断点からある酵素がゲノムDNAを破壊していくが、特定の配列に出会うと組み換え修復に切り替わる。この酵素が変異すると別の配列をID配列として認識する事を示した。DNA二重鎖切断という「ゲノムの死」で始まり、その「修復=再生」にいたる一連の過程は、「非自己」遺伝子を排除し、ID配列での標識などによって認識される「自己」遺伝子群を選択的に存続させる、ゲノム社会の秩序維持戦略と考えられる。このような「ゲノム内での利己的な遺伝子単位間の戦いと協力」が、ゲノムの維持と再編の双方に関与している。その法則性の理解は、ゲノム進化工学としての利用につながる。

[ゲノムに潜むDNA作用酵素群] 解読された細菌ゲノムには、多くの新しい型の制限酵素修飾酵素などのDNA作用酵素が潜んでいた。ゲノム再編への連鎖の解明など、インフォーマティクスを駆使して、これらの遺伝子を推定し、発現させ、活性をもつものを探索している。それらの機能と構造を解析している。
[文献]
1) M. Sadykov, Y. Asami, H. Niki, N. Handa, M. Itaya, M. Tanokura, I. Kobayashi, Multiplication of a restriction-modification gene complex. Mol. Microbiol., 48: 417-427 (2003).
2) N. Handa, Y. Nakayama, M. Sadykov and I. Kobayashi. Experimental genome evolution: large-scale genome rearrangements associated with resistance to replacement of a chromosomal restriction-modification gene complex. Mol. Microbiol., 40: 932-940 (2001).
3) A. Nobusato, I. Uchiyama, S, Ohashi, and I. Kobayashi. Insertion with long target duplication: A mechanism for restriction-modification-mediated gene mobility suggested from comparison of two complete bacterial genomes. Gene, 259: 99-108 (2000).
4) T. Naito, K. Kusano, I. Kobayashi. Selfish behavior of restriction-modification systems. Science, 267: 897-899 (1995).
5) A. Fujita, K. Sakagami, Y. Kanegae, I. Saito, I. Kobayashi. Gene targeting with a replication-defective adenovirus vector. J. Virol., 69: 6180-6190 (1995).
6) Y. Fujitani, K. Yamamoto, I. Kobayashi. Dependence of frequency of homologous recombination on the homology length. Genetics, 140: 797-809 (1995).
7) N. Takahashi, I. Kobayashi. Evidence for the double-strand break repair model of bacteriophage lambda recombination. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2790-2794 (1990).
8) 小林一三: ゲノムはなぜ変わるのか? 利己的な動く遺伝子たちのコミュニティーとしてのゲノム. 科学、70: 335-345 (2000). 
その他
日本分子生物学会,日本遺伝学会、日本進化学会、日本生化学会、日本農芸化学会、極限環境微生物学会、各会員。日本進化学会、日本遺伝学会では評議員を務めた。
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将来計画
[研究] 生命を「遺伝子たちの社会」として理解したい。遺伝子の生き物としてのふるまい、それらとゲノムとの相互作用によるゲノム維持とゲノム進化の機構と意義を明らかにする。「制限修飾遺伝子のバイオロジー」という分野を創成する。より一般に、ゲノムDNA両鎖切断の生成、プロセシング、修復、それによる細胞死・ゲノム再編・進化の機構を明らかにする。ゲノム比較などゲノム考古学の技術を使って、ゲノム自身の進化を詳細に解明する。
 これらのゲノムレベルでの研究によって、特に細菌の生と死の機構と意義を明らかにする。
 ゲノム中にDNA切断分解修飾酵素などのDNA作用酵素を推定し、発現して、構造と機能を解析し、それらのバイオロジーと関連づける。これらのゲノム作用酵素遺伝子のin vivoで活動を利用して、分子進化工学のゲノム版である「ゲノム進化工学」を創成し、新たな生命体を創り出す。
 方法としては、分子生物、分子遺伝、ゲノム解析、生化学、細胞学などの実験科学だけでなく、インフォーマティクス、数理解析、シミュレーションをも駆使する。
[教育] 研究室においては、これらの研究を通じて、独創性のある研究者を育てる。
教員からのメッセージ
ゲノム解読を突破口にして、「生命とは何か?」という謎が、今、一気に解かれようとしている。知ることへの情熱にあふれた人たちに、この謎解きゲームの最終ステージに飛び込んで、遠慮無く突き進んで欲しい。
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