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藤原 晴彦 ふじわら はるひこ/教授/生命科学研究系
先端生命科学専攻/機能生命科学講座/遺伝システム革新学分野
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/animal/index.htm

略歴
1981年3月 東京大学理学部生物化学科卒業、1986年3月東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了(理学博士)、1986年4月厚生省国立予防衛生研究所(現感染症研究所)研究員、1989年4月東京大学理学部生物学科動物学教室講師、1992年ワシントン大学(シアトル)動物学部客員研究員、1995年12月東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻助教授、1999年4月東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授。2004年4月同教授(現職)
教育活動
大学院:生命科学英語演習(1)、生命科学英語特論 (1)、適応分子生物学
その他:放送大学非常勤講師
研究活動
1)レトロトランスポゾン(LINE)の転移機構とその応用
 LINEはヒトゲノムの約20%を占め、さまざまな遺伝病の原因ともなっているが、その転移機構についてはほとんどわかっていない。当研究室では、これまで昆虫のテロメアにのみ転移するレトロトランスポゾン(LINE)の転移機構について詳細に調べてきたが、最近になって細胞外からLINEを強制的に導入し、テロメアに特異的に転移させることに成功した。この系を利用して、LINEに共通して必要なドメイン構造を網羅的にほぼ解明し、LINEの転移機構の全貌が明らかになりつつある。また、これまで全く想定されていなかった部位特異的な遺伝子治療用ベクターとして利用する研究を進めている。(文献1)

2)テロメアを特異的に切断する酵素
 テロメアに転移するレトロトランスポゾンの内部には標的を切断する特異的なエンドヌクレアーゼが存在する。われわれはこの部分を精製して、テロメアだけを切断する酵素活性を発見した。この酵素は昆虫もしくはヒトのテロメア反復配列を特異的に切断する能力があり、テロメアを切断する酵素としては唯一知られるものである。ヒトでは老化、がん化の抑制などに向けてテロメアの制御によってテロメア領域の制御に関する研究が精力的に進められている。われわれは、テロメアを特異的に切断するメカニズムを分子生物学、構造生物学の両面から調べるとともに、この酵素の医学的な応用を試みている。(文献2)

3) ステロイドホルモンによる昆虫翅発生の制御機構
 変態は脊椎動物を含めほとんどすべての動物にみられ、ホルモンによって発生が環境適応的に制御される現象である。我々は、チョウなどが変態時にさまざまな形の翅を形づくることに着目し、ステロイドホルモンであるエクダイソンが、翅の外側では細胞死を翅の内側では細胞増殖を同時に誘導することを見出した。これは、エクダイソンを受容する受容体(EcR)のアイソフォームの種類が、細胞を細胞死させるか、増殖させるかの運命を領域特異的に選択させる機構による。一方、脊椎動物では性ホルモンは明瞭に存在するが、昆虫ではこれまで性ホルモンは存在しないといわれてきた。アカモンドクガのオスは翅があるが、メスには翅がない。この蛾の性的二型は変態時に形成されることから、組織培養法によってその原因を探索した結果、エクダイソンがメスの翅の退縮を引き起こす原因となっていることを見つけた。(文献3,4)

4) 昆虫体表の擬態紋様形成の分子メカニズム
 紋様の変異は動物の進化の過程で生活史や行動戦略の中に組み込まれ、ある種の昆虫などでは“擬態”として生体防御に役立っている。そこで、脱皮の際に紋様を切り替えるアゲハなどを用いて、幼虫体表の紋様や成虫翅の紋様形成の遺伝的制御機構を明らかにしようと研究を進めている。(下記写真)
[文献]
1) Takahashi, H.et al. EMBO.J. 21, 408-417, 2002.
2) Anzai, T. et al. Mol.Cell.Biol. 21, 100-108, 2001.
3) Fujiwara,H. and Ogai,S. Dev.Genes.Evol.211,118-123,2001
4) Lobbia, S. et al. J. Insect Sci.3,1-7,2003.

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Figure: アゲハ4齢幼虫から5齢幼虫への擬態紋様の切り替え
その他
所属学会:日本分子生物学会、日本動物学会、日本進化学会、日本蚕糸学会、日本遺伝学会、日本発生生物学会、International Ecdysone Workshop Organizing committee
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将来計画
LINE型レトロトランスポゾンの転移メカニズムを完全解明するとともに、それを利用した遺伝子治療システムや腫瘍抑制剤の開発を実用化させる。そのためには、研究科内のみならず学内外での研究連携を積極的に行う。一方、昆虫の多様性と適応性をより体系的に研究し、ベーシックサイエンスでも対外的にアピールするユニットを構築する。また、地域貢献として柏市内の学校教育にも昆虫を素材とした研究を紹介する。
教員からのメッセージ
産学連携、分野間交流、技術移転などが柏キャンパスでは、研究の高い活動性を引き出すトリガーとなるよう、明確なシステムが構築される必要がある。一方、研究の中身から、自然に対する根源的な興味が失われていくことを危惧する。社会全般での理科離れが進行する中で、"役にたつ研究"と"実利を求めない研究"がバランスよく共存することを望む。
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