概要

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落合 淳志

(おちあい あつし/教授/生命科学研究系)

先端生命科学専攻/がん先端生命/がん微小環境、がん診断と治療法開発

略歴

1986年 広島大学大学院医学系研究科病理学、学位取得(医学博士)、
1985年~1987年 日本学術振興会特別研究員、
1987年 広島大学医学部第一、講師、
1988年 西ドイツハノーバー医科大学実験病理アレクサンダー・フォン・フンボルト招聘研究員、
1991年 国立がんセンター研究所病理部研究員、
1998年 国立がんセンター研究所支所臨床腫瘍病理部部長、
2005年国立がんセンター東病院臨床開発センター臨床腫瘍病理部部長、
2002年から 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学研究系がん先端生命科学分野教授 兼任

教育活動

2007年 広島大学客員講師、神戸大学客員講師、京都府立大学客員講師

研究活動

がんの予防や治療を目指した研究のためには、個々のがんの発生・進展過程の機構に注目し、その特徴を標的として治療することが必要であり、これまでの研究により、がん細胞の不死化機構、増殖機構そして抗アポトーシスにかかわる分子機構と、がん細胞の運動機構解明などが明らかになってきた。しかし、がん細胞はがん細胞として弧在細胞から発生するのではなく、圧倒的多数を占める周囲の細胞や組織との相互関係の中で発生し進展していくことは組織形態学的にも明らかであり、がん化の過程には、がん細胞自体の変化を引き起こすがん細胞周囲の微小環境との関わり(分子機構)が極めて重要な役割を果たすものと考えられる。私たちは、がん細胞の生物学的変化をがん細胞自体の研究として進めるのではなく、がん細胞とその微小環境との関わりを明らかにすることを目的とした研究を進めている。特に、がん浸潤・転移、抗がん剤・治療抵抗性の獲得など、がん治療に関わる微小環境とがん生存機構の解明を目的として動物モデルの構築を行い、がん細胞とがん細胞周囲微小環境との相互作用を明らかにすることを目的とする。
:1)がんとがん組織微小環境相互作用の解明:
 がんの発生進展にはがん細胞自身の遺伝子・分子異常の多段階的な蓄積と、がん組織を構成する間質細胞が重要な役割を果たしていることは明らかになってきている。がん組織を構成するがん間質細胞(線維芽細胞、血管内皮細胞、血管周皮細胞、マクロファージ)の起源とその生物像を明らかにし、がん生物像にどのような働きをしているのかを検討し、がん発生・進展に関わる意義を明らかするものである。このため、近年注目されているがん幹細胞を単離し、がん幹細胞とがん間質細胞の相互作用を検討しがん細胞が有する異常な増殖・抗アポトーシスそして浸潤に関わる分子基盤を追求する。また、これらの分子基盤を基にした新たな治療法の開発も目指す。

:2)がん浸潤・転移機構の解明とその分子機構を標的としたがん治療法の開発:
 がんの転移は多段階にわたる分子機構により構成されているが、なかでも臓器特異転移はがん細胞の生存および増殖にとって転移先臓器において極めて都合の良い微小環境が存在すると考えられる。これまでに開発された、ヒトがん細胞のヒト組織への転移動物モデルを用いて、ヒトがん細胞の臓器特異転移に関わる分子機構を明らかにしてきた。また、転移細胞を選択的傷害する治療法の開発を行う。

:3)がん性疼痛・倦怠感・悪液質に関わる機序解明と治療法の開発:
 がん性疼痛では通常の痛み刺激に対しても極めて強い痛みを感じることが多い。このがん患者に特徴的な痛みの原因を明らかにすることはがん患者の治療に極めて大切であるが、これまで、これら臨床変化は単一の分子機構では進められないことより、個々の機構に関しても分子生物学的手法を用いたがん性疼痛、倦怠感、悪液質の研究は比較的乏しい。我々は、免疫不全マウスを用いたがん性疼痛のモデルを作製し、痛みの分子機構を明らかにし新しい治療法の開発を目指す。

:4)がん個別化治療のための生検診断法の開発:
 がん患者の個別化治療を行うためには、個々のがんの性状により分類し適切な治療法の選択が必要になる。この治療法選択のためにはがん組織及び患者組織より得られる様々な情報と治療感受性を統合し判断する必要がある。がん患者検体から得られる情報をどの様に解析して利用するのかを目的に検討を進めていく予定である。

文献

1) Ishii G, Ito TK, Aoyagi K, Fujimoto H, Chiba H, Hasebe T, Fujii S, Nagai K, Sasaki H, Ochiai A. Presence of human circulating progenitor cells for cancer stromal fibroblasts in the blood of lung cancer patients. Stem Cells. 2007 Mar 22;
2) Goya M, Ishii G, Sangai T, Kodama K, Miyamoto S, Hasebe T, Nagai K, Yonou H, Hatano T, Ogawa Y, Ochiai A. Prostate-Specific Antigen Contributes to the Osteoblastic Phenotype via Apoptosis of Osteoclast Precursors: Potential Role in Osteoblastic Bone Metastases of Prostate Cancer. The prostate 1;66(15):1573-84, 2006..
3) Sano A., Sangai T., Maed H., Nakamura M., Hasebe T., Ochiai A. Kallikrein 11 expressed in human breast cancer cells releases insulin-like growth factor through degradation of IGFBP-3. Int J Oncol. 30(6):1493-8.2007.
4) Ito TK, Ishii G, Chiba H, Ochiai A The VEGF angiogenic switch of fibroblasts is regulated by MMP-7 from cancer cells. Oncogene. 2007 May 21; [Epub ahead of print]

その他

日本病理学会
日本癌学会
日本頭頸部癌学会
日本胃癌学会
日本食道学会
大腸癌研究会
日本消化管学会
日本癌治療学会
米国癌学会
国際病理学会

将来計画

がんの発生・進展過程はこれまで主体的に考えられてきているがん細胞の遺伝子・分化の異常としてとらえるのではなく、がん組織全体を新たな新生物としてとらえることにより、新しい治療法の開発が可能である。特に、がん細胞の殺傷を目的とする研究だけでなく、がんにまつわる痛みや、倦怠感、治療により味覚消失など正常の機能の喪失する機構など、がん患者全身に関わる変化を明らかにすることで、がん治療開発における新たな展開を図りたい。

教員からのメッセージ

現在のがん細胞の研究は、がん発生・進展の本質として重要な意義を示しているが、生物としての人間の治療においては、がん細胞の研究だけではおそらく解決できないものも含まれていると考える。すなわち、人間の治療を考えることの重要性解明には、がん細胞のみならず、がん細胞と微小環境、そして人間全体に及ぼす影響などを、分子生物学的手法を用いて解析し、新しい仮説や理論のもとに大きく転換する必要があると考えられます。さあ、一緒にがん治療のための研究を進めましょう。