新東京大学大学院領域創成科学研究科
なぜ感染で死ぬのか?「利他的死による感染防御」の検証

発表概要: 

東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 小林一三教授らの研究グループは、「なぜ微生物の感染によって死に至ることがあるのか」という疑問に対して、「感染された個体が、微生物もろとも死ぬことによって、同胞への感染拡大を防いでいる」という「利他的な死による感染防御」仮説を立て、その仮説を数理モデルと連結した大集団感染実験によって実証しました。この結果は、病原体の強毒性に対処する上での、新しい視点をもたらします。

発表内容: 

細菌やウイルスのような微生物に感染し、重病になり死に至ることがあるのはなぜでしょうか?感染された生き物(ホスト)が死ぬと自分自身も増殖できなくなるはずなのに、強毒性の病原体が存在し続けているのは、なぜでしょうか?

この強毒性の維持に関して、従来は病原体に注目した説明がなされてきました。例えば、「ホスト生物を換えたばかりで、病原体がまだ新しいホストに適応していない」「同じホストの中で病原体同士が増殖競争すると、毒性が強くなってしまう」などです。

研究グループはホスト側に着目して次のように考えました(図)。ある個体に感染が起こると、普通はそこで病原体が増え、それらが他の個体に次々と感染を起こし伝播していきます(二次感染)(図の左)。しかし、感染を受けた個体がすぐさま病原体もろとも死ぬと、この二次感染は防がれると推測されます(図の右)。この「利他的な死による感染防御」仮説を、研究グループは、進化ゲーム型数理モデルと連結した大集団感染実験によってホストの増殖を解析することによって実証しました。

本実験では、ホストとして一億ほどの大腸菌を、病原体としてそれに感染するウイルスを使いました。「病原体に感染されると、その増殖を許すホストS(図左)」と、「病原体に感染されると、すぐさま自殺するホストA(図右)」とを、様々な比率(A/S)で混合し、これに病原体を感染させ、十数時間培養し、二つのホストの比率(A/S)がどう変わっていくかを測定しました。

誰もが互いに近づける空間構造の無い場合(よく混ぜた液体)と、空間構造が有る場合(寒天の中)との2つの環境で、上のような感染実験が行われました。すると、空間構造のある時に、「感染ですぐ自殺するホストA」と「増殖を許すホストS」の比(A/S)が、二桁も上昇することが発見されました。これは、「感染ですぐ自殺するホスト」が「増殖を許すホスト」より相対的に有利でありうること、つまり「利他的な死による感染防御」が成り立つことを示しています。空間構造が必要なのは、自殺型ホストの死によって感染を免れるのが、その近くにいる同じ自殺型のホストだからでしょう。

この実験結果は、進化ゲーム理論(非線形力学系)タイプの数理モデルにもとづく大規模なシミュレーションによって、再現できました。これらのシミュレーションでは、1億の升目をもつ二次元の格子で感染が再現され、ヒトゲノム解析センターのスーパーコンピューターが駆使されました。

これらの結果は、病原体の高い毒性を考える上で、ホスト側の因子という新しい視点を提供します。ヒトではヒトゲノム側の遺伝子ということになります。また、1億ものホストを扱える、大規模集団感染実験と大規模シミュレーションを連結した系は、今後、感染の様々な問題を解析するのに役立てられるでしょう。

本研究は次の研究者の協力によって行われました。

福世真樹a,b,佐々木顕c,d,小林一三a,e,f

a:東京大学大学院新領域創成科学研究科・メディカルゲノム専攻
b:日本学術振興会特別研究員DC
c:総合研究大学院大学先導科学研究科・生命共生体進化学専攻
d:オーストリア国際応用システム解析研究所・進化生態プログラム
e:東京大学医科学研究所
f:東京大学大学院理学系研究科・生物化学専攻

発表雑誌: 

Scientific Reports (January 30. 2012)
Success of a suicidal defense strategy against infection in a structured habitat.
Masaki Fukuyo, Akira Sasaki, Ichizo Kobayashi.

問い合わせ先: 

小林一三
大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 教授 
及び 医科学研究所 連携教授
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1 東京大学医科学研究所内(2号館2階)
電話:03-5449-5326   FAX:03-5449-5422
E-mail: ikobaya@ims.u-tokyo.ac.jp
URL: http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ikobaya

用語解説:

ホスト:宿主。微生物に感染された生き物。微生物に場を与える生き物。人が風邪を引いているときに、その人は風邪を起こすウイルスのホストです。

利他的な死:集団中の一個体の死によって、その集団の他個体の存続可能性が高まるとき、利他的な死と言えます。利他的な死が成立する理由の一つは、遺伝子の共有です(血縁選択)。この研究の場合、感染で自殺するホストの遺伝子はすべて同一です。

添付資料: 

本文中の図は、以下のURLよりダウンロードできます。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ikobaya/images/hiJa.png




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