新東京大学大学院領域創成科学研究科
二酸化炭素安定炭素同位体の高精度連続計測に成功

発表者

戸野倉賢一(とのくらけんいち)
国立大学法人東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻教授

発表概要

 高感度レーザー吸収分光法を応用し、二酸化炭素の安定炭素同位体の変化をリアルタイムに計測できる可搬型高精度連続計測装置の開発を行いました。従来法では困難であった大気に含まれる二酸化炭素の安定炭素同位体の変化をリアルタイムに計測することに成功しました。

発表内容

 温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の大気中の収支を解明することは、温室効果ガスの抑止を施策するために極めて重要な課題です。二酸化炭素の起源により安定炭素同位体比(δ13C値)*1が異なるため、二酸化炭素の安定炭素同位体比を、現場において高い時間分解能で直接計測できれば、二酸化炭素の排出源や、大気収支を解明するために有用な情報を得ることができ、その排出削減に関する策定が可能になります。天然に存在する二酸化炭素の約1%は13CO2であり、12CO213CO2の同位体比の変化をリアルタイムに、精度よく測定するためには、高感度な微量ガス検出手法の導入が必要不可欠です。これまで、安定炭素同位体の計測は、一般的に同位体比質量分析計を用いて行われてきましたが、気体をサンプリングし、実験室に持ち帰らなければなりませんでした。この方法では、高い精度で計測が可能である反面、サンプリングしてから計測までの時間変化の問題や、前処理が必要、現場での計測が困難、装置が複雑であるといった問題が存在し、これらを克服できる装置の開発が望まれていました。
 そこで本研究チームでは、光通信用に開発された2µm帯の半導体レーザーを光源として用い、Herriott型多重反射セル*2と波長変調吸収分光法*3を基盤とした安定炭素同位体を連続計測可能な可搬型波長変調吸収分光装置を開発しました(図1)。高感度吸収分光法と計測装置の温度圧力等を高精度に制御することにより、高精度な安定炭素同位体比の測定に成功いたしました。新規に開発した装置のδ13C値の計測精度は0.02‰で、安定同位体比質量分析計(IRMS)*4の精度に匹敵します。具体的には、本装置を用いて、東京の二酸化炭素安定炭素同位体比の変化を連続計測しました(図2)。この計測時に3点、大気をサンプリングし、IRMSによる計測を行ったところ、本装置による計測結果と概ね一致し、本装置により、大気中のCO2安定炭素同位体の変化を高精度、リアルタイムに計測できることが立証されました。これにより、地球温暖化防止に対する効果的な施策を講じる際、温室効果ガスの排出挙動の把握ができるようになります。さらには、医療現場における呼気診断、森林生態系における温室効果ガスの収支挙動、火山活動予測といった幅広い分野への応用が期待されます。

●本成果は、科学技術振興機構 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)の一環として得られたものです。

発表雑誌

Applied Physics B: Lasers and Optics誌のオンライン版に掲載されました。
K. Tanaka and K. Tonokura, “Sensitive measurements of stable carbon isotopes of CO2 with wavelength modulation spectroscopy near 2 μm,” Applied Physics B: Lasers and Optics, 105, 463-469(2011)
また、Nature Photonics誌10月号のResearch Highlightsで紹介されています。

問い合わせ先

国立大学法人東京大学
大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻
教授 戸野倉賢一(とのくら けんいち)
TEL:04-7136-4706
Email: tonokura@k.u-tokyo.ac.jp

#共同研究者
田中光太郎 特任研究員(東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻)

#先端計測分析技術・機器開発プログラムでの開発分担者
中野信夫(理研計器株式会社研究部)
杉山浩昭(理研計器株式会社研究部)
高橋けんし(京都大学生存圏研究所)

用語解説:

*1 安定炭素同位体比(δ13C値)
 同位体は同じ原子番号を持つ元素の原子において、質量数が異なる核種であり、放射性同位体と安定同位体が存在する。放射性同位体は電子、陽子、中性子を放出して原子番号が変わるが、安定同位体は自然界に一定の割合で存在する。
 二酸化炭素の安定炭素同位体比は12CO2の存在比(濃度)に対する13CO2の存在比(濃度)である。この値は国際標準試料との比較値で示され、以下の式に従った千分率で表される。

 δ13C = (Rsample – Rstandard) / Rstandard × 1000

ここで、Rsampleはサンプルの13CO2 / 12CO2、Rstandardは国際標準試料の13CO2 / 12CO2で、CO2では0.011237とされている。

*2 Herriott型多重反射セル
 2枚の凹面鏡を同軸に向かい合って配置し、ミラーに施された切欠き部分からレーザーを入射する。レーザー光を、各凹面鏡上にリサジュー曲線を描くように多重反射させ、限られた空間内で光路長を長く確保できるセル。

*3 波長変調吸収分光法
 通常の光吸収法は、光源の強度のふらつきやバックグラウンドノイズにより、吸収媒質の濃度決定の精度を悪化させる。波長変調吸収分光法は、単色の検出光の波長を数kHz以上で変調し、変調した光をヘテロダイン検出することにより、変調周波数の吸収成分のみを検出する。このとき、変調周波数の吸収成分は、吸収物質がない場合ゼロとなり、ゼロバックグラウンド測定が可能となる。波長変調吸収分光法は、バックグランド信号の除去により検出感度の向上ができ、通常の吸収法に比べ、感度はおよそ2桁よくなる。

*4 安定同位体比質量分析計
 水素、炭素、窒素、酸素など軽元素の同位体測定に用いられる。イオン源の手前に、試料から測定元素を抽出するための前処理部分が備えられている。計測精度はおよそ0.01 ~ 0.1‰である。






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