東京大学大学院新領域創成科学研究科
Graduate School of Frontier Sciences, The University of
Tokyo
葉緑体の分裂を担う遺伝子(KUSANAGI)の発見
 植物の細胞で光合成を行う葉緑体が分裂する際には、葉緑体の外側にそれを取り巻くリングが出現し、そこから葉緑体は2つにくびれて切れます。このリングを構成するナノ繊維をつくる遺伝子が見つかりました。立教大学や山口大学、東京大学などの研究チームは、その愛称を「KUSANAGI(草薙)」と名付けました。研究の成果は米科学誌『Science (2010年8月20日電子版) 』に発表され、単離された葉緑体の分裂マシン(リング)の免疫電子顕微鏡写真は、「表紙」を飾りました。また、この成果は朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経産業新聞、時事通信など新聞各社が報じています。

紹介者

河野重行 教授 (先端生命科学専攻)

発表内容

 今回の発見には、平成20年に新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻・植物生存システム分野(指導教官:河野重行)を修了した、吉田大和博士研究員(現立教大学大学院理学研究科)が大活躍しています。彼は、『ゲノム情報とプロテオミクスを基盤にした色素体・ミトコンドリア分裂装置の構造と分子機構に関する研究』で、平成20年度の先端生命の「博士論文特別奨励賞」と新領域の「研究科長賞」を受賞しています。この研究が今回の発見につながりました。
 「草薙」は頭尾が八つある伝説の大蛇、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の尾から出てきた太刀で、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が、東征途上の駿河国で、この神剣によって草を払い野火の難から逃れたことからこの名があります。葉緑体をくびり切る「剣」ならぬ「ナノ繊維」をつくることからこの愛称が決まりました。
 立教大学の黒岩常祥特任教授(東京大学名誉教授)は、植物の中でも原始的で一つの細胞に葉緑体が一つしかない原始紅藻「シゾン」に注目し、その全遺伝情報(ゲノム)の解読に成功しています。また、葉緑体は分裂面の外側に現れるリング状の5〜7ナノメートル幅のフィラメントの束で構成される分裂装置を主体としてフィラメントがお互いに滑ることで、リングが収縮して葉緑体をくびり切ることを明らかにしていますが、このフィラメントの正体はこれまで謎のままでした。今回の発見で分かったのは、フィラメントはグルコースで構成された新規の糖(ポリグルカン)でできており、「草薙」はフィラメントを作り出すグルコシルトランスフェレースの遺伝子(PDR1, glycosyltransferase protein plastid-dividing ring 1)だということです。「草薙」はリングとともにあって、葉緑体が作り出すグルコースをごく細いナノ繊維につなぎ合わせる働きをして、葉緑体の外側に葉緑体をくびり切るリングをつくる遺伝子のことになります。

発表論文

Yoshida, Y., Kuroiwa, H., Misumi, O., Yoshida, M., Ohnuma, M., Fujiwara, T., Yagisawa, F., Hirooka, S., Imoto, Y., Matsushita, K., Kawano, S. & Kuroiwa, T. (2010) Chloroplasts divide by contraction of a bundle of nanofilaments consisting of polyglucan. Science 329 (5994): 949-953.

参考論文

Yoshida, Y., Kuroiwa, H., Hirooka, S., Fujiwara, T., Ohnuma, M., Yoshida, M., Misumi, O., Kawano, S. & Kuroiwa, T. (2009) A bacterial ZapA-like protein ZED is required for mitochondrial division. Current Biology 19: 1491-1497.

Yoshida, Y., Kuroiwa, H., Misumi, O., Nishida, K., Yagisawa, F., Fujiwara, T., Nanamiya, H., Kawamura, F. & Kuroiwa, T. (2006) Isolated chloroplast division machinery can actively constrict after stretching. Science 313 (5792):1435-1438

添付資料

葉緑体をくびり切るリングの免疫電子顕微鏡写真 リングは細いナノ繊維でできていて、黒い粒子は「KUSANAGI(草薙)」が存在する場所を示しています。(黒岩常祥立教大学特任教授提供)

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URL立教大学プレスリリース
葉緑体分裂のしくみ解明:分裂ナノマシン本体の遺伝子(KUSANAGI)発見


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