新東京大学大学院領域創成科学研究科
トポロジカル超分子の実用化に成功
東京大学大学院新領域創成科学研究科記者会見 (2009年11月10日)

発表者

伊藤 耕三(東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授)
原  豊(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社・代表取締役社長)
山中 雅彦(アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社・取締役)

概要

 ロタキサンやカテナンなど幾何学的拘束によって分子集合体を形成しているトポロジカル超分子は、分子スイッチや分子モーターなどとしての興味から世界中で盛んに研究されています。今回、東京大学、アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社(以下ASM)および日産自動車株式会社(以下日産)の3者は共同で、東京大学大学院新領域創成科学研究科 伊藤耕三研究室で発見されたトポロジカル超分子、具体的には高分子の架橋に関する原理(超分子ネットワーク)とそれを利用した分子(スライドリング マテリアル)を通常の塗料に組み込んだところ、伸縮性や耐傷特性などについて著しい効果が得られ、塗装がはがれにくく、表面の美しさがより長持ちするという特長が得られることを発見しました。本技術は、日本電気株式会社(以下NEC)によって同社製の携帯電話に採用され、株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下ドコモ)より発売予定です。私どもは、トポロジカル超分子の研究成果を、世界で初めて実用化することに成功しました。

内容

図1.超分子ネットワークの模式図
図1.超分子ネットワークの模式図

 ひも状の巨大分子である高分子は、繊維や衣料品、プラスチックやゴム、生活用品や食品など我々の身の回りで頻繁に使われている材料です。この高分子材料の特性を変える代表的な方法として、ひも状の高分子を化学的に結合(架橋)し、ネットワークを形成することがよく行われています。高分子の架橋は、古くは1839年のグッドイヤーによる架橋ゴム(タイヤへと発展)に端を発し、現在まで盛んに利用されてきました。2000年に、東京大学大学院新領域創成科学研究科 伊藤耕三研究室では、高分子(ポリエチレングリコール)と環状分子(シクロデキストリン)から構成されるネックレス状分子をまず作成し、次に環状分子同士を架橋することによって、図1のように架橋した部分が自由に動く超分子ネットワーク(環動高分子材料、スライドリングマテリアル、SRM)を世界で初めて合成することに成功しました。本構造の基本特許は、東京大学TLOを通じて出願され日米欧中ですでに成立しています。ちなみに、このネックレス状の分子はポリロタキサンと呼ばれており、大阪大学大学院理学研究科の原田明教授らによって1990年ごろに世界で初めて合成されたものです。

図2.a)通常の架橋とb)超分子ネットワークの架橋の比較。
図2.a)通常の架橋と
b)超分子ネットワークの架橋の比較。
  架橋点が自由に動けると、高分子材料の力学特性は実に大きく変わります。図2に模式的に示したように、従来の高分子材料では架橋点が固定されているために、外部からの張力が最も短い高分子に集中して順々に切断され、容易に破断することになりました(応力集中)。これに対して、環動高分子材料では、高分子は架橋点を自由に通り抜けることができるため、張力を分散し均一に保つことができます(応力分散)。架橋点の分子が滑車のように振舞うことから、この協調効果を滑車効果と名付けました。

  東京大学、ASMおよび日産の3者は共同で、このネックレス状の分子を、塗料に組み込んだところ、伸縮性や耐傷特性などについて著しい効果が現れることを発見しました。通常の塗料は、高分子同士を化学的に架橋するなど、いわば高分子を「固定」することによって強度を出しているのですが、それによって逆に伸縮性が失われるという欠点がありました。これに対して今回は、分子の滑車を導入することにより、顕著な伸縮性や応力緩和性を実現できたというのが、これまでと大きく異なる特徴になっているわけです。本技術は、NECによって同社製の携帯電話に採用され、2010年1月にドコモより発売予定です。

 図1のような幾何学的に拘束された分子集合体は、トポロジカル超分子と総称されており、現在世界中で盛んに研究されている新しい研究分野です。私どもは、トポロジカル超分子の研究成果を、世界で初めて実用化することに成功しました。

参考URL参考情報 URL: http://www.molle.k.u-tokyo.ac.jp/research/supramolecule.html

問い合わせ先

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 教授 伊藤 耕三
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉5-1-5 基盤棟 603
Tel: 04-7136-3756 e-mail: kohzo@k.u-tokyo.ac.jp

用語解説

ポリエチレングリコール
代表的な水溶性高分子。生体安全性・適合性が高いことで知られており、化粧品や医薬品などに広く利用されている。
シクロデキストリン
環状オリゴ糖。α(グルコースの6量体)、β(7量体)、γ(8量体)の3種類が市販されており、それぞれ内径が、0.45nm、0.5nm、0.7nmの極小環状分子である。内側が疎水性、外側が親水性のため、水中で疎水性の分子を中に取り込むことが知られている(これを包接と呼ぶ)。食品、医薬品などに広く利用されている。
ポリロタキサン
ひも状高分子が多数の環状を串刺しにし、環状分子が抜けないように両末端を大きな分子で留めたネックレス状の分子集合体。トポロジカル超分子の代表例であり、1992年に大阪大学原田明教授らによって世界で初めて合成された。
超分子ネットワーク
環状分子がすかすかになっているポリロタキサンをまず用意し、異なるポリロタキサン中の環状分子を結合して作成した高分子材料。架橋点が自由に動けるために、外部からの張力が分散される点が特徴になっている。これを滑車効果という。水を含んだゲル材料の場合には、24倍にも及ぶ高い伸長性、24,000倍という世界最高の膨潤性を示す。2000年に東京大学伊藤耕三教授・奥村康志博士によって世界で初めて合成された。ソフトコンタクトレンズや眼内レンズ、人工軟骨・関節などへの応用も期待されている。
トポロジカル超分子
異なる種類の分子が2つ以上集まって比較的弱い相互作用によって結合し、それぞれの分子が単独のときには出せなかったような新機能・高秩序を生み出す分子集合体を超分子という。その中でも、ポリロタキサンのように幾何学的拘束によって分子集合体を形成している超分子をトポロジカル超分子と呼んでいる。 他に、知恵の輪状になった分子集合体(カテナン)などが知られている。




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