新東京大学大学院領域創成科学研究科
不滅の超利己的な遺伝子

発表概要

 超利己的な遺伝子である「ホーミング・エンドヌクレアーゼ遺伝子」が、きわめて利己的なふるまいにもかかわらず、生き物の集団の中で長期にわたって絶滅しないで存続することを、数理モデルとシミュレーションによって示しました。

発表内容

 ヒトなどのゲノムの中には、ウイルスのような「利己的な動く遺伝子」がたくさんいることが、ゲノム解読から解ってきました。これらは、ある時に爆発的に増え、その後は壊れていくだけのように見えます。

 その中でも「超利己的な遺伝子」として有名なのが、「ホーミング・エンドヌクレアーゼ遺伝子」です。この遺伝子は、ゲノムDNAの特定の場所に入り込んでいて、まだその場所に自分と同じ遺伝子が入っていないゲノムと出会うと、その場所でそのゲノムDNAを切断します。そして、生き物が備えた修復のしくみを利用して、「自己の遺伝子をコピーさせて、その切断を修復させる」ことによって、そのゲノムに乗り移ります(図1)。乱暴かつ狡猾なひろがり方です。


図1:超利己的なホーミング・エンドヌクレアーゼ遺伝子

 この超利己的遺伝子は、「たちまち全てのゲノム(個体)に広がって、入り込む場所がなくなってしまい、後は、役に立たないので壊れていくだけ」と考えられてきました。集団の外から新たに遺伝子が入ってこない限り、集団から消えていく定めというわけです。

 本当にそうでしょうか?この研究では、酵母の減数分裂で移動するホーミング・エンドヌクレアーゼ遺伝子のふるまいをモデル化し、数理解析とシミュレーションを行いました。その結果、定説の予想に反して、「この超利己的遺伝子が長期に存続する」という結果が得られました。





図2:超利己的遺伝子の存続サイクル
 これは、次のようなしくみによるものでした(図2)。

(1)まず、「生きた超利己的遺伝子」が、ゲノム(個体)に広がっていきます。

(2)次に、「壊れた超利己的遺伝子」が入っていると、「生きた超利己的遺伝子」に攻撃されることがありませんので、「壊れた遺伝子」が広がっていきます。これは、ウイルスに対するワクチン(予防接種)のような効果です。

(3)ところが、「生きた超利己的遺伝子」が少なくなると、「壊れた超利己的遺伝子」は、御利益が無くなるのにコストがかかるので、しだいに消えていき、この場所が空になったゲノム(つまり、この場所に「生きた遺伝子」も「壊れた遺伝子」も入っていないようなゲノム)(図1左の下)が増えていきます。

  すると、空になった場所に、再び「生きた超利己的遺伝子」が入り込んで、ひろがっていきます(1)。

 このような三つ巴のサイクル(リミットサイクル)の中で、この超利己的遺伝子は長期間存続するのです。

 この結果は、この超利己的遺伝子だけでなく、利己的な遺伝子一般を考える上での理論的な出発点になるでしょう。

 今回用いた方法は、物理科学、社会科学、生態学で使われている「非線形の力学系(進化ゲーム理論)」によるポピュレーション・ダイナミックスの手法を、「遺伝子対ゲノム」の進化に適用したものです。

 次の研究者によって行われました。
 矢原耕史(久留米大学大学院医学系研究科・博士課程大学院生)
 福世真樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻・博士課程
大学院生)
 佐々木顕(総合研究大学院大学 生命共生体進化学専攻・教授)
 小林一三(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻・教授/
医科学研究所・連携教授)

発表雑誌

Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
(PNAS, 米国科学アカデミー紀要)
Koji Yahara, Masaki Fukuyo, Akira Sasaki and Ichizo Kobayashi. Evolutionary maintenance of selfish homing endonuclease genes in the absence of horizontal transfer.

問い合わせ先

小林一三 教授
大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 及び 医科学研究所
〒108-8639 東京都港区白金台4-6-1 東京大学医科学研究所内(2号館2階)
電話:03-5449-5326 FAX:03-5449-5422 E-mail:ikobaya@ims.u-tokyo.ac.jp
URL:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ikobaya




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