新東京大学大学院領域創成科学研究科
海難事故のフリーク波解析
第3回東京大学大学院新領域創成科学研究科定例記者会見

発表者 

早稲田 卓爾 准教授
(大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻)

発表概要

 外洋に突発的に現れるフリーク波は、海洋波の波長と進行方向がそろう、特殊な海象条件下で発生しやすいことが、水槽実験や、フリーク波との遭遇が要因として考えられる海難事故時の波浪場の再解析により、解明された。将来のフリーク波の発生予測につながる基礎的な研究の成果は、Natureの注目記事に選ばれるなど、関心も高い。

発表内容

  1. フリーク波とはなにか

 外洋に突発的に現れるフリーク波(Freak Wave)は、Rogue Wave、Mad-dog Wave(瘋狗浪)、そして三角波と様々な呼称を持つ。90年代には、北海油田での現場計測や衛星観測により、波高30mに及ぶ巨大波が発見された。フリーク波の発生頻度はおよそ3000波に一波と言われているが、特殊な海況では、より頻繁に発生していると考えられる。波形にも特徴があり、いくつかの波が群をなして進行するとも言われる。

  1. 発生機構(水槽実験、理論など)

 フリーク波発生理論の基盤となる、水面の非線形波動理論は、プラズマ物理や光学など分野を越えて応用される。ところが、水面の非線形波動研究で扱われている波浪場は、平均的な海洋波の姿とはほど遠い。そのジレンマは、海洋波の多方向性を考慮することで解決する。2006年東大生産技術研究所の海洋工学水槽で行った水槽実験が、世界で初めて、波の進行方向がそろう特殊な海象条件で、フリーク波の発生頻度が上昇することを明示した。

  1. フリーク波発生仮説

 前述の研究成果を踏まえ、我々は次のような仮説を提案する。
「特殊な気象条件や海流の影響により、海洋波の波長がそろい、波の頂が長くなるとき、フリーク波の発生頻度が高くなる」
仮説の立証の為、海難事故時の波浪場の再解析を行った。

  1. 海難事故時の波浪解析

 多くの海難事故の原因は、複合的であり、必ずしもフリーク波との遭遇が大惨事にいたるとは限らない。また、転覆などの大事故が起こったことが、即座にフリーク波との遭遇を意味する訳でもない。その前提で、過去の海難事故時の波浪場を解析する。
 第一の事故事例は、1980年12月に起こった尾道丸の事故である。大型貨物船の船首が折損するほどの衝撃加重は、波高が20mを超える大波に乗り上げた後、船首船底がたたきつけられるスラミングという現象によるものと考えられた。当時は、フリーク波に関する知見が無く、そのような大波の発生は、二つのうねりが交差したことが要因であると海難審判庁は結論付けた。東京大学因和久は修士研究で、尾道丸事故時の波浪場を再解析した1)。その結果、事故発生時、現場付近では、波長がほとんど変わらずに波高のみが成長し、方向性も狭くなるという、フリーク波発生仮説と良く合う海況であり、うねりの混在という憶測は誤っていることが判明した。
 第二の事故事例は、2008年6月に起きた第58寿和丸の転覆事故時の海況解析である。転覆の直接の原因は判明していないため、漁船がフリーク波に遭遇したという証拠は無い。しかしながら、事故当時の波浪場は、やはりフリーク波発生仮説と一致し、波長と波向がそろう傾向に有った。そのような波浪場は、梅雨前線に沿って生成したうねりと、低気圧で生成された風波の間のエネルギー交換によることがわかり、特殊な気象条件下で、フリーク波が起こり易い状況になっていた可能性を示唆する。

  1. 観測・予測計画

水槽実験や海難事故時の波浪場の解析結果から、発生機構の理解は飛躍的に進んだ。しかしながら、フリーク波の外洋での実測例は限られる。そこで、東京大学は海洋研究開発機構の定点観測ブイ(K-Triton)を利用して、波浪計測を行うことを計画している(8月末投入予定)。この観測により、長期間にわたって、外洋における波形の時系列計測が可能となり、フリーク波の発見、そして、危険指標の精度向上が期待される。東京大学海洋技術環境学専攻と海洋研究開発機構は、連携大学院協定に基づき、フリーク波の発生メカニズム解明の為の研究などを共同で実施する予定である。

 

発表雑誌

(会議発表予定)ISOPE-2009 Osaka: 19th(2009)International Offshore (Ocean) and Polar Engineering Conference, June 21-26, 2009: In, Waseda, Kiyomatsu, Tamura, Miyazawa and Iyama, Analysis of a marine accident and freak wave prediction with an operational wave model

問い合わせ先

大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻
准教授 早稲田卓爾
(柏/居室) 04-7136-4885
(柏/研究室)04-7136-4880
E-mail : waseda@k.u-tokyo.ac.jp

用語解説

波浪場の再解析
過去の風の場の変化をもとに、波高、波向きや、波長の分布を数値シミュレーションにより推定する。気象庁が行っている、波浪予報と同様の手法。
非線形性波動
水面の波は、振幅が大きくなると、異なる波同士でエネルギーを交換しあうようになる。その結果、波形が変調し、周囲の波に比べて大きな波が生成されることが、1960年代からわかっている。
うねり
海洋の波は風で生成されるが、遠方の風の場で生成され伝播してきた波のうち、波の進行速度が風速を超える、もしくは、波向きが大きく風向きと異なる場合、その波をうねりと呼ぶ
三角波
おそらく、日本の漁師や船乗りの間では一般的な言葉で、必ずしもピラミッド状の波形を表すわけではなく、突発的に現れる波のことを指していると思われる。フリーク波という言葉は、日本の船員たちには浸透していない。

添付資料

数値シミュレーションによるフリーク波の危険指標を図示した例

添付1

フリーク波危険指標の時間変化(尾道丸)、右下が最も危険

添付1




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