東京大学大学院新領域創成科学研究科
Graduate School of Frontier Sciences, The University of
Tokyo
カイコを誘引する桑の葉の香りとそれを感知する嗅覚受容体を特定

内容

カイコは、絹生産に欠かせない生物であるとともに、日本人にとっても 親しみ深い身近な昆虫のひとつです。今回、私たちは、日中共同プロジェクトで カイコゲノムの解読が終了したことをうけて、カイコが桑の葉の香りに引き 寄せられるときに働く嗅覚受容体(匂いのセンサータンパク質)を同定する ことを目指しました。私たちが興味をもったのは、以下の点です。カイコ は、桑の葉からでる単一の香りに引き寄せられているのか?それとも複数の香りの組み合わせを感じているのか?そし て、それらの香りを単一の嗅覚受容体で認識しているのか?それとも複数の受容体の組み合わせを信号として感知しているのか?

ガスクロ質量分析計による匂い分析とカイコの誘引行動アッセイ(どれだけ 引き寄せられるか)をおこなったところ、桑の葉から微量に放出さ れている シスジャスモンという香りに強力な誘引活性があることがわかりました。も ともと、シスジャスモンは、ジャスミンの花の一成分として見つかった匂い物質で、シスジャスモン自体もジャスミン様の香りを 呈します。次に、シスジャスモンを感知する嗅覚受容体を探索しました。カイコゲノム上に存在す る66個の嗅覚受容体遺伝子のうち、 カイコの触角など嗅覚組織で発現している嗅覚受容体は23個あり、これらの嗅覚受容体をすべてアフリカツメカエル 卵母細胞に発現させて機能解析をおこなったところ、ひとつの嗅覚受容体 BmOr56が シスジャスモンに対して高感度かつ特異的応答を示しました。

BmOr56が誘引行動に重要な嗅覚受容体であるかどうかを検証するために、8 種類のシスジャスモン構造類似化合物を用いて、 BmOr56の構造活性相関と、誘引活性の強さの比較をおこないました。すると、その8種類の物質に対する BmOr56の応答性と誘引活性は完全に一致しました。この結果は、カイコが桑の葉に対して誘引行動をひきおこすのに重要なのは、シスジャスモンと BmOr56の結合であり、すなわち、カイコの場合は、単一の香り物質と単一の嗅覚受容体が、桑の葉への誘引行動に関わっている可能性を示唆しています。進化の過程で、このような特異的な香りと受容体の組み合わせが生まれてきたことはとても興味深いことです。今後、クワコのような野生に近い種 でどうなっているか解析する予定です。

カイコの桑の葉への誘引行動は、もう科学的に理解できていると信じら れていましたが、過去に報告されていた候補物質は、誘引活性も弱く、受容体レベルでも行動との相関は見出せませんでした。そして、今回、カイコの桑の葉への誘引行動に関わる匂い物質と嗅覚受容体の解析を詳細におこなったところ、シスジャスモンという単一の匂い物質に強力な 誘引活性を示し、その誘引活性は、単一嗅覚受容体レベルで見事に相関がでました。近年の分子生 物学の進展に伴い、カイコの桑の葉への匂い誘引行動を、分子レベル、センサーレベル、そして脳神経レベルで理解するための第一歩を踏み出すことができた成果といえると思います。

このようなカイコの行動や摂食に関する研究は、応用面として、カイコをより効率よく育てるための技術に役立つ可能性があります。また、カ イコだけでなく、作物生産にとって害虫となるような食草性の昆虫が、 ホスト植物のどんな匂いに誘引されるか、そしてその匂いを感知する受容体を明らかにすることができれば、その機能をブロックすることによって、害虫の行動制御をすることができると期待されます。photo

発表雑誌

Tanaka, K., Uda, Y., Ono, Y., Nakagawa, T., Suwa, M., Yamaoka, R.,
and Touhara, K.* "Highly selective tuning of a silkworm olfactory
receptor to a key mulberry leaf volatile" Current Biology誌 平 成2 1年5月8日オンライン掲載

詳細情報は以下の研究グループのホームページを参照ください
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/molecular-recognition/touhara/kyukaku.html

問い合わせ先

東原 和成 (とうはら かずしげ)
東京大学 大学院 新領域創成科学研究科
先端生命科学専攻 分子認識化学分野
〒277-8562 柏市柏の葉5-1-5 東京大学 新領 域 生命棟 201
Tel) 0471-36-3624, (Fax) 0471-36-3626, Email: touhara@k.u-tokyo.ac.jp

 

 

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