擬態を制御する機構:幼若ホルモンがアゲハ幼虫の擬態紋様を切り替える

2008年2月29日

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 教授 藤原 晴彦
同客員共同研究員(農業生物資源研究所・学術振興会PD) 二橋 亮

発表内容

昆虫は、外敵から身を守ったり、獲物を捕えたりするために、さまざまな方法で自らを他に似せる「擬態」を行なっている。擬態に関する研究は生態学・行動学的な面から進められているが、擬態を作り出す分子メカニズムついては、これまでほとんど明らかにされていない。
アゲハの幼虫は4齢幼虫までは白と黒からなり、鳥のフンに擬態している(図1)が、5齢になると全身が緑色になって食草に似た隠蔽色(図2)になる。これは、一つには鳥のフン紋様のまま成長するとかえって目立ってしまうためではないかと考えられている。
今回、我々はアゲハ幼虫の擬態紋様の切り替えが、幼若ホルモン(JH)によって制御されていることをつきとめた。アゲハの4齢幼虫初期にJH処理を行うことで、高い割合で鳥のフン型の5齢幼虫が得られた。また、JH処理の時期を遅らせると鳥のフンと隠蔽色の中間的な紋様を持つ個体も得られた。アゲハの体液中のJH濃度の測定を行ったところ、4齢幼虫になってから減少することが確認された。JHの影響を遺伝子レベルで解析したところ、JHは幼虫全体の緑色の着色だけでなく、表面の突起構造や目玉模様などの色素分布も調節していることが確認された。
以上の結果から、JHの濃度に応じてさまざまな遺伝子の発現パターンが一斉に切り替わり、鳥のフンから隠蔽色へと劇的に擬態紋様を切り替えるモデルが考えられた。発生途中に幼虫の紋様を変化させる種類は多く存在することから、JHによる幼虫の紋様変化の制御は一般的な現象である可能性が考えられる。

発表雑誌
Science誌、2008年2月22日号(319号、1061)に掲載
 “Jevenile Hormone Regulates Butterfly Larval Pattern Switches”, R. Futahashi, and H. Fujiwara.

問い合わせ先

藤原 晴彦
(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授・先端生命科学専攻)
TEL:04-7136-3659  FAX:04-7136-3660  Eメール:haruhatk.u-tokyo.ac.jp

参考図

図1
図1: 鳥のフンに擬態するアゲハ4齢幼虫(上が幼虫、下が鳥のフン)

図2
図2:アゲハの5齢幼虫(中央)

 

 

 

▲このページの先頭へ

All Rights Reserved, Copyright(C), Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo