21世紀の生命科学は、ゲノムを抜きにしては語ることができない。現在、ヒトをはじめとするさまざまの生物種において遺伝情報の全容が明らかにされつつある。今まさに、ゲノム情報を基盤とした新しい生命像が誕生しようとしている。遺伝情報に関する研究成果の最大の活用が、人類の健康に直結する医学である。癌をはじめとするヒトの疾病の原因の多くが遺伝子の損傷に由来することが、分子生物学的な研究等によって明らかにされつつある。20世紀の医学はヒトの観察からその病理・病態を解析するアプローチであったが、現在は遺伝情報から疾患の発症を予測する医学へと急速に変貌しつつある。メディカルゲノム科学とは、ヒトのゲノム情報の多様性と疾患との関係を明らかにし、先端医療へとtranslate(翻訳)することを目指す新しい学問分野である。2003年にヒトの全遺伝情報が決定され、ゲノム研究は新たな局面の展開を加え、ゲノム・エピゲノム等の情報から病理・病態を解き明かす方向に急激な勢いで進展している。
現在、米国が医学生物学分野でリーダーシップを発揮している土台は、基礎生命科学と医科学との間での活発な人材や知識の交流にある。この相互交流は、旧来の学問領域にこだわらず、生命科学を俯瞰し自在に横断できるチャレンジ精神に富む人材を育成してきたことによる。こうした人材が米国のバイオ産業を支えており、またバイオベンチャーの活発な創業をもたらしている。我が国においても、基礎的な生命科学の研究を医療分野へと展開する橋渡し研究(Translational
Research)の推進と、それを担う研究者層を創出することが急務である。
メディカルゲノム専攻では、ゲノム研究などの基礎的な生物学を先端医療と結び付ける新しい医科学分野を開拓する人材の育成を使命とし、人類の健康と福祉に貢献する先端医療の研究推進を目標としている。グローバルな視野を持ちベンチャースピリットに溢れた生命科学の研究者となることを希望する学生の参加を歓迎している。本専攻の修学を終えた学生は、単に日本のみならず世界のポストゲノム研究・産業の未来を開拓するものと期待している。
また、本専攻の教育現場では、医科学研究所のヒトゲノム解析センターや探索型病院と連携しつつ、ゲノム、プロテオーム、モデル生物についての基礎生命科学研究と先端医療の連結した研究教育を予定している。また、基礎研究におけるシーズをもとに積極的に産学連携を進めている教員も多く、バイオベンチャーの現場を実感させる教育も可能である。