研究紹介

本研究室では、低次元スピン系、フラストレーション系、スピン・クラスターなど、量子効果の強い磁性体における新しい状態を、物質合成・バルク物性測定・ 中性子散乱の3つの手法を用いて研究しています。図にフラストレーション系の研究例を示します。量子臨界点近傍に位置する三角格子反強磁性体CsFeCl3において、位相揺らぎと振幅揺らぎの混成によるハイブリッド励起を圧力下中性子散乱実験により観測し、その起源を解明しました。また、運動状態の圧力変化から、量子臨界点をまたぐことでスピン熱伝導が大きくなることやスピン波の速さが大きくなることが予想されました。このことから、圧力による熱流やスピン流の制御の可能性が示唆されました。

益田研究室 研究紹介

 

図:(A)-(C) さまざまな圧力下で測定されたCsFeCl3の中性子スペクトル。大気圧下(A)と0.3ギガパスカル(B)では1本のスペクトルが観測されたが、量子臨界点近傍の1.4ギガパスカル(C)では複数の特徴的なスペクトルが観測された。
S. Hayashida et al., Sci. Adv. 5, eaaw5639 (2019).

益田研究室 研究紹介

 

図:(D),(E)中性子スペクトルの計算結果。位相モードと振幅モードの混成を考慮した計算(D)は実験(C)を再現するが、考慮しない計算(E)は実験(C)を再現しない。
S. Hayashida et al., Sci. Adv. 5, eaaw5639 (2019).

メッセージ

世界で初めて何かを成し得ることの面白さ。物理という広い大海原で、新しい知識を見つけた時の達成感を味わって欲しい。

物理は、より基本的なところから、少ない知識の中でどう理解を深められるかがポイントで、研究は学生の自主性を大切にしています。 私たちが用いている最も特徴的な実験手法は中性子散乱です。この手法は、対潜水艦戦と似ています。広い大海原に潜んでいる潜水艦の位置を事前調査で十分に把握し(勉強し)、敵の位置が掴めたら短期決戦で勝負(実験)をかけます。予想通り敵潜水艦をやっつけたとき(量子現象を観測したとき)の達成感は大変大きいです。 また、古典物理学では説明のつかない量子現象を扱えるのが量子スピン系研究です。現在量子スピン系では、従来のスピン秩序変数だけでは説明できない新しい量子状態の存在が予想されており、これらを世界に先駆けて実験的に観測することを目指しています。国内の他に海外の研究者との交流も可能です。

物質系専攻を志す学生へ

当研究室は、新しい物質合成に興味のある人、新しい量子現象を観測してみたい人、実験装置を作ってみたい人、大型施設で実験してみたい人、海外で実験をしてみたい人には最適の研究室です。

プロフィール

益田 隆嗣 准教授

益田 隆嗣 准教授

1996年 東京大学工学部物理工学科卒

1998年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了

1999年 東京大学大学院新領域創成科学研究科助手

2002年 オークリッジ米国立研究所ポスドク研究員

2005年 横浜市立大学国際総合科学研究科准教授

2010年 東京大学物性研究所准教授

学生の声

長谷川 舜介

長谷川 舜介 さん

益田先生は研究だけでなく学生に対しても真摯に向き合ってくれます。研究でわからないことはわかるまで教えてくれますし、学生のアイディアを深く理解し、より現実的な手段としてフィードバックしてくれます。

益田研究室は各々が自分のペースで研究を進めています。一方で、毎週の報告会や日々の会話から研究の指針を得ることも出来ます。入念な準備の下に行う中性子散乱実験で、新しい現象を見つけた時の達成感は富士山登頂級です。


物質系専攻を志す学生へ

物質系専攻には、物質をキーワードに様々なバックグラウンドを持った人が集まります。ここで出会う異分野の友達や知識によって、今までにない新しい視点を得られることが強みの一つだと思います。

研究室訪問

  • 04-7136-3415
  • 277-8561
  • 千葉県柏市柏の葉5-1-5
  • 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
  • 益田隆嗣准教授研究室
  • masuda@issp.u-tokyo.ac.jp